-ALIVE- ( 生きて無事に帰るー) | クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

TYPE Rの称号を与えられなかったもう一つの悲運の車


「オヤジ!!天気がやばくなってきたから、もうあがっていいぞ。」


閉店1時間前、店長がオヤジに心配そうにそう言ってきた。


「そうですか?それではお先に失礼いたします。」


ということで、今日はいつもよりも早めに帰宅するオヤジであった。


 今日は朝から暴風雪波浪警報がニュースで流れていた。


まずは、出社前に愛機、イースのガソリンを満タンにする。



やはり吹雪いているが、一応、前はしっかりと見える。


そして、閉店が近づいた今、天気が急変したのであった。


 駐車場に行くと・・・・なんと雪がボンネツトの高さまで積もっていた。




赤いラインがイースのボンネットだ。


早速、エンジンをかける。


「頼んだぞ!!相棒!!」


 と、オヤジは愛機、イースに声をかけ、ギァーシフトを1速に入れて、アクセルをおもいっきり吹かす。


フワフワの軽い雪のお陰で、イースは無事にケツを振りながら駐車場を脱出した。


街に出ると途端に猛吹雪である。




オヤジの働いている、ここ北見は比較的、天候がおだやかな地域である。


この北見の町の中が猛吹雪ということは、オヤジの住んでいる町はそれ以上にヤバイということである。

(これはちよっとまずいなぁーー。)


 この時、オヤジは帰宅するか?どこかのホテルに泊まろうか?一瞬悩んだ。


 明日も仕事なら迷わずに、どこかのホテルに泊まる決断をしたのだが、明日は父親の命日で休みをとった日である。

 やはり帰れるものなら、帰りたいのが人情である。


「ままよ。このまままずかったら、どこかで緊急避難しよう


 そう考えたオヤジはそのまま、イースのハンドルを帰宅の道に向けた。


 途中、後ろから赤色灯が回っているのを確認したオヤジは咄嗟に救急車だと思い、ウインカーをつけた途端、左車線によける。

救急車だと思ったら、その車はパトカーであった。


「これは良かった!!何かあったらパトカーに避難出来る♪」と、オヤジはひたすらパトカーの後ろを付いていった。





 が、無情にもパトカーは隣町でUターンをしてしまった。


いよいよ、これからコンビニも避難所もない隣町のB町まで30キロの道のりである。


最悪の場合は、途中に1件だけあるローソンに避難するしかない。その前には、通勤途中の最大の難所である場所が待ち構えていた。


 ここではかって、何回もハザードをつけながら、徐行しながら走りきった場所である。


意を決してオヤジはその場所に向かった。が、おもったよりも吹雪いていない。




 時折、突風がオヤジの視界をうばうが、スピードを落として何とか難所を乗り切ったオヤジである。


 途中の網走に向かう一般道道線はもう閉鎖が入っていた。


 このままいけば、国道もまた閉鎖が入る可能性が大であった。


 前に走っていた車はオヤジの車が近づいていたのを確認すると、横に避けてオヤジを先行させようとした。

 吹雪の場合は先行車がいると、走りやすさは全然違う。その為、その車はオヤジを先に行かせて、自分が後につこうとしたのだが、オヤジはハザードを2回点滅させ、猛然と吹雪の中、イースを加速させた。


 毎日、走っているオヤジにとってはこのぐらいの吹雪は猛吹雪でもなんでもない。

みるみるうちに後ろに付いた車のヘッドライトは小さくなっていった。


 いよいよB町の高速道路のさしかかった。ここをすぎればオヤジの住んでいるところは、目と鼻の先である。

 

 が、無情にも高速道路も閉鎖が入っていた。






 脇道もすべて閉鎖され、帰る道は国道以外すべて無くなっていた。


ようやく、いつもの倍の時間をかけてB町にたどり着いた。


 ここでホテルの泊まるか?さらに走るか?最後の選択を迫られたオヤジであった。


「まだ走ろう。まだ視界は充分に見える。」そう、オヤジは自分に言い聞かせて、イースを走らせた。


B町を出た途端、いままでの吹雪が急変した。



 オヤジの住んでいる町まで残り8キロ。


 昨年、16時間近くも車に閉じ込められた苦い思い出が蘇る。


(また、オヤジは選択を誤ったのか??) ホワイトアウトで、目の前が全く見えなくなる猛吹雪にオヤジは一瞬、気弱になっていった。


「びびるな!!オヤジ!!お前は昨年ももっとひどい道を走っていたでないか!!


 自分で自分に活を入れながら走り出す。

 この場合、気弱になった途端、走ることができなることをオヤジは経験上、知っている。


 もうここからはカメラに画像を撮っている余裕すらなかった。



 残り、4km。愛機、イースのトリップメーターだけを頼りに、オヤジはゆっくりと、しかし確実に走り続けた。


 完全に猛吹雪で道が見えなくなる。前走車のテールライトだけを頼りに、オヤジはかすかに見える道を走り続けていた。


 そして、悪夢の立ち往生した場所にたどり着く。




今回は家族がいない、いざとなったらここから先は歩いてでも近くの民家に避難すればいい。


 そう思いながら、オヤジは時折、視界が見えなくなると車を止め、徐行しながらついにオヤジの住んでいる町までたどり着いた


 前走車はそこで力尽きたのか、早々とコンビニに避難し始めた。



おやじも最悪の場合はコンビニに車を止めて、歩いて自宅まで行けるとなったら、ようやく一息がついた。




ガクッ!!


 オヤジの自宅前、500メートル手前で急に愛機、イースに強い衝撃が襲った。

 衝撃の原因は、道に吹き溜まっている雪であった。


「ここが、こんなに雪が積もっているなら、オヤジの家の道は雪で覆われて走れないな。」


そう判断したオヤジは、近くの駐車場にイースを止めた。


「ありがとうな。イース。お前のおかげで、ここまで無事に帰って来れた。」


「だけど、これ以上もうお前は走れない。悪いけど、ここでお前を置いていく。明日、必ず助けに来るから、それまで辛抱してくれよな。」


 そうオヤジはここまで無事に走ってくれたイースのボディをそっと撫で、ジャンバーを首元まで深く締めた。


「ALIVE-必ず生きて無事に帰ってやる!!」


そう呟いたオヤジは一気にイースから冷たい外に出た。


 

 猛吹雪の中、家まで残り500メートルの道のりを一歩一歩、膝まである雪を踏みしめて、オヤジはゆつくりと歩いていくのであった。