オヤジの父親の死からひと段落して、オヤジは改めてS車輌の社長の元にお礼と、RX-7のFCを買いたい旨を伝えに行った。
その時S車輌から言われた言葉だ。
「RX-7は燃費がリッター2から3キロだから、通勤に使うと、絶対に後悔して手放すからやめとけ。」
さらに「お前が20代なら解るが、今更、30代のお前がスポーツカーに乗りまわしているのを見たら、世間は何と思う??常識を考えろ。」と諭された。
しかし、あの時の高速道路の体験を忘れられないオヤジは「しかし、どうしてもFCに乗りたいんです。」と言い張った。
すると、S車輌の社長は「それなら他所で買ってくれ。俺が身内にこんな恥ずかしい車を売ったら、俺の方が世間から笑われる。」と言われた。
流石にそこまで言われたオヤジはしぶしぶ引き下がった。
「それなら、今の僕に似合う車って、何を乗ればいいのですか??」と聞き返した。
「そうだな。お前に似合う車は・・・・・」と、S車輌の社長は一台の車を指差した。
「この車は俺が私用で使うために、エンジンをボァー・アウトしていて、排気量を上げているから、かなりパワーもあるぞ。」とS車輌の社長は得意げに言った。
値段を聞いたら諸経費込みで160万ピッタシ!!という事であった。
オヤジも大人である。確かにFCには乗りたかったが、やはり今回一番お世話になったS車輌の社長から、車を買う義務がある。
次の日の休みにその車を買うという事で、話を付けてその日は戻った。
そして次の休みにお金の用意をして、S車輌に向かったオヤジであった。
ところが・・・・肝心なオヤジの購入予定のパジェロは見当たらなかった。
周りをキョロキョロするオヤジ。
「ああっ。あのパジェロか??さっき、若いおねーちゃんに売れたわ。」
「ちょっとーー。ひどいですよ。オヤジが買うって言ったじゃないですか。」
「女の子だから、この車と見比べて、車体が小さいほうが良いという事で、パジェロを決めていったわ。」と、S車輌の社長は笑いながら、
「替わりにお前、この車どうだ??」と指差したのは・・・・・
カンガルバー(フロントに付いている金属のガード。のちに禁止された。)の付いた、フル装備の、ハイラックス・サーフであった。
「値段は280万円だが、世話になったオヤジさんの息子だから、特別に240万円で良いぞ!!」
当時のハイラックス・サーフは今のような古びた中古車では無い。超・高級車で、中古車なんてもっての外、新車もなかなか手に入らない高級車であった。
今でいうならレクサスと同じぐらいのステータスを持っていた車であった。
いったいどういう感覚をしているのだろうか??予算160万円しかないオヤジにいきなり80万円も高い車を売りつけるのだ。
「いきなり240万円は無理ですよ。予算は160万円。違うパジェロを予算内で探してください。」と、オヤジは怒ると・・・・
「うーーん。そうか?仕方がないなーー。悪いけど、後40万円見て、200万円だけ見てくれないか??残りの40万円はお前のオヤジの遺産のウェルダー(発電機)を2台もらって、40万円はそれでチャラにしょう。」
※このウェルダー、専門家がみて1台8万円。2台で16万円で引き取る。という見積もりが出ていた商品であった。
こうして、オヤジは生まれて初めて、当時の超・高級車を手に入れたのだった。
さらに、当時の保険屋さんに不信感を持っていたオヤジは、これを機会に、社長の奥さんが行っている保険に全面的に入り直した。
翌日、オヤジは新車のマークⅡを買ったばかしの上司の横に、買ったばかしのサーフを乗り付けた。
当然、オヤジの上司は怒り狂い、以後、1か月以上もオヤジにパワハラをぶつけてきた。しかし、オヤジはその行為さえもうれしかった。
後日、オヤジはS車輌の社長に、オヤジが別な親戚から車を買い、それから今まで車に対して長い間コンプレックスを持ち続けていた事。
そうして、ようやくそのコンプレックスから、今開放されたことを打ち上げた。
「たかが車。されど車だな。」そう、S車輌の社長はオヤジに語った。
S車輌の社長は車が好きで好きでどうしようもなく、車を買ってくれるなら、家業を継ぐ事を約束されたが、結局、その約束を反故され、自分で車のディラーに入り直し、会社を立ち上げた人だ。
当時の武勇伝はかなり有名で、スピード違反で警察から逃げ切った。とか、自分の息子が車を選んだ時は、その車の実力を見せるために、平気で公道でスピード・メーターを振り切らせた。と言う話ばかり聞く。
そんな車が好きでたまらない人だから、オヤジの気持ちを解ってくれたのだろう。
それ以来、オヤジはS車輌の社長に全面的に信頼を置いて公私共にお世話になっている。
また父親代わりに、オヤジが悩んだときは相談にも乗ってくれる、オヤジの師となる人である。
それ以降、かみさん用に、初代アルトワークス。ワゴンR。ミライース。タントカスタム。と買い替え、自分自身は、サーフ。エステマ、100系ハイエースのキャンピングカー。さらに今のパジェロ・ミニである。
そして今回のS2000である。
実は本当はオヤジはコミックの湾岸ミッドナイトの影響で、S2000のスタイルはすごく嫌いで、しかも2人乗りのFRオープンカー。
だからオヤジの頭の中にはS2000のオーナーになるのは完全に無かった。
当時、若者以外の人間がスポーツカーを乗りまわしていたら、奇異の目で見られていた時代から時代は変わり、スポーッカーは若者から、大人の趣味と完全に定着した時代となった。
今回、娘達の今後の事などで、今までスポーツカー購入をS車輌の社長から禁止され続けたときの事であった。
S2000はめずらしく社長がベタホメする車で、実物も見ないで決めて、決めた後に実物を見に行ったぐらいである。
実際にオーナーになって見ると・・・・オヤジの五感にドンピシャな車であった。
たぶん、これからもオヤジはS車輌の社長にはお世話になって行き、娘にも付き合いをさせてももらうように勧めていくであろう。
多分、オヤジが今まで車や人生で大きな失敗を犯さなかったのは、S車輌の社長の存在が大きい。
「たかが車。されど車。」
車の興味のない人から見れば、実にくだらない事である。
しかし、オヤジにとっては、このたかが車がオヤジの人生の充実感を味わえる大切な存在となりえるのだ。
「たかが車。されど車。」編
ー完ー