結核と診断されてまず思ったことは「いったいいつどこで感染したのだろうか」ということでした。
感染症のひとつですから特定することは無理だとしても、「ああ、あの時かも」くらいに思いつくことはあるかと思ったのです。
その疑問を担当医に投げたところ、意外な答えが返ってきました。
曰く、おそらくは幼少期に感染していて、その菌が肺のどこかで休眠状態にあり、体力や抵抗力の衰えた今に至って症状として表れたものであろうと言うのです。
仮に私が5歳の頃に感染していたとしたら60年間も休眠状態にあったということになります。
であるとすれば私と同じような保菌者は世の中にうようよいるのではないか、と考えたのですが、調べてみると実際、保菌者数は2000万人と推定されるそうです。
ツベリクリン反応で陽性となった人は抗体を持っている、即ち一度は感染しているわけで、その中でさらに菌を持ったままという人も多数いるということになります。
しぶとく何十年も体内に潜んでいるわけですから強力な芽胞に守られているのかと思っのですが、これも調べてみると結核菌は芽胞を形成しないらしいのですね。
芽胞、つまり頑丈な鞘みたいなものですが、例えば破傷風菌は芽胞を形成して100度の熱にも耐えられ、水の中や土の中でも生き延びることができるそうです。
しかし結核菌にはそのような特別な鎧はない。
その辺りのからくりは一応は調べてみたのですが、よくわかりませんでした。
なんでもマクロファージに寄生するのだそうです。
マクロ―ファージといえば生体防御機構の一方の雄。
これに寄生されたのでは免疫系にとっては見つけようもないのでしょう。
ただどうやって数十年に及ぶ休眠ができるのかはよくわかりませんでした。
いったん暴れだした結核菌は肺の中(肺の中以外というケースもあるらしいですが)で炎症を起こし、周囲の組織を破壊して空洞を作る、とまあそんな感じのようです。
大昔は空気のきれいなところで栄養のあるものを食べて自然に治るのを待つしかなかったようです。
まさに堀辰雄の世界です。
その後、ダメになってしまった肺の部分を菌ごと切除する方法が取られるようになり、さらに戦後あたりでしょうか、かのストレプトマイシンが導入され、薬で治る病気に変わっていったようです。