【90】傷つける | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


「何度も声掛けたけど、全然気付いてくれないから、待っていようかと思って」
「ホント、ごめんね」


随分と待たせてしまっただろう。
申し訳なく言って、彼が手にしていた書類に視線を落とす。


「浅尾くんの、それだけ? じゃあ、私がやっておくよ」
「いいよ、悪いから」
「ううん。ついでだから、大丈夫だよ」
「…うん。それじゃ、お願い」


長く放置しておけない重要な書類なのか、10枚も無さそうな、少しばかりの紙を受け取った。

そうしたら、彼は去っていくものと思っていたけれど――まだいる。
言葉を続けようとしているのが判って、私は浅尾くんを見ていた。


「…最近、岩田さんとは、どう?」


やっぱり。
私相手に話しなど、それくらいしかないだろうから、大体の察しはついていた。


「意外だなぁ。浅尾くんて、ストレートに聞いてくる人なんだね」
「……?」
「多分、皆興味あって聞きたいんだろうけど、直接聞いてくる人っていないからさ」
「ああ、そういう事か」


納得するように頷く。
視線を彷徨わせながら続け、言葉尻で私へ目を上げた。


「その、何ていうか… 話しなら聞いてあげられるからさ、良かったら話してよ」


彼の言葉に、一瞬身構えた。反射的に、だ。
武内課長とか、河村さんとか―― 彼らとの会話を思い出して、悪気はなかったが、つい重ねてしまった。


「――浅尾くんも、そうなの? そういうタイプの人?」
「え? それ、どういう……」
「浅尾くんは独身だから、少し違うけど… この会社の男の人って、解らない考えの人が多いから…。不倫に誘われたり、女を軽く扱う感じとか―― 信じられない人が、多いんだもの」


投げやりに言ってから、困ったような彼の眼差しに気付いた。
こんな問いかけ、どう答えて良いのか迷って当然だ。

少しの間、浅尾くんは何かを考える素振りを見せた。
彼も、妙な“社風”には、薄々どころかハッキリと気付いているから、私の言う意味が解るのだろう。


「つまり、俺も同じだと… そういう事?」
「え!? 違うよ、同じだなんていう意味じゃなくて――」


沈んだ彼の声色に、私はようやく気付いた。

浅尾くんは、傷ついた顔をしていた。




・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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