【86】熱いシャワー | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


でも・・・
このままシャワーも浴びずに、というのは、・・・イヤ。

一旦ムードが壊れようが、嫌なものはイヤだ。

普段から身体を鍛えている彼に、力では勝てない。
徐々に崩れていく服を止められず・・・。
何をどう言っても止めてもらえず、また、このまま最後まで?

キスを外して、顔を背ける。


「や・・・!」


一瞬拒んだ私を、彼は見つめる。
ほんの少しだけ、冷静さを戻した・・・?


「・・・シャワー浴びるか」


気を削がれたようだったが、渋々頷き、私を放した。
ベッドから起き上がり、ネクタイを外すと、ソファへと無造作に放り投げる。
煙草に火をつけると、首だけで振り返った。


「先に入っておけ」


いつもながらの、命令口調。
もう慣れていた私は、少しの疑問も持たず素直に頷き、狭い脱衣所の扉を閉めた。

ホテルでのシャワーや風呂というものは、カップルで入る人も多いと思うが、私はそれが結構苦手で・・・。
仕方なく、彼と風呂に入る事もあるけれど、毎回緊張してしまう。

服を脱ぐ前に、そのまま浴室に入る。
栓を捻り、浴槽に湯を張る用意をして、再び脱衣所に出てきた。


(・・・・・・?)


何か、聞こえたような気がした。

テレビの音?
・・・ではなくて、彼の話し声だ。

友達や、民団関係の人と電話で話すことも多かったから、一瞬のうちに“それ”だと思ったけれど、話し方が何処かおかしい。

岩田さんは、私が浴室に入っていると思っているようで、割と大きめの声で話している。
聞き耳を立てなくても、洗面台の前に立っているだけで、断片的に聞こえてくる。

これは―― 女、だ。

私に話しかける声とは、少し違う気がする。
もっと穏やかで、優しく甘い声。
私と付き合い始めた頃・・・ まだ、ただの同僚だった頃に聞いていた声色。


「――うん。後で掛けるから。そんなには、遅くならないよ。・・・うん。それじゃ――」


反射的に、浴室に飛び込んでいた。
シャワーを捻り、何かを誤魔化すように、熱めの湯を浴びる。

彼が電話を切ったから、慌てて入ったけど・・・
あの電話の相手は、田浦さん?
――だとしたら、今、こうしている私は、一体・・・ ナニ?

電話の最中に、飛び出していくことも出来たけど、それはリスクが高すぎて・・・。
私の見当違いかもしれないし。
――でも・・・。

動揺しすぎて、鼓動がドクドクと嫌な音を立てる。


ガチャ・・・

浴室の扉を開けて、何食わぬ顔の彼が入ってきた。





・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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