【79】希 望 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


身の回りに変化が起きた。
営業1課に、新しく事務員が採用されたのだ。

偶然が重なり、その事務員女性・・・加藤さんも、私と同じ年齢。
物事をはっきり言う、サバサバした感じの子。少し雰囲気が、まっちゃんと被る。
1課の席位置が、一部変わった。
ずっと私の右隣だった多部井さんの場所に、加藤さんが来て、多部井さんは竹下さんの隣に移動。机ごとの移動だから、1課が少しだけ長くなった。

加藤さんは、人見知りをしないタイプのようで、課だけではなく広い範囲の人達と、あっという間に話せるようになっていた。
彼女はとても鼻が利くというのか、気を遣う必要のある人、敵に回したら面倒な人・・・ボスや取り巻き達を見抜くのも早く、臨機応変に対応する。

隣同士で、同年齢ということもあり、加藤さんとは公私ともに仲良くなった。

会社帰りは、萩野さんとの予定を最優先する由里ちゃんだったから、一緒に帰れない事も増え・・・。
丁度、自宅方向が同じだったし、“それじゃあ・・・”と、帰り始めたことも、距離が縮まった一つかもしれない。

さすがというべきか、加藤さんは、情報を耳にするのも早かった。
多部井さんや神崎さんとも仲良くしているからか、今現在の噂は全て聞いたみたい。

帰り際、加藤さんがこんな事を言いだした。


「この会社の人達って、本当に“クソ”だよね。皆、馬鹿みたい」


言い放った言葉もさることながら、心の底からそう思っていると言わんばかりの、呆れた言い方に、私の目の前が急に、細く開いた気がした。
曇って先が見えない状況で、差し込んだ一筋の光。


「私さ、浮気とか不倫とか愛人とか、そういうの大嫌いなんだよね。ここじゃあ、そんなのばっかりって聞いて、死にそうになった。でも、そうじゃない人もいると知って、救われたよ。椎名くんとなら、仲良くなれそう」


私を、「くん」付けで呼ぶ加藤さんは、そう言って笑う。

最初は由里ちゃんも、そういうのが嫌いだと言っていた。
それがいつの間にか、ミイラ取りがミイラに・・・。

『恋は盲目』とは言うが、盲目以上に全てを見失っている気がする。
新婚嫁と、腹の子を捨てるつもりはないが、由里ちゃんとも別れる気はない萩野さん。
不倫を知った奥さんに訴えられても文句は言えないし、彼の家族の心を傷つけることになる。家庭を捨てるつもりがない彼を知りつつ、別れようとしない由里ちゃん。

どっちもどっちだが、互いに自分が大好きで、自分のことしか考えていないのだろう。だって、二人の関係に、“相手を思いやる気持ち”を感じないのだから。

私が知る、社内の秘密の関係は、ほんの一部。
明るみに出ていない関係が、まだ幾つもあるのだと聞いた。

皆がやっているから、自分も少しくらい――と、魔がさした人もいるだろう。
そのちょっとした、「少しくらい」が、陰で誰かを傷つけているとは、考えないのだろうか?

私は、加藤さんの気持ちが変わらないように、悪魔の渦に引きずられない事を願った。





・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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