【82】資料庫 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


無視をした岩田さんを、追いかけていた。
ムキになったのではない。反射的に彼を追い、階段を駆け下りていた。


「ねえっ・・・! どうして黙ってるの? 話してくれないの?」
「・・・っ!・・・ しつこいぞ、お前!」


階段を下り、左に曲がろうとした彼の腕を捕まえる。
不機嫌な表情で私を見るが、彼の機嫌を伺う余裕はない。

それよりも、逃げる彼が卑怯に思えた。


「私、いけない事を聞いた? しつこいって言われるほど、ヒロくんと会っていないし、話してもいないよ? 無視するくらい嫌になったなら、そう言ってよ!」


廊下は、潜めた声でも響く。
階段を伝い、上にまで聞こえては面倒な事になるが―― どうでもいい。

焦ったのは、私よりも岩田さんの方。

廊下伝いの更衣室と倉庫の間に、資料庫がある。
人が入ることは滅多にないから、都合が良かったのだろう。その扉を開けると、強い力で私の腕を掴み、引き入れる。
紙の臭いが充満する、真っ暗な中に二人は紛れ込んだ。

扉を閉めると、すぐに壁のスイッチを入れた。
鍵のない部屋だから、いきなり開けられないように、彼は扉に凭れる。

私は、疑惑の眼差しで、岩田さんを見上げた。
泣いてはいない。

睨むような強い視線で、彼を見つめた。





・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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