「たかが車。されど車。」-2- | クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

TYPE Rの称号を与えられなかったもう一つの悲運の車



 友人がほとんどいなくなり、しかも嫌々ながら乗る車は多分、乗り方も乱暴になるのであろう。


 オヤジはその年の冬、ブラック・アイスバーンの夜中、飛び出してきた犬を避けようとして急ブレーキを踏んだ途端、オッサン・チェリーは50メートルぐらい滑って行き、数メートル下の路肩にたたき落ち、大破して廃車となってしまった。

 あの時の恐怖はトラウマになり、その後、数年間は冬道は乗れなくなってしまった。


 しかし、どうしても車は欲しい。オヤジは友人Kの車に乗せてもらい、再び、車探しを始めた。


 そこで目についたのはオレンジ色のS30Z。値段は50万円。今でこそS30Zはフルレストァで200万円とか、300万円とか言われているが、当時はスカイライン200GTよりも安い車であった。


 そこで、その車を買おうと決心した時であった。友人のKが、「あの車、2シーター(二人乗り)だけども良いのか??」とオヤジに聞いてきたので、「エッ?2シーター???」と聞き返し、慌てて車屋さんに確認すると、やはり2シーターの為、オヤジはすかさず購入を断った。

 当時は2シーターの価値など全くなく、売れない不人気車であったのだ。


そんな時であった。何となく目にしていた車が55万円である中古屋さんにあった。

そして、その後、その車はそこの車屋さんから無くなったので、「売れたんだなぁ。」と思っていた時であった。


 なんとオヤジの地元の車屋さんで60万円で売られていたのだ。

「もしかして、この車。●●屋さんで55万円で置いていたやつでないですか??」と、オヤジがそこの車屋さん尋ねると、「そうだよ。よく知っているね。お兄ちゃんなら、50万円丁度でいいよ。」と言う言葉で、オヤジはその車を購入した。

 その車はサニーをベースにした、スポーツカー風、お嬢様ご用達の「シルビア」であった。


オヤジの買ったシルビアはエンジ色である。

オヤジがこのシルビアを決めた理由はただ一つ!!それはその年、公開された「MADMAX」の主人公の乗る愛機、インターセプターの姿とどことなく似ていたからだ。

 まさにオヤジは車はスペックでなく、デザインで決めるやつだったのだ。

ようやく自分の気にいった車を手に入れたオヤジは、意気揚々とシルビアを乗りまわした。このシルビアで初めて後ろのエンブレムを取り外し、シールでインターセプターと貼りつけて、自分が主人公マックスになりきって走りまわっていた。しかし、デザインで決めた車。走りは単なる普通の一般大衆車。しだいにオヤジはこの車に飽きてきた。


 時代は車はバニングが流行しだし、コミックであいつとララバイやバリバリ伝説が連載された時代である。


 空前絶後のバイクブームであった。


 オヤジはこの走りも何も魅力のない、シルビアに飽きが来て、バイクにも乗りたくなったので、シルビアを手放し、車をハイゼットという軽のワゴン車に取り換えた。


 その時に丁度、苦労しながらもようやく中型バイクの免許も取った。

当時は3無い運動の真っ最中。


バイク=悪という公式により、オヤジの友人は乗っていたシャコタンが見つかり、自動車学校の先生とケンカになり、校長の目の前で書類を破り捨て、学校を辞めたほど厳しい時代であった。


 当時の軽は悲しいほどに性能が悪かった。40km先の北見に、時速80km/hで走っていくと、半年間でエンジンのガスケットが吹っ飛んで廃車となった。


さらにバイク屋で買ったZ400FXは後ろのフレームが無くて、無理やり溶接されたある意味、2個一のバイクであった。


(数年ぶりにそのバイク屋に行って、あのFXまだ乗っていますよ。というと、驚いて、「あのFXはエンジンは焼き付き起こしているから、あまり飛ばさないほうが良いよ。」と言われ、ある意味、素人に対してはバイク屋も車屋も、事故車を平気で売りつける商売をする店が多かった。)

 要するにいい車やバイクに乗りたかったら、自分でもっと勉強して、騙されないように買いなさい。と言うこと、平気で勉強させる店が多かった。


そんな時であった。軽自動車の耐久性の悪さに懲りたオヤジは、職場の人の話で自分の理想とする車を見つけた。


 それはディゼル車である。当時の軽油は感覚でいうなら、ガソリンの半額。燃費は倍の20リッターから25リッターは平気で走る。

 要するにコスパがガソリン車の1/4なのだ。


オヤジはその足で当時のリッターカーのシャレード・ディゼル・ターボを買いに行った。


 そこの車屋さんの専務はオヤジに新車でなくても中古で程度の良い車がありますよ。という事で、中古のターボ無しのディゼル車を進めてくれた。

※これはガソリン車のデトマソですが、この形の銀色のターボ無しのタイプである。


 どことなく形がドイツのゴルフっぱくて好きであったが・・・・・・2年後の冬、ハンドルは裂けて隙間ができ、更に悪い事に、エンジンが掛からなくなってしまったのだ。


 原因は燃料の軽油が凍り、エンジンに行かなくなってしまったのだ。始動の仕方が悪いとか、粗悪軽油を入れているからスタンドを変えろとか、更には軽油が凍らないように、灯油を混ぜろとまで言われ、その通りにしたが、全然改善されなかった。


 そのおかげでなんども会社に遅刻して、上司からかなり怒られ続けたオヤジはついに切れた。

その販売した会社の全員と社長のいる前で、担当者の専務を呼びつけ、車のカギを投げつけて、「俺は新車を買いに行ったのに、お前が不良車を売り付けんだろう!!」と、脅かしを入れた。

 その為、リビルドしたエンジンに乗せ換えるという話になった時であった。


 オヤジはもうこの車が嫌になり、「新車のデトマソ(赤の画像の車)を買うから。」と言う話をした。


 その時は12月ごろであった。すると、2月ごろに新型が出るから、もう少し我慢したほうが良いですよ。と言う情報を教えてもらい、2ヶ月間、新型が出るのを待ったのだ。


 そして2月に新型シャレードの発売。







オヤジは直ぐに購入しに車屋に走った。

オヤジの中で、どことなく処刑ライダーの主人公の乗る、謎の黒のターボ車の雰囲気に似ていたからなのだ。

ここでもオヤジはスペックではなく、デザインを優先させた。


当時の発売した時の色は白と青とシルバー。


 オヤジはこの中で、白は絶対に嫌なので、シルバーを決めたのだが、車屋は白なら1ヶ月間で来ますが、他の色は2ヶ月間以上かかります。と言われたが、どうしても白だけは嫌だったので、2ヶ月間待ってもシルバーという事で決めた。

 

 それが遅れる事3ヶ月。ようやく、オヤジの手元にやってきた車は・・・・・・な・なんと手違いでオヤジの一番嫌いな青い車だったのだ。


 絶望感に襲われるオヤジ。期待した新車も半年間近く待つと、もう何もかも嫌になる。


 もう契約を止めることを伝えたら、法律上は無理という事で、シルバーは無理だけども、白なら1ヶ月間待ってくれたら用意できると言われた。


 オヤジは専務に「今、何時何分何秒ですか?」と尋ねた。

「今は●時●分●秒です。」と答えた。

「たった今からシルバーの色を1ヶ月間待つ!!一秒でも遅れたときは、契約は無しだ!!」と言い放って、その会社を後にした。


会社では絶望感漂う専務の姿があった。



 こうして、オヤジの車の遍歴は、自分の考えとは裏腹に満足のいかない買い方が続き、常に本当に欲しい車が手に入らない事で、車に対するコンプレックスを長い間持ち続けていた。