キリンに帰るとき。 | クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

TYPE Rの称号を与えられなかったもう一つの悲運の車

 生前、かみさんに聞けなかったことが一つだけあった。


 それは子供たちが一人立ちするまで、バイクを降りたほうが良いのか??という事である。

 事故を起こすときは車でもバイクでも一緒だが、起こした時のダメージの度合い遥かにバイクの方が大きい。



 もちろん、大抵の人は自分の子供の事を考えて、バイクを降りる方が良いと答えるであろう。

 また、お世話になっている、S車輌さんの奥さんからも、どうしてもスピードが好きならバイクを止めて、せめてスポーツカーにしなさい。とも言われた。


 先日のVIPERさんのコメントや多くのブログの方々、また友人のメールから、キリンブログはもう、終わってバイクは降りるのか?という心配をしてくれていた。


 が、自分的にはバイクを降りるつもりはサラサラ無いし、今回も只今は忙しくて、バイクに乗れない状況が続いている。ということだけだ。


 平日は帰宅してから家事をするともう寝る時間。休みは休みで、台所掃除から始まり、洗濯、お風呂、トイレ、茶の間の掃除を行っていると、あっという間に昼過ぎとなる。



 オヤジは外出だ好きだ。休みは良く暇なときは必ずどこかにかみさんと行っていたものだ。

だから、かみさんから「たまには外ばかり、出歩かないて家の掃除を手伝ってよ。」と、言われたものだ。


 この場になって、なぜ急に掃除魔になったのだろう??


 多分、今までは家はかみさんのもの。という意識が働き、自分のものという意識が薄かったのではないだろうか??


 今は何をしてもいいし、自分な好きな場所に、好きなものを置けたりする。

 そうなってくると、自然と家の中を綺麗にしたいと思うようになるのだろう。


 あれほど狭かった家は、たった一人いなくなると、とても広い家と化する。

掃除を行っても行っても、すぐに汚いところが目に付いてしまう。


その為、今は休みでも下手すると1日中、家の掃除を行っていたりする。


 そんなオヤジが唯一、ウサバラシが出来る場所が、休日前の帰宅前に寄るゲーセンであった。


 かみさんが亡くなり、しばらくゲーセン通いもしなくなったのだが、久しぶりにまたもや、はまり始めてしまったのだ。


 昨日、今日と休みであるオヤジは、昨日はオヤジより一足早くシングル・ファザーとなった友人Kと落合い、近況や子供たちの悩みを相談する事となった。


 彼はシングル・ファザーになった時は、「オヤジ!!俺はやっとカレーと味噌汁ができるようになったぞ!!」と自慢げに話した時に、オヤジは「たったそれだけしかできないの??」

「俺は休日は大抵、夜の料理は作るよ。」と、彼に自慢したものだが、今では彼の方が「そんなときは、漂白剤を使うと良いんだ。」と、主夫歴の長さを物語るセリフを吐いたりする。


 昼からオヤジ達はドライブがてら、北見のレッドバロンに行く。

目的は、1100リミテッドのカタナを見に行くのだ。


 オヤジの20代の頃の1100ccカタナは本当に特別な存在であった。

当時は限定解除が必要でいくらお金を出しても決して乗れないバイク。という存在で、オヤジの心の中で光輝いているバイクであった。

 さらに当時連載が始まった「キリン」。

キリンに出てくる1100ccのカタナは今のオヤジの原点である。


 完全にオヤジの心は自分がカタナを手に入れて・・・・という、妄想の世界に浸りきった。

 

 そのバイクが70万円で売られているのだ。

今はカタナに乗れる免許があり、しかもお金もある。

場所は当然あるから、買い替えではなく、買い増しである。


 そんな考えを持ちながら、ここ数回、レッドバロンに入り浸っていたのだ。


しかし、現実はカタナを買うわけでもなく、見てニヤニヤとしながら帰るのだ。


 大きな商品を買うことに対して、誰も忠告する人がいない今、自分に厳しくならないと、かみさんが残してくれた大切なお金はすぐに無くなってしまうからだ。


 興奮が収まらないまま、オヤジは友人Kに「悪ぃ。ちょっとゲーセン寄らしてもらうわ。」と言いながら、ゲーセンに向かう。

 前回、彼の目に前では、相沢圭の操る、80スープラに大敗をしてしまった。

彼としてもまたさっさと負けて帰ろうぜ。という考えだろう。


 年寄りがはまったものは怖い。これが本当にパチンコでなくて良かったと思う。


 切り札のS30Zを出してきたオヤジは、再び湾岸ミッドナイトの世界に入り込む。

 前日、80スープラーを破りピンクGTRに乗るレイナも破り、オヤジのS30Zは700馬力オーバーと化していた。


 600馬力。トップ・スピード280km/hのバランスが取れているチューニングを、一気に崩しひたすらパワーを求め続けたS30Zは、ハンドル操作で一気にドリフト状態に入り込む。


「は・速い!!とても目がついていかない。」オヤジは初めての340km/hの世界にビビリまくっていた。


が、最後の最後で相手の車を追い抜き、5連勝を上げていた。





「オヤジ。お前って昔からゲーセンって好きだった??」友人Kはオヤジに不思議そうに聞いいてきた。

「いんゃ。はまりだしたのは、ここ数ヶ月からだよ。」


 自慢じゃないが、運動神経は彼の方が遥かに良い。どんくさいオヤジがひたすら、湾岸ミッドナイトのゲームに勝ち続けるのが、不思議みたいであった。


「スピードが段違いに速すぎるな。俺にはとても出来ないわ。」と、友人Kは呆れたようにオヤジに話した。


 そして今日の休み。朝から再びオヤジはかみさんの残りの処理を行い、午後からは49日の準備を行わないと行けない。

(クソッ。今日も家の用事か。今年はもうバイクには乗れないのか??)と思っていたら、ふと考えたら、何も49日の準備は車で行かなくても良いのだ。


 そうだ。久しぶりにバイクで行こう♪


そう思うやいなや、オヤジは数ヶ月ぶりにバトルスーツの用意をし始めた。

相変わらず着づらくて重い。が、今ではオヤジには無くてなならないスーツである。

 

 すっかりホコリをかぶり、薄汚れたレディ。


1ヶ月ぶりにキーをひねる。

スターター音がしない。

(やばい!!バッテリー上がったかな??)


 その瞬間。ヒュルルル。と小さな音が聞こえて、


 バシュッ!!ドガ!!ドガ!!ドガ!!と爆音が炸裂した。





 


用事を終えて、途中の喫茶店で一服。

 今のオヤジには長時間バイクに乗れる時間は少しも無い。その為、隣町に行って帰ってくる、たった30分だけが、こいつと向き合える時間である。


「なぁ。レディ。俺達の旅はいつまで続くんだろうなーー。」








 久しぶりに走り終えたオヤジは彼女を洗車しながらそう呟き、ふと空を見上げたら、空はどこまでも蒼く、気持ちの良い風が吹いていた。


 ここ、北海道の季節はすでに秋となっていた。









 
人気ブログランキングへ