【83】キスの理由 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


結局、岩田さんが引越すと聞いてから、無事に済んだのかとか、何処に越したのかとか、その後の進展を何も聞かされていない。


「・・・どうして、隠すの?」
「隠してなんかないよ」
「じゃあ、何処に引っ越したとかくらい、教えてくれても良いじゃん」
「それは言わない」
「・・・全然、答えになってないよ」


頑として、彼は答えない。

私は別に、「転居先に連れていけ」とか、番地までを具体的に聞いているのではない。
“○○区”とか、漠然とで良かった。

そんなに嫌がらなくても、私は一度だって、無断で押しかけ事なんてないのに・・・。まして、親と同居している家になんて、行くはずない。


「――そう。解ったよ。もう、いい」


・・・まあ、新しく住む場所を聞いたところで、関係ないといえば、関係ない。
これ以上繰り返し聞いたところで、話したがらない時点で、もう彼から言うことはないだろうし。

あとは・・・ 田浦さんのこと。
まだ、親密そうな現場を見た訳でもなく、疑惑でしかないから、下手に追及は出来ない。
社員旅行の辺りから、仲が良さそうなのは感じるけど、だからといって断言も出来ず・・・。


私がそれ以上騒がなかったのを幸いとしたのか、私から外に出るように、岩田さんはすんなりと扉から身体を逸らせる。
もう、ここ(資料庫)に留まる理由は無いという事だ。

何処で、どうなってしまったのだろう――。

確かに、彼にとって私は物足りなく、つまらない女だったのかもしれない。
それでも、彼の趣味に付き合などの努力は最大限にしたし、苦手な人付き合いも頑張ったし、遊びにも参加もした。
一方で、私の趣味や興味について話しても、彼の反応が薄いどころか無反応で、全く関心が無さそうだったから、無理に付きあわせることもせず、話す事も止めた。

私は、どうすれば良かったのだろう・・・。

ドアノブを握り、私はポツリと呟いていた。


「周りから聞かされる前に、ヒロくんから聞きたかった。でも、もう・・・そういう事も面倒なんだよね? 私はもっと、色んなことを話したかったよ」


資料庫を出て行こうとする私を、岩田さんは強引に抱き寄せる。
あっ、という間だった。

彼は再び扉を背中で塞ぎ、私を抱き締めたまま、唇を熱く押し当てた。






・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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