逆風 | オーストラリアの360万坪の牧場から ~Gibraltar~

オーストラリアの360万坪の牧場から ~Gibraltar~

隣の家まで車で15分。
一番近い町まで車で片道40分。
生活用水は雨水と川の水。
そんなオーストラリアの田舎にある360万坪の牧場を経営しています。
日本ではあり得ない日常の様子をお届けします。

こんばんわ。

こちらオーストラリアは現在18時です。日本との時差は1時間になったのではないでしょうか?

本日からオーストラリアは「冬時間」となります。これは以前に記事にしたと思いますので、詳細は書かずに、ご報告だけしておきます。

さて、こちらは寒くなってきました。特に朝はとても寒く、起きたばかりの30分ぐらいは暖房をつけている毎日で、

いつも通りの朝の調子で、半袖と半ズボンで仕事に出ると、すぐに戻ってコーヒーが飲みたくなります。

最近は、長袖を一枚羽織らないと朝のスタートが切れない事もしばしばです。まぁ、仕事が始まればすぐに暑くなり、長袖は必要なくなってしまうんですけどね!

前回の記事で6キロ痩せたと書きましたが、その後、子供に風邪を移され一週間ほど寝ていました。

風邪のひき始めに無理して仕事をしていたら、牛が二重に見えるほどフラフラになりまして、結局ダウン。

ちょっと無理をしたものだから、治りが凄く遅い。なんだかずっと調子が悪いです・・・。

ダウンしてるのは僕だけじゃありません。オーストラリアの牛の売値もダウンしています。

牛を売って生活をしているのに、こんなに安いのでは困ってしまいます。何度か記事にしていますが、

牛を我々が売る際の基本的な取り引きは、エージェントを通して「セールヤード」と呼ばれるセリ市に参加します。

セールヤードには色々な人が集まり、牛を売買します。牧場主はもちろん、街の肉屋さんから、大きな牛肉業者まで様々な人が集まります。

そこで出された牛は「1キロあたり何セント」というように取り引きされます。300キロの牛に、キロ200セントの値が付けば、その牛は600ドルという事です。

牧場主からすれば、もちろん1頭当たりの値段が高ければ高いほど嬉しいわけですから、様々な方法で牛を健康に太らせる方法を考え、行います。

牛の種類と年齢、性別によって値段は変わります。基本的な牛の値段(単価)の高低は、

若い牛>去勢牛>処女のメス牛>妊娠を経験した牛>オスの牛<性別問わず年齢の高い牛。

このようになります。極端な例を挙げると、生後数か月の太った牛には、1キロ当たり2ドル以上の値段が付きますが、

高齢で何度も妊娠したメスの牛には酷い時には、1キロ当たり50セントしか付きません。

しかし、若い牛は単価が高いが体重が軽い。老いた牛は単価は安いが体重は重い。オス牛も同じく。

なので、いつ売るかは人それぞれで、凄く太らせてから売る人もいれば、まだ母牛のミルクを飲んでいる子供を売る人もいます。

結局、一番良いのは「短期間で太らせる」事。しかし、これが凄く難しく、コストがかかります。

フィードロットと呼ばれる「牛小屋」に牛を入れて育てる方法(日本での主流)は短期間で太ります。

しかし、凄くコストがかかる。極端な話しをすると、我々が口にする牛肉は肉自体にお金を払うというより、肉を育ててきた間にかかったエサ代を払ってるという感じでしょうか。

話しが少しそれてしまいましたが、牛の売値が非常に安く困っています。

安くなっている原因は間違いなくこれだ!っていうものは無いのですが、色々な要因が重なってこういう事が起こっているようです。

まず、日本でニュースで取り上げられたかどうかわかりませんが、約2年前に発覚したインドネシアの屠殺場での牛への虐待。

これは僕も告発映像を見ましたが酷かった・・・。いくら牛肉になる牛(いずれ死ぬ)の扱いとはいえ酷かった・・・。

生きたままの状態で首を切り、それでもまだ動く牛を蹴飛ばし殴り、皮を剥いでいく。

その光景を何頭もの牛が殺される順番待ちをしながら見ている。その牛達は目の前の惨劇に恐怖で体が震えてる。

殺されるのが嫌な抵抗する牛の目に指を突っ込まれ、鼻からホースで水を入れられ、尻尾をへし折られる。

これを受けたオーストラリア政府はインドネシアへの生きた牛の輸出を全面禁止にしました。

しかし、オーストラリアからインドネシアの年間輸出量は約250億円~300億円の間。

年間これだけの牛を輸出していたオーストラリアがそれを禁止にしてしまったという事は、その分の牛が余るという事ですよね・・・

また、今年の2月に日本政府がアメリカ産牛肉の輸入規制を緩和しましたね。

アメリカ産牛肉は以前、日本の需要の3分の1を占めていました。それがBSE問題で輸入禁止となり、

その後徐々に持ち直してきましたが、昔に比べたらまだまだといったところでしょうか。

しかし、今回の緩和で、アメリカが言うには、以前と同じような水準で輸出が出来るようになるそうで、

早速、日本のスーパーや牛丼チェーンなどは、仕入れの選択肢が増えて、良い肉が安定して入ってくれば価格も抑えられて、美味しく提供できると言っております。

また、アメリカの牛肉輸出団体は日本向けの輸出量が前年比45%アップを見込んでいると話しています。

45%もアップされたら、我が牧場の牛さんの値段はどうなるんでしょうか??

まぁ、アメリカ産を輸入禁止にした時は、そこらじゅうで「オージービーフ」って言葉が出ていて、流行語大賞もビックリの勢いで、その言葉は広まった。

ということは、その時に甘い汁を吸ったオージーさん達は沢山いるわけです。

だから文句ばかり言ってられませんが、僕の牧場の周りの最近の牛の売値はと言うと・・・

いつもは通年で1キロ200セントある若い牛が、最近じゃ1キロ120セント・・・。

少し歳を取ったメス牛が最低でも1キロ100セントあったのに、最近じゃ80セント・・・。

この差なんですが、80セントの差を馬鹿にしてると大変です。

200キロの牛100頭が1キロ200セントで売れるとトータル4万ドル。

200キロの牛100頭が1キロ120セントで売れるとトータル2万4千ドル。

たった80セントの差が1万6千ドルの差になります。これは大変ですよね。

皆さんの手取りが例えば30万円だったのに、突然16万円になったら嫌になっちゃいますよね。


この画像は去年の5月のセリの結果です。


$オーストラリアの森から ~Gibraltar~

最上段の値段の部分に233.2という金額があると思いますが、1キロ233.2セントという事です。

この同じ分類の牛が先月、キロ110セントでした・・・

いつ値段が上がるかわからないし、このまま下がる一方かもしれない。

これから冬になって草が無くなるから、この時期に売る予定だった牛を牧場にキープしておく余裕は無い。

だからと言って、せっかく育てた牛を酷い値段で売りたくない。

こうなってくると、まさに賭けになってしまう。酷い値段でも良いから、これからの冬に他の牛を元気に育てる為に、出荷予定の牛を手放すか、

お金を使って、そこらじゅうに冬に活発に育つ牧草の種を蒔くか。

前者は嫌だ。でも、後者も良く考えないと、コストがかかり結果的に前者と同じ値段で売るのと同じ意味になる。

まぁ、グダグダと書いてますけど、もう後者で行くと自分なりに方針を決めていまして、

さらには、今が底値と考えて、若い牛を今買って太らせてから売ろうか?とも考えています。

先週は体調を崩していた事もあり、色々な事を色々と考えてみました。

成長に逆風は付き物ですが、このまま逆風に押されたままオーストラリアから押し出されるのも嫌なので、頑張るしかないですね。