浅尾くんの告白から一晩が経ち――
おそらく、彼としては、“言ったまま”ではいられないだろうし、会話も中途半端なところで切ってしまった感じだったから、後に何かを言ってくる気配はあった。
ただ、仕事の接点が一つもない、浅尾くんと私には、昨日のように二人になる時間など、あるはずがない。
互いの席の近くを通り過ぎる際、視線を感じる事はあるけど、不用意に声は掛けない。
少なからず、浅尾くんの気遣いを感じていた。
私は、その日その日を、無事に過ごす事だけを考えていた。
平穏が一番だから。
何事もなく、一日が終わるかと思われたが――
社員全員に、訃報が届いた。
総務部に在籍していた、男性社員が、入院先で亡くなったという知らせだった。
50代後半くらいの人で、社内のパソコンの管理やシステム全般を担当していた。
しかし…不調を訴え、入院してから間もなかったはず。
会話も殆どした覚えがないせいで、同じ会社内の人が亡くなったとはいえ、悲しみの実感はない。
けれど、人の“死”というものは、胸に重くのしかかる。
亡くなった私の父と、故人とは年齢も近くて、当時の自分を思い出し辛くなった。
*
翌日の通夜は、マンションの集会所で行われた。
総務部の人は皆、手伝いやらで一足先に出掛けて行った。
他の部署は、それぞれで行く事になっていて、数台の営業車に分乗していく人や、電車と徒歩で向かう人など、いくつかに分かれた。
当然…というか、中井さんやベテラン社員は、車に乗せてもらい、多部井さんは竹下さんが運転する車に、武内課長と共に乗っていった。――なんとも、複雑な関係だ。
岩田さんに関しては…案の定、私の事は丸で無視で、若い男性数人を連れて行ってしまった。
もう、特には期待してなかったけど、寂しいと感じる。
私は、由里ちゃんと加藤さん、神崎さんらと、電車と徒歩でゆっくりと向かった。
通夜の手伝いが無いから、時間に遅れずに行けば良いという感じ。
先に着いていた会社の人たちは、とうに焼香を済ませ、何人かが控室に移っていた。
焼香をあげて、すぐに帰ってしまう人が殆どで、少ない人の中、物悲しさを感じながら、記帳をしに受付に向かう。
受付を前に、私は足を止めてしまった。
手伝いなのだから、そこにいて当然なのだろうが、田浦さんが立っている。
鈴木さんと二人で受付をしていて、私は無意識に、田浦さんの列に並んでいた。
「椎名くん! どうしてそっち!? 私と替わりなって」
加藤さんがボソボソと言ってきて、二人は素早く場所を入れ替わる。
身内と近所の人を含めても、多分、30人もいなかった。
本社の全員が出席したから、本来ならばもっと人がいて良いはずなのに…。
辺りを見回せば、会社関係で残っているのは、各課の代表らしい、部課長だけ。
希薄な人間関係を象徴するかのような、寂しい通夜。
そういう社風だと、誰もが知っているから、何も言わない。
私達は、終わりまで残っていたのだが、「帰ってしまえば良かった」…と思う場面を見てしまった。
・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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