【77】心の重石 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


4人でカラオケを出てから、当然のように、由里ちゃんと萩野さんは2人で街中へ消えて行った。
残された私と河村さんも、ずっとそこにいる訳にもいかず、それぞれの家へと帰っていく。

ついさっきの出来事でもあり、少々気まずいながらも、河村さんは私を家まで送ると言ってきた。
・・・まあ、社交辞令だろうが、一旦、「ありがとうございます」と受け取り、1人で帰れるからと足早に改札を抜けた。


もうずっと、何ヶ月になるだろう。私は、溜息ばかりをついていた。
次々に現れる心配事などで、気を揉み、常に不安を抱えて過ごしてきた。
生き地獄のような毎日に、私の体重は落ちていく。不健康な痩せ方だけど、ダイエットになったと、良い方に考えたりもしたが、貧血の目眩なども以前より増えて、気がかりな事も増えた。

心をすり減らしながら、生活のために、この会社で働かなければならない。
父がいない今、経済的にも、母を支えるのは、私だけ。
既に一度、転職をしている身。私はもっと長く勤めたかったが、やむを得ない事情で退職した。
過去の理由はともかく、この会社は、何があっても辞めるわけにはいかない。――その思いが、精神的に私を追い詰めていた。


岩田さんと、付き合い始めたばかりの頃。
2ヶ月くらいが経った頃に、母にそれとなく打ち明けたことがあった。

父の墓参りの帰り、昼食をとりに店へ入っていた時の事だった。

根っからの心配性・・・過干渉の母は、父が亡くなってからは、病的に酷くなっていた。
小さな不安でも、与えてしまうとパニックになってしまうから、なるべく早い時点で、“交際している男性がいる”と伝えようと思っていた。

だから、報告するには丁度良い機会で・・・。家に引きこもったままの母が外に出て、気分転換も兼ねて、こうして外食している場が良いだろうと考えた。
きっと、気分も少しは晴れると思ったから。

でも、岩田さんが、在日韓国人だと伝えた瞬間、それまで和やかだった空気が消えた。

『韓国人と付き合うなんて、とんでもない!! 結婚すると言っても、お母さんは絶対に許さないから! 反対だからね!! そんな男とは、さっさと別れなさい!!』

箸を叩きつけるように置き、激高する母に、あの頃の悪夢を繰り返すような予感を覚えた。


『あんたは、韓国人とか宗教とか、変な男をつかまえるねぇ。それに比べて――』

呆れるように吐き捨てられ、胸が鈍く鼓動を立てる。
続く言葉は、従姉との比較と決まっていた。
成績優秀で推薦で大学に入り、縁故で大企業に就職した、妹の娘。国家資格を得て、製薬会社に就職している姉の娘。
それに比べて、私は劣っている、ダメだと言われ続けていた。

母は事あるごとに、従姉と私を比べた。
子供の頃から繰り返される、いつもの事。兄弟のいない私にとって、比較対象は常に従姉だった。
学業は遠く及ばなかったのに、本当は名門の進学校に行って欲しかった・・・とか。

母にとって私は、自慢の娘ではない。
兄弟が集まる場では、私を自慢したくて堪らなかったのだろうが、残念ながら、母の期待には何一つ応えていないのだ。
自慢の娘がいる、姉や妹に対して、少なからずコンプレックスを抱いていたようだった。

いつまでも続く私への不満に、心底ウンザリしながら、不味くなった昼食を口に運んだ。




・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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