【92】告白の後 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


表情を硬くして、「好き」だと言った浅尾くんを、驚いて見つめていた。
上手く理解出来なかったが… 確かに、私の事を言ったはず。


「え……? えーと…」


ナンダ、コノ ジョウキョウ ハ。

笑って誤魔化せるはずもなく、無意味に箱の中の不要書類を纏めて…。


ガチャン! と事務所の重めの扉が開き、同時に元気に挨拶をする声が聞こえた。
そこから、私と浅尾くんのいる場所は近い。


「椎名くん、お待たせー! まだ終わってないよね? ――っと…」


加藤さんが笑顔のまま、走ってくる。
すぐ近くにいた浅尾くんに気付くなり、「ヤバイ」と顔に書いたような表情になった。

二人が笑って話しているならともかく、漂う雰囲気で、意味有りげな空気を読み取ったのかもしれない。


「あー、あの…。もしや、お邪魔でした?」


三人とも同じ歳なのに、急に敬語になる。
頬をやや引きつらせて、私ではなく、浅尾くんに声を掛けた。


「…じゃないよ! ボスが、浅尾くんを探してたよ。相当なご立腹で――」


思い出したように言うが、加藤さんが言い終わらないうちに、笹原さんから呼び出しの放送があった。


『浅尾くん、いるのー!? 何処うろついてんのよ! 早く出ろ!!』


倉庫内に響き渡る。女性なのに野太い声。あまりの声量に、音が割れている。
かなり苛立った様子に、浅尾くんは驚いて、壁掛けの電話を取り上げた。

苦し紛れに言い訳をしている浅尾くんを横目に、加藤さんは興味津々。


「なーに? 彼と何かあった?」
「ないない! あるわけないじゃん」
「そう? 何か様子がおかしかったけどなぁ」
「それは…あの事を聞かれて、ちょっとだけ話してたの」


加藤さんとボソボソ話していたが、浅尾くんが電話を置くのと同時に強制終了。


「――じゃあ、戻るよ。 ごめんね、いきなり」


笹原さんの小言に息をつき、私達に顔を向けた。
加藤さんが来てしまった手前、彼は“何も言わなかった”事を装った。私も勿論、さっきの事は、誰にも言うつもりはないから、頷いて見せる。


「しっかし、浅尾くんも頑張るね。ボス相手に、音を上げないとは」
「そうだね。よく喰らいついていってると思うよ。武者修行も、楽じゃないよね」
「だねー。…だから、やっぱり何かあった?」
「いや、だから…!」


疑わしいという眼差しで、じとーっと見てくる加藤さんに曖昧に笑う。

でも、加藤さんが来てくれて良かった。
あのままでいたら、どう話せば良いのか判らなかった。

とはいえ、浅尾くんの想いが、ひび割れていた私の心に少しだけ、潤いを与えてくれたことには間違いなくて、ほんのりと温かく鼓動を打っている。

耳に少し熱を持たせたまま、残りの書類を二人で裁断機にかけていった。




・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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