ポンコツ! | クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

TYPE Rの称号を与えられなかったもう一つの悲運の車

 我が次世代の愛機、レディ・イレブン(カタナ)が納車される事、数週間前。

 オヤジは生まれて初めての危機に立たされていた。


「入院ですね。」

「えっ?先生。今、何ていったんですか??」

 オヤジは病院の目に前にいる先生の言っている意味が判らなくて、聞き返した。

「だから、入院しましょう。あなたの心臓はもう限界に達しているのです。」

「今、心あなたの心臓は不整脈が起きています。心筋梗塞を起こしている最中のようなものです。今度、大きな血の塊が、あなたの血管の中に溜まったら、間違いなく、あなたは死んでしまいますよ。」

 医者は固い顔をして、オヤジに告げた。


「ちよっと、待ってください。今、ご覧のように僕は、ピンピンしているし、第一、昨年かみさんが亡くなって、まだ、成人していない子供が二人もいるので、僕は簡単に入院なんか出来ませんよ。」


 未だ事の重大さを理解できないオヤジは、何かの間違いだ。というように、医者に助けを求めた。


「どちらにしても、今度、造影剤を打って、心臓の様子をもっとはっきり見ましょう。それから、入院の手続きを行いましょう。」


 事の起こりは、毎年行なわれる健康診断に、引っかかった事からであった。


 胃のバリウム検査で、かなり胃の内部が荒れていて、、また、昨年からピロリ菌の疑いもある。という事で、いつもなら、毎度の事。ということで、ほっておくのだが、今年はかみさんもいない事なので、何かあってはいけない。と、再検査を受けたのが、最悪の状態となってしまったのだ。


 血圧が高いというところから、心臓の心電図検査を行い、それがひっかかり、さらに別な検査を行ったとたん、オヤジの心臓は不整脈が起きている。という事であった。


 その夜、子供たちにオヤジの起きている事を全部正直に話した。子ども達はかなりショツクを受けてはいたが、何とか平静を装っていた。

 その日、遠方にいるたった一人の姉に、今、自分の起きている事を連絡した。

そして、万が一、自分がいきなり亡くなった時の事も考え、子供たちの面倒を見てもらうようにも頼んだ。


 かみさんが亡くなった旦那は数年以内に急死する。という説がある。

(そうか、こういうことだったのか。なあ、かみさん。ごめんな。オヤジももうすぐそっちに行くかもしれないよ。だだ、唯一の心残りは、残される子供達の事だけだよ。)

その夜、仏壇のかみさんに、そう報告しても全然、涙は出なかった。


 自分はもしかしたらこれからいきなり死ぬかもしれない。そう考えても、実感は全然わかなかった。

 だってそうでしょう。今まで、特別、具合が悪くなるわけでもなく、胸が苦しい訳でもなく。年をとって体はだいぶ、ポンコツにはなってはいるが、まだまだ充分に働ける体なのだ。

  それをいきなり、あなたの心臓はもう限界なのですよ。と言われても、はいそうですか。とは、言えないものである。


 心臓の再検査は20日、そして荒れた胃の様子見るために、胃カメラを飲むのが21日と決まった。

 そして、20日は網走が大荒れの天気の日であった。もちろん、ニュースでも、車での外出は控えてください。という警報が出ている日でもあった。

 いつもなら絶対に行きたくない天気であるが、自分の命がかかっている検査である。半分、死ぬ気での病院へ向かった。

 悪天候の為、検査を受けにくる人が大幅に減ったせいか、すぐに検査は終わった。

検査料、9,210円也。(た・高い!!だけど、背に腹は替えられないし・・・・)

と、オヤジは給料日までの残りわずかの、なげなしのお金を払った。


 翌、21日。その日は胃カメラの日であった。

20数年ぶりの胃カメラである。看護婦さんは、当時よりだいぶ楽になりまた。と、言ったが、胃カメラこそ地獄であった。

なにせ強制的に太いパイプを飲み込むのである。

「ぐぇっ!!」

「ぐぇっ!!」と、何度も吐くのであるが、胃カメラは強制的にオヤジの胃の中に侵入してきた。


「ああっ。やっぱりいましたね。ピロリ菌。ここの爛れているのが。ピロリ菌のやられているところです。」

「あっ。ここに、ポリープが出来ていますね。一応、問題ないとは思いますが、万が一の事(胃がん)を考えて、検査に出しますね。」

「ピロリ菌の治療は2週間後の検査後という事で。」


「あのーーう?先生。そのピロチャンは2週間もほったらかしておいて、オヤジの胃は大丈夫なんでしょうか??」

「実は昨年の検査の時も、ピロリ菌の疑いがあり。と書かれていて、そのままにしていたから、このピロチャンが増えたのではないでしょうか?」

 と、オヤジはおそるおそる聞いた。


「大丈夫!!大丈夫!!ピロリ菌自体は非常に弱い菌なんです。」

「このピロリ菌は、最近感染していたわけではないのです。あなたが子供の時に感染したのです。」


「えっ???子供の時??」


「あなたは50年もの間、このピロリ菌と一緒に暮らしてきたのです。」


「50年もの間ですか??」

「それでは先生。何故、昨年はピロリ菌の感染の疑いあり。と書かれていたのですか?」


「実はピロリ菌が発がん性の疑いがある。と分かったのはここ最近のことなんです。だから、うちの病院でも、ピロリ菌について、診断書に書き始めたのは昨年ぐらいからなんです。」


 ピロリ菌の事や胃の中の荒れている様子は、自分の想定内のことであったので、かえって胃の中の様子が見れて安心したのであった。

胃カメラの検査代も9,330円。(ぐぇっ!!目玉が飛び出るぐらい高い!!)


 こうして、オヤジはたった2日間で、全財産のお金をはたき、検査を終えたのであった。



 そして、今日、20日に行った心臓の検査の結果を教えてもらう日であった。


目の前にいる先生は、難しい顔をしていた。

「結論から言います。」


(きたっ!!せめて入院は数日でありますように。)


「検査の結果、異常なしという事でした。」


「へっ?異常なし??」あまりのあっけない言葉に、オヤジの声は裏返った。


「そうです。あなたの心臓は異常はありません。」


「それでは、先生。なぜ不整脈が出たという診断だったのですか??」



「あなたが若い頃、心臓発作を起こしかけた。という事は、前回の診察で話しましたよね。」


「はい。」


「多分、その時の影響だと思いますが、あなたの心臓の血管は、他の人よりも遥かに太いのです。」


(太いなら、尚更、問題ないんでない??)


「たとえば、水道のホースをイメージしてください。細いホースなら、水ははるかに勢いよく飛びますよね。」


「はぃ・・・・・・」


「逆に太いホースなら、ジャバジャバと、すぐに下に落ちて、あまり遠くまで飛びません。」

「血管も同じで、普通の人の血管が5ミリぐらいで勢いよく血液が流れるのですが、あなたの血管は1cmぐらいあるので、血液が勢いよく流れないので、それが原因で、今回は不整脈という症状がでたのでしょう。」

「残念ながら今の医学では、あなたの血管の太さを正常にすることはできません。」

「その体をいたわって、これからも大切に使って下さい。」


「いや、いいんですよ。たとえ。ポンコツのこの体ですが、まだまだ大事に使えば充分に使えます。」

「それでは先生。入院はしなくても・・・」


「はい。大丈夫です。お大事にしてください。」


 

 病院から出て、空を見上げたオヤジの目には、久し振りの真っ青な青空が映っていた。

 

日差しがやけに暖かい。


 なんだか数週間ぶりに、自分は生きている事を実感した瞬間であった。


(そうか、まだお前の所には来るな。という事か。もう少し、頑張って生きてみるよ。)


そう、かみさんに答えたオヤジは、会社に向けて車を走らせた。





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