結局、岩田さんが引越すと聞いてから、無事に済んだのかとか、何処に越したのかとか、その後の進展を何も聞かされていない。
「・・・どうして、隠すの?」
「隠してなんかないよ」
「じゃあ、何処に引っ越したとかくらい、教えてくれても良いじゃん」
「それは言わない」
「・・・全然、答えになってないよ」
頑として、彼は答えない。
私は別に、「転居先に連れていけ」とか、番地までを具体的に聞いているのではない。
“○○区”とか、漠然とで良かった。
そんなに嫌がらなくても、私は一度だって、無断で押しかけ事なんてないのに・・・。まして、親と同居している家になんて、行くはずない。
「――そう。解ったよ。もう、いい」
・・・まあ、新しく住む場所を聞いたところで、関係ないといえば、関係ない。
これ以上繰り返し聞いたところで、話したがらない時点で、もう彼から言うことはないだろうし。
あとは・・・ 田浦さんのこと。
まだ、親密そうな現場を見た訳でもなく、疑惑でしかないから、下手に追及は出来ない。
社員旅行の辺りから、仲が良さそうなのは感じるけど、だからといって断言も出来ず・・・。
私がそれ以上騒がなかったのを幸いとしたのか、私から外に出るように、岩田さんはすんなりと扉から身体を逸らせる。
もう、ここ(資料庫)に留まる理由は無いという事だ。
何処で、どうなってしまったのだろう――。
確かに、彼にとって私は物足りなく、つまらない女だったのかもしれない。
それでも、彼の趣味に付き合などの努力は最大限にしたし、苦手な人付き合いも頑張ったし、遊びにも参加もした。
一方で、私の趣味や興味について話しても、彼の反応が薄いどころか無反応で、全く関心が無さそうだったから、無理に付きあわせることもせず、話す事も止めた。
私は、どうすれば良かったのだろう・・・。
ドアノブを握り、私はポツリと呟いていた。
「周りから聞かされる前に、ヒロくんから聞きたかった。でも、もう・・・そういう事も面倒なんだよね? 私はもっと、色んなことを話したかったよ」
資料庫を出て行こうとする私を、岩田さんは強引に抱き寄せる。
あっ、という間だった。
彼は再び扉を背中で塞ぎ、私を抱き締めたまま、唇を熱く押し当てた。
・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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