二人の娘達。 | クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

TYPE Rの称号を与えられなかったもう一つの悲運の車

「おとうさん。今日、学校休んでいいかな??」 


 29日の朝。娘2号が苦しそうな声でオヤジのもとにやってきた。

見れば顔を真っ赤にしている。

「わかった。朝一番に学校に連絡するから、すぐに布団に戻りなさい。」


 娘2号は頑張り屋さんだ。

多少、具合が悪くても学校に行くし、オヤジが勉強をしている娘2号に

「ねぇねぇ。そろそろ勉強を休んでオヤジと一緒に遊ぼうよ。ゴロゴロニャン♪」

と、サボロー君攻撃をかけても、

「ダメダメ。もう少しで勉強が終わるから、その時遊んであげるから我慢してね。」と、簡単にかわしたりする。


 二人の娘達には感謝している事が一つだけある。それは体が丈夫に出来ている。という事である。今まで大きな病気一つしたことが無いのである


 そんな娘2号が学校を休みたい。という事なのでそうとう具合が悪いと思い、オヤジは娘2号が学校を休むことを連絡し、後ろ髪をひかれる思いで会社に出社した。


 昼ごろ、休憩時間中テレビで北海道は数年に1度の猛吹雪に襲われ、札幌地方は、多くの車の立ち往生や多重衝突事故の放送を行っていた。


また、オヤジ達の地域も暴風雪警報が表示されていた。

外を見るとまだ雪は無い。


 明日、3月1日は娘1号の卒業式の為、休みをとったが、もしかして吹雪で家から出れないかもしれない。


 夕方の事であった。娘2号からメールが来た。

(38.1度の熱が出た。●●ちゃん(娘1号の事)の今日の予定ってどうだったっけ??さっきから2回メールしているんだけども、全然メールが返ってこないよ。)

(●●は昼から卒業式の表彰の練習で居残り。夕方から自動車学校のはずだよ。)と、メールを返すも、オヤジはいてもたってもいられなかった。

 可愛い娘が高熱で苦しんでいるのだ。そばにいてやることも、何も出来ない


オヤジは本気で早退を考えていた。


 が、後2時間ばかしで会社が終わる。しかも、今急いで帰っても、家までは1時間はかかるので、すぐに彼女に何もしてあげることは出来ない。

 とりあえずは娘1号に2号が高熱で苦しんでいるから、戻ったら看病をしてくれ。とメールを送った。


 それからの2時間の長い事。長い事。本当にいらだった2時間であった。


 よく、シングル・マザーの方が、子供が高熱を出したので早退させて欲しい。と言うと、上司から嫌味を言われながら早退した。という人がいるが、オヤジは本当にその人たちの言っている事が、今ここで判った。


 閉店間際に娘1号からメールがやってきた。


(大変だぁーーーー。■■タン(娘2号)が高熱を出して苦しんでいた。水枕を出して頭を冷やしたので、今、落ち着いて寝ている。)


 その娘1号のメールを読んだとき、オヤジは本当に泣きそうになって、地面に座り込んだ。

 娘1号のおかげで、2号はようやく落ち着いて寝てくれたのだ。


(ありがとうな。娘1号。2号の事は、おとうが帰るまで、頑張って看病してくれな。)

何とか命だけは助けることが出来る。


と、メールを返したオヤジは、ようやくこれからの事を落ち着いて考える事が出来た。


 まず、今は雪は降っていないが、明日は必ずオヤジの住んでいる場所は、猛吹雪になる。

 しかも家の食材は明日購入する予定の為一切ない。そこで、娘2号の為にすぐに帰っても、明日が困る事になる。


 娘1号が看病してくれているから、今、オヤジのやらなければいけない事は、明日からの数日間、家から出られなくても良いように、食材を買い求める事である。


 会社を終えたオヤジはお腹がすいてフラフラになりながらも、食材を買い求め、夜の10時にようやく帰宅した。

 すぐに簡単に食事を終え、2号の看病に入った。

娘2号の頭は燃えるように熱く荒い息をしていた。


 1号は心配していたが、明日は卒業式だからもう寝なさい。と言って、1号から2号の看病を引き継いだ。


 2号がようやく寝たので、その間、オヤジは吹雪の為3日間ぐらい家に籠城してもいいように、大きな鍋にトン汁を作り出した。


 トン汁さえあれば、たとえおかずが切れたとしても、なんとかご飯とトン汁だけで数日間、食事は過ごすことが出来る。


夜、1時過ぎにようやくオヤジはひと段落して、娘2号の横で仮眠した。



翌、3月1日。娘1号の高校の卒業式。


娘2号の熱はまだ下がらなかった。



 オヤジはある一つの恐ろしい考えが浮かんだ。


 それはインフルエンザである。もし、インフルエンザなら直ちに病院に連れて行かなければいけない。


 幸いなことにオヤジ家では今まで誰一人、インフルエンザにかかった事が無い。

 だから2号がインフルエンザかどうかわからないのであった。


 網走の高校は吹雪の為に卒業式は延期になったのだが、1号の高校はそのまま卒業式となった。


 朝、まだ風は強く吹いているが、雪は降っていない。


 8時に娘1号を高校に送り届け、今のうちにオヤジはなじみのガソリンスタンドに、除雪機用に20Lの容器にガソリンを入れに行った。

 いくら除雪機があっても燃料が無ければ、死活問題になるのだ。


 本格的な吹雪は昼ごろになるという。下手をすると国道閉鎖もありえる。


 帰り道、このまま卒業式を終えてから、2号を網走の病院に連れて行くことが、もしかして出来ないかもしれない。

 できれば卒業式をでなくても、本来なら2号をただちに病院に連れて行くべきである。


 が、卒業式では1号が学校から表彰されるという。1号はそれをすごく楽しみにしていた。


どちらも行かない訳は出来ない。


ふと見ると地元の病院が見えた。


 オヤジはまだ開いていない病院に直ちに駆け込んだ。そして受付の人に、

「昨日から娘が高熱で倒れています。僕は今日、上の子が卒業式の為、昼まで帰ってこられません。できれば、娘を診断させて僕が戻るまで、どこかで休ませて頂けませんか?」と、真剣な表情で訴えた。


 オヤジの訴えがあまりにも真剣だったのだろうか、係員はすぐに娘さんを連れてきなさい。と言った。


 オヤジはその足ですぐに家に戻り、2号に服を着させて、自分は卒業式の用意を行い病院に舞い戻った。


「必ず迎えに来るから、我慢して待っていろよ。」と、娘2号に言ったオヤジはその足で1号の卒業式に向かった。

 途中、かみさんの免許証を忘れたことに気が付いた。


「すまん。かーちゃん。お前を連れて行く事を忘れた。後でかならず報告するからかんべんな。」


 これで2号は治療できる。猛吹雪で家から出られなくても、病院だから最悪の場合は2号は入院が出来る。


 オヤジはホッとしながら、1号の卒業式に出た。


 卒業式のあの音楽は独特のものがある。


 特にアンジェラ・アキの 手紙ー拝啓、十五の君へ という音楽が流れた時に、オヤジは目から涙があふれ出した。


 この曲は、かみさんがもう助からないと分かって、最後の旅行に行った時にかかっていた曲であった。


 これからどう子供達を育てるか、途方にくれていた時に、優しく心に染み込んできた曲であった。


 途端に今までの事がいろいろ思い出されて、隣の人に涙を隠すことを必死になった。


 娘1号の表彰が行われていた。


 オヤジは1号が絵で、全国区や全道レベルで受賞を何回かしたので、てっきり学校としての受賞だと思っていたのだが、1号の受賞は全道レベルの公益財団法人からの受賞であった。


(娘1号よ。本当に良くやったな。)何度も何度もオヤジは心の中で、娘1号を褒め称えた。


娘1号を見ているとオヤジは思う事がある。


全ての人間の能力が100あるとしたら、色々と何でもできる人は、何に対しても均等に10ずつ出来る能力があるのではないだろうか??


 そして、一部の人間は、ある特別な才能に50とか60とかの能力を持ち、他の能力が著しく低くなるのではないだろうか?


 特に天才と言われる人たちは、その分野に90ぐらいの能力を発揮するのではないだろうか?


 


 この子の母親は最後までこの子の才能を信じて笑って逝った。だからこそ、この子の才能を信じてやるのも、自分の務めではないのだろうか?


 卒業式が終わると今まで雪が無かった天気が急変した。


最後のホーム・ルームの時に、国道が閉鎖された知らせが入った。



家に帰るときに娘1号に、


「シートベルトをしっかりしろよ。そして後ろから追突されても良いように、首をすくめてシートに体を密着させていろよ。」と、オヤジは言った。


 こんな猛吹雪の時は、パジェロミニが最強である。国道で立ち往生する車をしり目にオヤジはいつもなら5分で帰る道のりを、十数分かけてハザードを付けながら家路に着くのであった。


 娘1号が無事に家に入ったのを確認し、再びホワイト・アウトの町の中に舞い戻る。


 今度は病院にいる2号を迎えに行くのである。

















 病院に舞い戻ると、残念ながら娘2号の病状は、インフルエンザであった。


 病院で適切な処置を行った娘2号は、熱は高いものの、体はかなり楽になっているみたいであった。


 これで昨日、2号の看病をしていたオヤジは確実に感染した事になる。


「小さいのにしっかりしているお子さんですね。」


看護士さんは置き去りにされた娘が、1人頑張っている姿にビックリしていた。


「良く頑張ったな。さあ、これから帰るぞ!!」


 オヤジは2号の頭をくしゃくしゃに撫でて、病室から連れて行った。



 病院から外に出たオヤジ達に、視界数メートルのホワイト・アウトの世界が待っていた。







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