9 ビリーブ(信じる心。)
その男と別れた仁は再び目的地を目指して走り出した。
「それでも走り続ける。か。」仁は男の言った言葉を繰り返した。
「そうだよなぁーー。俺がバイクを降りれる訳なんかないじゃないか。」
皮肉なことに仁がバイクを降りるラスト・ランと決めたツーリングが、改めて自分がバイクが好きだ。という事実を再認識した結果となってしまった。
だんだん目的地が近づいてくる。不意に涙がこぼれ、シールトが曇って前が見えない。
すると、一人、また一人と仁のバイクの後続を走るライダー達が現れ出してきた。
ZX-14R、ZRX1200,YZF-R1、GSR400,GB250と次から次に仁の後続に並んで走るライダー達。それは、クラブ:ホライゾンの会員以下、仁が昔から交流のあったライダー達であった。
最終的には、目的地のミーティング場についた時には、総勢100人以上のライダー達が仁の後続を走っていた。
目的地には麗羅(レイラ)が先に来て待っていた。
「お帰りなさい。仁。」
その言葉をきっかけに、後続を走ってきたライダー達は仁を取り囲み、次から次に言葉を発した。
「お帰りなさい。」
「お帰り、隊長。」
「お帰りなさい。」
各、ライダー達が仁を取り囲んで、肩を叩き合ったり握手を求めてきた。
(やっぱり、俺、バイクを降りれる訳がないよ。)
仁はミーティングに集まった全てのライダーから祝福されていた。
会場が笑いと笑顔に包まれている中、遠くから雷鳴が聞こえてきた。
ウォーーーン!!ウォオーーン!! ウォーーン!!
そして徐々にその音は確実に近づいて来た。
皆がその音のする方向に振り向く。
数分後にその音の主が現れた。
その音の主は、クラブ:紅(クレナイ)の総長である、崎 大輔であった。
現れたバイクは紅(クレナイ)のメンバー以下、関係クラブの総勢200名程の軍団となっていた。
皆に緊張が走る。
「よう。久しぶりだなぁーー。クィーン!!」
「あんたは・・・・」
「数ヶ月前の雨の高速でお前に抜かされた男さ。」
「今日はこの間の借りを返しにやってきた。」
「いいか。この女を黙って引き渡せば、お前達には危害を加えない。」
崎は集まっていたバイク仲間に命令した。
「待ってくれ。神崎は俺たちホライゾンのクラブの一員だ。」
「勝手にお前たちの思いどうりにはさせない。」
仁はWR250から降りて、崎に近寄っていった。
「お前は?」
「神崎のいるクラブの代表者の桐生だ。」
「ふーーん。代表さんねぇーー。俺は数ヶ月前に、この女から屈辱を受けた。その借りを今日、返しに来ただけだ。」
「それで、彼女に何をしたいと言うんだ。」
「ただ、レースをもう一度したいだけさ。」
「彼女のマシンはもうない。それに、もうあの頃のクィーンはここにはいない。」
「あの頃のクィーンがいないだろうが、どうかは関係ない!!。このままでは、俺はこの気持ちが収まりつかないんだよ。」
「俺とではダメか?」と桐生が尋ねる。
「お前とだと。」びっくりした崎。
「ああ。俺と勝負をしてくれないか?それで、あんたの気を済ませてくれないか?」
「仁。無茶よ!!あなた、まだ左手が使えない状態なのよ。」と、その言葉を聞いて麗羅(レイラ)が二人の間に割って入った。
「・・・・・・わかったわよ。あんたの言うとおりについていくから、この人たちには何も危害は加えないで。」
そして、覚悟を決めたように麗羅(レイラ)は言った。
その瞬間!!麗羅(レイラ)に対して厳しい言葉を仁は発した。
「麗羅(レイラ)!お前は黙っていろ!!漢(おとこ)はな。たとえ負けるとわかっていても、自分の女を守るためには、闘うことが必要な時があるんだ。」
「てめえの好きな女の一人守れなくて、何が隊長だ!!」
そして、仁は崎に詰め寄り「いいか、お前も一介のクラブの代表者を務める漢(おとこ)なら、ほかの奴らを巻き込むな。」
「お前の恨みはすべて俺が引き受けてやる。」
仁の瞳が怒りに燃えていた。
にらみ合う仁と崎。
しばらく、にらみ合いが続いた中、崎はふと笑った。
「すまなかったな。桐生さんとやら。俺は単に俺を負かすような腕のクィーンが惚れた男がどんな奴か興味があっただけなのさ。」
「あんたが半端な男ならボコボコにしょうと思っていたけど、本物の漢(おとこ)に手を出したとあっては、この紅(クレナイ)の総長の 崎 大輔の名前に傷が付く。」
「それと、あんたの左手の件は済まなかった。俺の傘下の者たちが勝手にやったことだが、あんたたちにもう手を出せないようにしておいた。」
と、仁に向かって頭を下げた。
「さあ、お前たち。引き上げるぞ!!」と崎の合図をきっかけに、次から次に引き上げていく紅(クレナイ)のメンバー達。
後には、仁と麗羅(レイラ)達が取り残されていた。
しばらく経ってから・・・・・
「改めてお帰りなさい。仁。」
「ああっ。ただいま。」
「で、あんたはこれで、バイクを降りるの?」
「・・・・・・・・・・・すまない。麗羅(レイラ)。俺、やっぱりバイクから降りれないよ。」
「たとえ、この左手が使えなくても、バイクに長時間乗れなくなっても、俺はバイクを降りることができない。」
「それでも走り続けるよ。」
「ええ。そう信じていたわ。」麗羅(レイラ)は仁に向かって優しく微笑んだ。
そして仁に新しいバイクのキーを渡した。
「何だこれ?」 不思議そうな顔をする仁。
「はい。これは、私たちホライゾンのメンバーからの贈り物!」
渡されたキーは、仁の前に停められていた新しいバイクYAMAHA TMAX500 であった。
そして、新しい相棒を手に入れた 桐生 仁 は今日も走り続ける。
※TMAX(ティーマックス)とは、ヤマハ発動機が製造販売するオートバイ(大型自動二輪車)の車種である。一般的な車体種別ではスクーターの一種であるが、同社ではオンロードスポーツタイプの一つとして取り扱っている。
エピローグ
仁がいつも馴染みにしている人のブログである記事が目にとまった。
それは、その人がバイクで尊敬している人が亡くなった記事が書かれてあった。
いつの間にか仁は涙していた。そして、その人のブログにコメントを入れていた。
「こんばんは。この記事を読んで、何故だか涙していました。亡くなられたかたのご冥福を心から申し上げます。」
すると、すぐに別な人から、自分と同じようなコメントを発した男が現れた。
ずいぶん、自分の感性に近い人だと思い、仁はその時不思議とその男のブログに興味をそそられた。
その男のブログを開いてみて、仁は「アッ!!」と驚いた。
その男はかって仁が左手を損傷し、バイクを降りようとしたあのツーリングで出会った男であった。
数ヵ月後、仁は彼のブログからクラブミッドナイトのサード・ナンバーになることを決意した。
クラブ・ミッドナイト サード・ナンバー 隊長さん。
セカンドストーリー
完

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