クラブミッドナイト!!暗闇に紛れて走れっ!! | クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

TYPE Rの称号を与えられなかったもう一つの悲運の車

 

「タイヤの空気圧OK!!オイルOK!!」

 

 

 時刻は午後8時過ぎ。

 

 北見のお店が閉店後、オヤジは近くのコンビニの駐車場で、店の明かりを頼りにS2000の空気圧とオイルをチェックしていた。 

 

 今日はこれから札幌までの約250km。片道5時間あまりを走る為である。

 

 毎回、これはオヤジがS2000で走るときの儀式なのだが、GTR乗りの友人Iから

「オヤジ。それなりの車に乗っているんだから、最低限、タイヤの空気圧とエンジンオイルのチェックは、走る前にしておいたほうが良いぞ。」と言われて以来、欠かしたことが無い。

 

 時刻は午後8時30分。コンビニで夕食用のサンドイッチと飲み物を買い求め、ようやくS2000は札幌に向けて走り始めた。

 

 老いとは心から始まるものである。と、オヤジはいつも思っている。

 

 クラブミッドの創設者の伝説のファースト・ナンバーのSさんも、今年、チューンドのR33を降りた。

 

 同世代ではもはや、走ることを楽しみにする人は、ほとんど消え、老いたものだけが、いまだに暗闇を走り続けている。

 

 淡々と真夜中の道を、お気に入りの曲を聞きながら走る。

 

 これがオヤジの走りの根本だと気がつくのはそう長くかからなかった。

 

 いつもは寂しい石北峠一人で走っていたのだが、今日はお盆。

2台のミニバンが元気にオヤジの前を走っていた。

そして、石北峠の最大の難所。

 コークスクリューが連なる急な登坂に到達した時であった。

 

 S2000の本領が発揮された。

6速から4速にギァーを二つ落としを行ったオヤジは、アクセルをベタ踏みを行った。

低いエンジン音から、快適なVTEC音に変わった時に、S2000の姿はそこに無かった。

 

 慌てた前走車はすぐにS2000の後を追いかけたが、格が違うと悟ったのだろう。直ぐに後を追いかけるのを止めた。

 続いてトップを走っていたミニバンは最後までS2000を追いかけようとしたが、オヤジがバックミラーで確認したら、見る見るうちにその車影は小さくなっていった。

 

「このS2000は馬力は250馬力しかないが、車重は1.3トンを切っているから、パワーウェイトレシオなら、あのR32のGTRさえこえる数値だし、初期型AP1はNSXを凌駕するコーナリングだと言われているマシンなんだ。」

と、オヤジは一人、車内の中でつぶやいた。

 

 登坂とはいえ、かなりのオーバーなスピードで突入したオヤジは、時折左足ブレーキを駆使して、回転数を落とさないで、タイトなコーナーをクリアしていった。

 

 石北峠下り坂、大型トラックと遅い前走車に詰まったオヤジは、ゆっくりと後をついていくと、先ほど登坂で追い越した車がオヤジに追いついてきた。

 登坂で抜かされたのがよほどくやしかったせいか、長いトンネル内に入った途端、オヤジのS2000を追い越し、トラック、遅い前走車と3台を一気に追い越そうとした。

 

 反射的にスピードを落とすオヤジ。

 何故って??

 狭いトンネル内は逃げ場が無いので、もし万が一、追い越した車が事故でも起こそうなら、巻き込まれる恐れがあるからだ。

 

 クラブミッドナイト:長距離ランナーとしての走りは、捕まらないのはもちろん。事故を起こさない。さらには事故に巻き込まれないのが鉄則なのだ。

 

 ここで何故、夜中を徹して5時間もかけて札幌まで走るのかを少し話しておきたい。

 

 今、爆発的にコロナが蔓延する中、札幌も例外ではなかった。

 

 そして札幌に住んでいる娘2号が、近々、地元で教育関係の実修があるので、帰宅するという連絡がオヤジに入った。

 バスで帰宅すれば、たったの5千円で帰ってこれるのだが、札幌からオヤジの家までの300km。時間にして約6時間あまり、久し振りに会う娘と話し込みたいために、娘を迎えに札幌まで行く途中であった。

 

北見から出発して2時間30分。旭川に到達した時であった。

やはり老化のせいか、すこしばかり疲れが出始めて、眠くもなってきた。

 

 この辺あたりで宿泊しょうかな??と、考え始めた時であった。

 

 1台の地元の車がオヤジに挑発をかけてきた。

一見走り屋風でもない、普通の車であった。

 その瞬間、オヤジの眠っていた心に火が付いた。

あっけなくシグナルGPを制し、追い越し車線を遅く走っていた車を交わして、走り抜けていくと、さらにその車はオヤジの後を追いかけてきた。

 

 そして一般国道に出ると、オヤジは元のチンタラした走りに戻った。

 真夜中は警察の出現も多い。

あまり目立つ行為は、警察に見つかり自爆する可能性が多いので、一般国道ではおとなしく走るのが一番安全な行為であるからだ。

 

 日中ならともかく、真夜中の高速道路の走る意味は少ない。

あえて言うなら、警察に出会う確率が少ない。ということだけであろう。

 オヤジは高速代、約4,000円をケチり、ひたすら下道を走っていたのである。

 

 オヤジを追い越したその車と、並んだ車。さらにもう一台が混じって、合計3台で旭川から深川に行くまで並んで走り始めた。少し離れて様子を見るオヤジ。

そのうちの1台が異常な速さでTOPを走っていた。

 最初その車を見たら、同じS2000のような形であったが、信号で待っていると、マツダのマーク。

直感でRX-7 FDと気がついた。

 

 FDは軽快なロータリーサウンドをまわりに響かせながら、見る見るうちに小さくなっていった。

そのFDと並んだのは、数十キロも離れた滝川の交差点であった。ちらりと横を見ると、ガンメタ色のRX-7 FD のドライバーは、オヤジをチラリとみて、興味無さそうにして、高速道路に向かって走っていった。

 またひたすら孤独に走るオヤジ。

少しの間だけであったが、同じような車と走れて、少し気分が高揚したオヤジであった。

 

北見から出発して5時間後の、午前1時30分。ようやく目的地の札幌に到着。

 

 娘の住んでいるマンション近くのコンビニで夜食と飲み物を買い求め、近くのモーテルに入る。

札幌のモーテルは相場が高い。

 前回は3時近くまで1000円安いホテルを探して、隣町まで走ってみたのだが、30分以上その安い部屋で待っていたら、部屋を清掃しに来た人に、この部屋は今は使っていないと言われて、しぶしぶまた娘の近くのモーテルまで戻って、7千円の部屋に泊まったのだ。

 

 今回は・・・・

 すると普通の部屋よりも安い5,900円という部屋があった。

喜び勇んで入って、清算を行ったら請求が6,900円。

「???」と、思ってテーブルを見たら。

今日は特別限定日の為に、1,000円追加されます。と、書かれていた。

やっぱり、7千円はかかるのね。ガッカリ!!

 

※いつも札幌に着く時間が2時近くなので、安いビジネスホテルに入れないし、(普通はチェックインはどんなに遅くても、12時ぐらいが限界です。)、また安いビジネスホテルに入っても、駐車場代が2千円ぐらいかかるので、駐車場代を考えたら、最近は直ぐに予約なしでも入れる、モーテルでも良いかと考えるようになりました。

 

 そこからお風呂に入ったりして、午前3時。

遅い就寝をした。

 

翌朝の本日16日。

ひどい雨音で目が覚めた。

今日は残念ながら雨なんだ。と、ボーーットしていたら、その音はうるさい空調の音だと気がついた。

瞬間的に窓の外を見る。

すると、外は曇り空である。

 時刻は午前5時。

約2時間余り寝られたのか。

 

 室内がうすら寒いので、直ぐにやや熱めのお風呂を入れて、豪華な朝風呂としゃれこむ。 

 娘からの連絡を待って、再び布団に潜り込む。

そして7時前に娘からの連絡が入った。

 

 そして時刻は午前7時30分。

娘の住んでいるマンションのまえに行くと、大きな荷物を抱えた娘がオヤジを待っていた。

 

 娘と会うのは、前回の成人式の振袖を選んだ時の2月から約半年余り。

久し振りにあった娘は、少し大人びて見えた。

 

 帰りは高速を使って、一気に帰宅。

 ここでもS2000は100km以上出すと、音がうるさくて音楽が聞こえなくなるので、ひたすらのんびりと走る。

 のんびりと走る2000をバカにしたのが、追い越し車線を並んで走って、時折オヤジを見ている車が何台かいた。

「うん。まったくもう。この車は100km/h以上出すと、うるさいからあんまり速く走りたくないんだよな。」と言いながら、オヤジは1速落とすと、急加速をおこなった。

  あっという間に消え去った2000に追いつこうとしてくる車であったが、見る見るうちに見えなくなり、そのうちに諦めたせいか、追いついてくる気配もない。

 

「この車は、人は2人しか乗れない。ドリンクホルダーも無い。荷物は沢山載せられない。

走るとうるさいから音楽も満足に聴けないから、まったく使えない車だ!!」

と、オヤジはぶつくさ文句を言いながら走っていたら、

「おとうさん。その割に楽しそうだね。」と、娘はにやにやしながら聞いてきた。

「そうだな。こいつは走ること以外、何も役割を果たさない車だからこそ、運転が楽しいな。」

と、オヤジはニヤリとして答えた。

 

 こうして娘との楽しいドライブは、午後2時に無事に終了した。

その後、やはり疲れが出たのであろう。

 オヤジはソファーで仮眠したら、4時までの2時間あまり熟睡していた。

 

 昨日と今日は今年初めて、S2000でしっかり走って、また楽しんだ1日となった。

 

 

クラブミッドナイト!!暗闇に紛れて走れっ!!-完ー

 

 

 

 

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