【91】見過ごせない | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


優しさから「話を聞く」と言ってくれたのだろうと、普段の彼の様子を見ていれば解るのに、私は自分の感情任せに喋り、“会社内の男性像”を押し付けてしまった。

男性への嫌悪が強くなっていた私には、彼がどう受け止めるとか考えるとか、言葉を選ぶ余裕も、気遣いさえも薄れていた。


(私って、最低だ…)


謝って済む問題?

浅尾くんの優しさを否定するような事を言っておいて…。もし、私が逆の事を言われたら、間違いなく傷つくだろうと思うし。

キチンと説明して、謝らないと。
でも、どう説明をしよう?
武内課長と河村さんから、岩田さんとの事を心配する素振りで近づかれ、弱った所につけ込むように不倫に誘われました――って、詳細に説明するの?


「――詳しいことは解らないけど、他の人と何かあったの?」
「うん、少し前に…ちょっとね。誘われたっていうか…」


そこまで言ってから、思っていたことが口から勝手にこぼれ出る。


「隙があるのか、幸薄そうに見えるのか解らないけど、立て続けに誘われちゃって。…私って、そんなに簡単そうに見えるのかな? 自信なんて元々ないけど、ショックだったっていうか……」
「いや、俺はそうは思わないよ。たまたま、運が悪かっただけじゃないかな」
「…そうだといいんだけどね」


長く息を吐き出し、薄い笑みを浮かべる。

――沈黙。


「大丈夫だったの?」
「それは全然、何もなかったよ」
「…なら、良かった」
「そういうの、本当に嫌なんだ。だから、全力で拒否したの」
「うん」


――再び、沈黙。


「岩田さんは、何も言わないの?」
「んー…。私が話さないから、知らないはずだよ」
「話さないの?」
「私のこと、気にしてなさそうだから。今はもう、新しいカノジョの方が気になるみたいだし」


私、いつの間にか、浅尾くんに話してる。
聞き上手な人なのかな?


「一緒にいて辛いなら、離れた方が良いんじゃない?」
「やっぱり? 浅尾くんもそう思う? 皆そう言うんだよねー」
「椎名さんは、どうなの? こうなっても、岩田さんが好きなの?」
「…どう、かなぁ。 何とも言えないっていうか、自分でも解らない」


情けなく、苦笑いで浅尾くんを見た。
彼は、悲しげな表情をしていた。


「ああ! やだなぁ、暗い話しばかりじゃん。結局、私の事を聞いて貰っちゃって…」
「いや。もっと話して欲しいくらいだけど」
「――ううん。さっきは、変な言いがかりみたいな事を言って、ごめんなさい。言い訳になっちゃうけど、こう…心の中が一杯になっちゃって、無意識に、浅尾くんに当ったみたい」


軽く頭を下げて、恥ずかしい気持ちで浅尾くんを見る。
彼は首を横に振っていた。


「いいよ、そんな事。気にしないで。――まあ、俺が同類に思われたのは、残念だと思ったけどさ」
「浅尾くん、すごく聞き上手だよね」
「初めて言われたよ、そんなの」


どちらかと言えば口下手な印象の人。
良く言われた事が恥ずかしかったのか、笑って誤魔化している。


「見過ごせなくて、つい――」


「何を?」と聞き返そうと、口に出す直前、彼の表情に言葉を飲み込んだ。
言うつもりのない言葉を、言ってしまった…という顔だ。

ここまで言ったら引き返せないと、彼は急に顔を強張らせて、、、


「見過ごせるわけ、ないだろう。椎名さんが、辛そうな顔をしてるのに」
――言葉を切り、息を呑んだのが判る。


「好きだから、だよ」


予想さえしなかった、浅尾くんの言葉。
どう返したら良いのか、頭の中が真っ白すぎて――… 何も言えなかった。




・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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