【85】流される | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


無言のまま、彼の顔を見つめた私を、彼も黙って見つめ返す。

理由があって、見つめたのではない。
ただ、何となく・・・。


「・・・? どうした?」
「ううん、なんでも」


首を横に振る。
岩田さんもそれ以上は聞かず、無言のまま車を走らせた。


お腹は、あまり空いていなかった。
だから、夕食が無くても構わないと言えばそうだけど・・・。

ソレだけが目的と一目で判る、ラブホテルに着いた。・・・というか、連れて来られた。
久しぶりに会えて、いきなりそうなるのか・・・と、溜息が出る。

まさか、終業間際の資料庫でのキスで悶々としたとか、そういう事?
こういう事が何度かあっても、私は慣れない。

心がまだ、ついて来ない。

私が温めて欲しいのは、身体ではなくて、心。
今肌を合わせても、彼の心が私に向くとは思えない。

束の間、岩田さんの性欲を処理するだけだ。


【休憩】のボタンを押して、いつものように腕を引かれてエレベーターに乗り込む。
・・・正しくは、連れ込まれる。

雰囲気を出すための、強めのキスも、私は好きではない。
強く激しいキスやセ ックスは、疚しさや、都合の悪い何かを隠しているように感じるから。

狭いエレベーターの中から、隙あらば唇を奪われた。

一秒さえ惜しい・・・?
急かすようにドアを開け、手首を掴まれたまま、部屋へ傾れ込む。

背中に腕を回されたまま、ベッドへと倒れた。


私は、今日も流される――

諦め半分、彼の腕に落ちる覚悟をした。





・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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