盆栽ライダー2 | クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

TYPE Rの称号を与えられなかったもう一つの悲運の車

 連休の6日、昨日の朝。相変わらず朝から猛暑である。

一昨日、昨日の2日間でとレディの居場所を作ることを考えていて、予定がいきなり空いた日となった。
 まずはあることを頼みに、いつもお世話になっているS車輌の社長に会いにいく。
 S車輌の社長はオヤジのカーライフ以外にも、いろいろと困ったことがあれば相談できる心強い人である。

 車で行けば簡単であるが、さすがに連休2日目となれば、そろそろバイクにも乗りたくなるので、午後から本格的にバイクに乗ろうかと思い、肩慣らしのつもりでレディをお供とする。

 S車輌までは車で10分もかからない。その為、半袖のTシヤツと普通のパンツ。しかし、グローブとブーツは履いていく。この時点では、社長に会ってから直ぐに自宅に帰るつもりであった。その為、オヤジのポリシーには反するが軽装となっていた。

 レディと共にS車輌に行くと社長の奥さんが出てきて、残念ながら社長は留守で昼から帰ってくるという事であった。
「わかりました。午後からまた来ます。」というオヤジに向かって奥さんは、
「いい天気ですねぇーー。バイクで来たということは、これからB峠でも行くんですか?」と聞いてきた。
「いや。直ぐに帰ります。軽装ですから、あまり長時間は走れませんし。」と言って奥さんと別れた。
 この時点でも、あくまでも町をひと回りしてから帰るつもりであった。

「さて、レディ。軽くひと回りして帰ろうか?」と、オヤジは軽装のため、時速60km/hでトコトコとゆっくりと走ろ始めた。

 猛暑のため半袖でも走ると風が暑く感じる。

バイクに乗らない人は暑い日はバイクで走ると涼しくて気持ちいいでしょう。と、よく聞かれる。
それは大きな勘違いだ。

 
 バイクは天気が暑い時に乗ると、ノドがカラカラに乾き、寒い日に乗ると体の芯から冷えるのである。
車の方がよっぽど快適に運転が出来る。

オヤジはそんな事を感じながら走っていると、いつの間にか戻るきっかけを失いB町を通り過ごし、B峠に向かっていた。

(Uターン。Uターン。どこかでUターンしないと、このまま走ると、本当にB峠に向かってしまうぞ!!)
心の中ではそう思いつつ、体は自然とB峠に向かっている。

峠を走る人は気がつくと思うが、峠は高低差があるので、晴れていても山頂は寒い場合が多い。

気がつくと風も強く吹き、回りの木々が大きく揺れていた。

(もう、戻ろう。半袖だし、峠はきっと寒いから、また昼からしっかりと装備をしてから走り始めよう。)

そう思ったとき、

(あなたはいいわよ。いつでも、また休みになるから。)
(だけど、私にとっては、走れるのは今しか無いのよ。)

(やっと走り始めたのよ。もう帰るの?)


という声が、どこからともなく聞こえた。


(だけど、俺は今は軽装だ。こんなカッコでは危なくて君に乗り続けることはできないよ。)


(そうね。あなたはいつも優等生的な考えをしているわね。)
(これ以上スピードを出すと危ない。とか、これ以上倒すと転倒するとか・・・・)


(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)


だけど、もっともっと、私たちの声を聞いて頂戴。)
(もっともっとアクセルを吹かしてとか、私たちは常にあなたたちオーナーに対して、言葉を発しているの。)


「わかったよ。レディ。」
オヤジはポンとレディのタンクを軽く叩くと、B峠に向かって走り始めた。

 加速するといきなりオヤジの左胸に鋭い痛みが走った。まるでガス・ガンで胸を撃たれた痛みだ。
それは飛んでいる虫であった。

(おおっ、Tシャツ1枚ならこんなにも虫にぶつかったら痛いんだ。今までバトル・スーツに守られていて、痛みなんて何も感じなかったよ。)


 B峠の麓に入るといきなり空気が変わった。涼しい。というよりも寒い。という感じである。

このまま無事に走れるのか??

と、弱気になったオヤジはTシャツの左袖を見る。
左袖には、隊長さんが考案したカエルのマークが描かれている。

そう。今日の着ている半袖のTシャツは、隊長さんから送られてきた、無事に帰る。を意味するカエルのイラストが描かれているTシャツである。


(そうだよ。今、オヤジは一人で走っているんでないんだ。)
(隊長さんの想いも一緒に乗せているんだ。)

RUN!!(走ろう!!)

I still keep on running.!!(それでも走り続けるんだ!!)

B峠の入口に差し掛かった。

レディのタコ・メーターが4、000回転を示した。


その途端、今までカタカタカタと軽い機械音が、

ド・ド・ド・ド・ド


というハーレー特有の低い排気音へと変わり、それと同時にワープする車体。
 なんだか気のせいかフロントも浮いているような感じだ。
(デターーッ!!妄想ウィリーーーーー!!妄想だけなら、何キロでもウイリーしちゃうゾ!!)

そんなこんなで、オヤジはようやくB峠の頂上に着いた。








 やはり天気は快晴であったが、頂上は寒かった。
全くオバカな格好できたものである。






 
残念ながら、B峠の頂上にはバイクは1台もいなかった。
平日ということと、午前中ということ、おそらくそのどちらも関係したのであろう。



 このB峠、ほんの2週間前は吹雪のため通行禁止となっていたのが、まるでウソのようである。





B峠の道の駅。





しばらくB峠を見たオヤジは
「よし、戻ろうか。」とレディのタンクを再び軽く叩いて帰路につくのであった。

「ただいま!!」



隊長さんの想いを乗せたTシャツ。

絶対に事故を起こさない。再び無事に帰ってくる。という意味合いで描かれたカエルのイラスト。

たかがイラストの描かれているTシャツ1枚である。

 それでも、人の想いが込められていれば、それは走り続ける勇気と変わる。







PS・50代を過ぎた今、最近、体力の衰えを感じてきています。

今回のB峠。片道40キロ弱。車で飛ばせば30分弱で着く場所です。

午前中に走り終えたオヤジは昼からは疲れて30分ばかしソファーで気絶していました。
午後からもS車輌の社長に会っただけで、もう再びバイクに乗る気力もなくなってしまいました。

多分もう、他の方のように1日一杯バイクで走ることはできないでしょう。

それでも、たった1時間ばかしの短い時間でも、時間が許す限りレディと付き合って行こうと思っています。



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