足軽仁義シリーズのここまでの総評 | ギッコンガッタン 

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 このところ、凄くハマっているのが足軽仁義シリーズです。良く分からずに最新刊の13巻目にあたる奥州仁義から読んでしまいました。この時点でも楽しめたのですが、気になってしまい1巻から読み始めて今は、7巻まで読み終わったところです。これまで読んだ時代小説の中でも秀逸な作品と思えます。この記事では、その魅力を色々な側面に分けて書いていくことにします。

 

① 時代考証の見事さ

 

 まずは、見事な時代考証です。まずは、私が思い描いている戦国時代を書いている作品の中でここまで見事に細かく書かれている作品は、知りません。例えば、テレビドラマの合戦シーンでは、鎧武者がかなりあっけなくやられます。しかし、現実の鎧は、そこまで脆くなく下半身にある継ぎ目とか弱点は、限定されていてそうそう簡単にやられないことが分かります。

 

 また、鎧を付けている状態では、普通に土下座する場面でも重くてできず首を傾げるのが精いっぱいなことなどもよく出てきます。槍が突くだけのものではなく、叩くことでも大いに意味があることもよく書かれています。槍衾という戦術も見事に描かれています。また、鉄砲も距離や天候や色々な状況で変わる事や後ろに弓も控えていて効果があることも書かれています。

 

 他にも攻城戦での城の中にある色々な防御機能の説明も見事なものです。野戦での陣の組み方の事なども特に三方ヶ原合戦などで面白く書かれていました。そして、茂兵衛が行軍する際の状況も普通は、このくらいの距離をこれぐらいと言う事実を書き、また、悪路や険しい峠を越えていく際の道の状況もリアルにそして面白く書かれていて見応えがあります。

 

 もちろん、時代背景の説明も見事なものです。徳川家中の話や同盟軍である信長との関係、敵対する武田などの大大名との関係も分かりやすくそれなりに詳細で面白く読めていい歴史の勉強になるレベルです。また、茂兵衛のように最初は、姓の無い百姓からの足軽レベルからどのように出世していくのか、家の家格による扱いなども実際に応じている感じがします。

 

 

② キャラクターの造形や人間関係の描写の見事さ

 

 やはり、小説は、どんなジャンルであろうとも、登場人物のキャラクターやその絡みを読んで行くのが一番の醍醐味です。この面においても、この作品は、秀逸です。やはり、まずは、主人公の植田茂兵衛でしょう。彼の元々の恵まれた体格や咄嗟の事態への対応などの武人としてのセンスがあり、それが磨かれている成長具合が良く描かれています。また、部下や上司への普段の態度は、基本的に情が深く紳士的です。

 

 そして、百姓出身のために、武家の家で生まれ育った他の武人と色々と考えが違うところやそれ故に柔軟に考えられるところもよく出てきて考えさせられます。また、百姓から成りあがっている身から受ける周囲とのやっかみの事もよく描かれます。ただ、彼は、武人らしからぬ人への情けが深く敵の首を取ることへの抵抗感とかがよく見えます。

 

 ()部分で彼の内心が良く描かれていて、彼が基本的に思慮深い面があるのが見て取れるし、彼の気持ちが手に取るようにわかりやすく面白く読めてきます。そして、彼は、人間的に卑怯な所が嫌いで三河一向一揆で敵に通じていた乙部八兵衛、自分を親の敵と狙う横山右馬之助、徳川家の裏で動く服部半蔵と取っ組み合ったりしています。

 

 彼は、何故か上司によく好かれるところがあり、そして、上司から手に余る身内への教育係を言いつかる場面があります。それについても、悩みながらも松平善四郎は、それに応えて茂兵衛に心服して姉を茂兵衛の妻にします。また、大久保彦左衛門は、狷介な性格こそあるものの、見事に茂兵衛の部下として使える武将に成長します。今は、うすらボケの花井を教育中です。

 

 そんな、武将としての魅力は、見事にある彼ですが、彼の女性に対しての不器用さもまた魅力にあります。綾女とのつながりそうになりながらも、結局、色々な状況の中で別れを選ばざるを得ない事が何とも辛く見えます。そして、愛妻がいながら、綾女の事が忘れられず、綾女の死を聞いて塞ぐ様は、見てて哀れでした。こんな面があるから、彼の武骨さも際立って見えます。

 

 そして、茂兵衛の上司や部下を含めたキャラクターの造形も見事です。お人好しもいれば、武骨者もいるわ、要領のいい奴、知恵者もいてこのバランスが見事です。また、義兄弟になった辰造や善四郎との絆の描き方がまたいいです。乙部八兵衛との絡みも味があります。上司の武骨な本多平八郎や知将系の大久保忠世なども何れも強烈なキャラクターで大いに楽しめてきます。

 

 主君・徳川家康は、基本的に自分達の部下にあたる国衆のまとめに腐心して、猜疑心が強く同盟ながらもどちらかと言えば家臣的な扱いになる信長の間でも悩む殿様として描かれます。そして、ケチな面や段々と狸親父化している様が見事に描かれています。茂兵衛が家康の気持ちを慮りながらも荒使いされて疎まれてるのか褒められてるのか複雑な心中も見えてきて面白いです。

 

 

③ 情景描写の見事さ

 

 やはり、戦国時代ものや剣豪物は、戦闘シーンの記述を見て胸躍らせるスリリングな展開を楽しむのがだいご味の一つと言えましょう。この作品は、普通にそのスリリングさも味わえるくらい一つ一つの動作の説明が細かくていいのです。それに加えて、①にかいた戦国時代の戦闘に対しての時代考証がこの記述に紛れてうまく書かれているから余計に楽しめます。

 

 それから、言葉が三河弁なので、等身大の人物像が伝わる感じがして読んで行けます。もちろん、それを抜きにしても登場人物の心情の変化を小まめにとらえた表現も随所に見られます。また、茂兵衛の率いる足軽集団の様子は、適度に締まりながらも楽しく団結感がありこの中に自分もいたら楽しそうに思えてくるのが良いです。

 

 また、農民上がりの茂兵衛から見た武家の気持ちや時代感覚がダイレクトに伝わるところも良いです。また、地位が上がるにつれて、茂兵衛が武将としての成長が見て取れる様子が見事です。茂兵衛の位置は、今の時代でいえば、会社の規模にもよるでしょうが課長代理から課長クラスという所でしょうか。中間管理職の板挟みに今後は言っていきそうな感じに思えます。

 

 

④ 総評とこれからの楽しみ

 

 ここまで1巻から7巻までは、三河一向一揆から本能寺の変が終わってすぐの時代が舞台でした。これからは、明智光秀を倒し、織田家中の一番の政敵であった柴田勝家を倒していよいよ天下人の道を歩む豊臣秀吉との熾烈な戦いへと入っていきます。この中で茂兵衛が、どのような無理難題を家康から吹っ掛けられ武将として成長していくか楽しみに見ていきたいですね。