悲しみを抱いて(いだいて。) | クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

TYPE Rの称号を与えられなかったもう一つの悲運の車

 先日は妻の四十九日。今までの疲れのせいか、昨日、今日と風邪を引き、声がガラガラになりめまいを起こしながらも、何とか2日間の仕事を行ったオヤジです。(オヤジは昔の人間だから、多少の具合が悪くても、仕事に行く方です。)


 普段、風邪などひかない丈夫な体のオヤジですが、(だぁれ??●●は風はひかない。と言っている人??)一旦、風邪をひくと、心までめげるみたいで、普通はかみさんが「まったく今時期に風邪なんか引いて、うつさないでよ。」と、文句を言いながらもさっさと布団を引いてくれるのですが、自分の部屋に戻っても、朝起きたままのぐじゃぐじゃになった布団があるばかりです。

それが一層、心の弱った体には応えます。


 さて、かみさんが亡くなった後に、一気に家事が増えて、最初は休日は茶碗洗い、掃除、洗濯、トイレ掃除、お風呂掃除とやっていて、いつの間にか1日が過ぎてしまう。という毎日でしたが、ここ最近は要領を覚えてきた。


 まず最初に洗濯機にお風呂の残り湯を入れながら、お風呂の水を抜き、洗濯をしながら食事をした後に、食器洗い、お風呂掃除、掃除、トイレ掃除、洗濯物を干す。という順番で家事を行い、●●しがら、■■をする。という、同時進行形を行って、何とか家事は11時ぐらいまでに何とか終えるようになりました。


 昼から、娘2号は帰ってくるので、11時から12時までの1時間ばかし、自分の時間となったので、その日は、本当に久しぶりにレディを家から出して走ることにした。


 バトルスーツは用意するだけで、30分ぐらい時間がかかるので、時間がもったいないので、その日は、あのお馴染みのグリーン・モンスターのモンスターエナジージャケットと普通のズボンで片道30分ぐらいのところに行く予定を取った。






場所は近間の卯原内の能取湖の、日本最大のサンゴ草を見るためである。


いつもの如く、バビューーン!!と現地に到着!!


 昨年はほとんど枯れていて、絶滅の恐れがあったのだが、今年は地元の人の努力によって、見事綺麗咲き乱れあたり一面、赤い絨毯と化していた。

生命のチカラ強さに、改めて感心するオヤジであった。














あれっ??こうして見ると、やたらヘルメット、でかくない???


  やはりこのレディ!!どう考えても、知らない人が見たら原付としか見えない小ささである。

(実際、このあと、オフの250ccのツーリングの人たちが数台きたのだが、だれもこのレディの事など、振り向きもしなかったなぁーー。)


 何故だか、バイク乗りでも原付には冷たい視線を浴びせるような気がするのは、オヤジだけでしょうか??



 さて、話をもとに戻そう。


 この美しいさんご草の景色を見ながら、ふとオヤジは、(そうだ、ここは結婚前にかみさんと一緒に来て、どんどん奥に行き過ぎて、帰りが遅くなり、かみさんが仕事に遅刻しそうになったっけなぁーー。)という、何気ないことを思い出した。

 

 その途端、想いが溢れだした。気がつくとツーツーっと、涙が一筋。

 もうそれが限界だった。慌てて、オヤジはバイクに戻り、ヘルメットを急いでかぶり涙を隠したが、嗚咽をする姿は隠しきれなかった。

「もう、戻ろう。」そう、一人でしゃべり、急いでレディを発進させた。


 メンタル面がもうガタガタであった。楽しいはずのバイクを乗る時間がこんなに悲しいものだとは思いもよらなかった。


 帰りは静かに静かにゆっくり走っていたのだが、ここ北海道ではそれは許されなかった。


 北海道はバイクは走りやすい!!大抵の道外の人はそういうが、半分あたりで、半分ハズレである。

 なにせ見通しが良い道が続くから、乗用車や大型トラック、いや、軽自動車でさえ、高速道路並みの速度で走るので、交通法規を守って、60km/hで走っていると、「邪魔だ!!どけっ!!」と、煽られたりする。


 オヤジの場合もそうであった。

見た目は原付。ジャケットはモンスターエナジーマーク!!

しかもゆっくりと走っている。


 気がつくと巨大なエルグランドがいつの間にか、後ろにピッタリと走っている。


 多分、このドライバーも原付に乗って、いきがっている格好のジャンバーを着た、にいちゃんが、トロトロと邪魔に走るな!!とでも思われたのであろう。

オヤジは左側に避けたのだが、エルグランドはオヤジを追い越しては行かなかった。

(そうかい。それなら。)

 無造作にアクセルを吹かす。

 小柄なレディはものの数秒で戦闘可能領域まで車速を達する!!

あっという間に、エルグランドは点となって後ろに消えた。

 慌てて加速する様子が判った。そして、エルグランドが再びオヤジの後続に付いたときは、オヤジは90度に左折する場所であった。


 急減速を行うオヤジ!(落ちれーーーっ!!)心の中で叫びながら、フロント・ブレーキーを力強く握り締める。

 このままリァはかけられない。もし、この状態でリァブレーキを入れた途端、後輪がスリップを始め、途端に転倒。という感覚があった。

 何故だか今のオヤジには、その感覚が分かるような気がした。

多分、それはバーチャルながらも、湾岸200マイル(321.9キロ)クルージングをした者だけがわかる感覚なのかもしれない。


急速に速度を落とすレディ。

みるみるうちに、エルグランドがオヤジの背後を襲う!!

 そして、ようやく旋回可能速度までスピードが落ちた途端、オヤジは派手なアクションでレディを左に傾け、旋回が終わった瞬間にフル加速!!

 激しく震えるバックミラーで最後に見たものは、オヤジの追跡を諦めたエルグランドの姿であった。



十数分後、オヤジ宅にて。

ヘルメットを脱いだオヤジは周りに誰もいないのを確認し、改めて一人嗚咽していた。


 ファーーーーーーーーーーーーーーン!!


 いつもは直ぐに止まるレディの電動ファンが、いつまでも、いつまでも悲しく雄叫びを上げ続けていた。



 年をとることは残酷な反面素晴らしい事である。

あれほどの悲しみを覚えた日が、いまでは遥か昔の事のように思える。

 そして今は静かな一日がまた始まろうとしている。



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