「それでも走り続ける2」ACT4 | クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

TYPE Rの称号を与えられなかったもう一つの悲運の車

8 それでも走り続ける。



1週間後の各クラブの集まる、バイク・ミーティングは始まった。


仁は朝早くからWR250に乗り込んだ。


左手の感覚がない今、休み休み会場に向かうつもりであった。


クラッチを切るごとに左手に激痛が走る。顔をしかめる仁。


「ヘヘヘヘ。のんびり、焦らずに行こうぜ!!どうせ俺は世界最遅を目指す漢(おとこ)さ。」


途中、高速に乗る。


前に125ccクラスの小型の黒いバイクがゆっくりと走っていた。


「やけに小さいバイクだな。高速は125ccは違反だろうが。」


その小柄なライダーの装備は、黒のシンプソンのヘルメットと全身、革のプロテクターを身につけていた。

しかもご丁寧に、腕と足にもプロテクターを付けていた。


「バトル・スーツ??」


仁はその装備が、昔、ニンジャとカタナの走り屋の間で流行った服装だと悟った。


「一体、どんな奴が乗っているんだ?」


急にそのライダーに興味が出た仁は、加速を行いそのバイクと並んだ。


その瞬間!!


ドゴーーーーン!!


図太い排気音を残し、黒いライダーは消えさった。


仁は昔、試乗会で乗った1台のバイクを思い出した。


「あいつはもしかして、ビューエルかっ!!」


250ccのフレームに1000ccの排気量のハーレーのエンジンを無理やり積み込んだ化物。


 今でこそ高速はリッタークラスのSSバイクにはかなわないが、峠はその軽さとマスの重心化によって、無敵の存在と化する。

 しかし、その代償に振動が激しく、乗り手を選ぶマシンと言われたバイクであった。



途中のPAでトイレタイムを行おうとした。

と、その時、先の黒いマシンが止まっていた。

「やっだ!!」


すぐに仁はPAに向かった。トイレからバトルスーツを着た男が出てきたところであった。


その男は50歳ぐらいの初老の男であった。


「こんにちは。」仁はその男に向かって声をかけた。


「・・・・・・」その男は無言ではあったが優しいまなざしで仁を見つめていた。


歩くと少し左足を引きずっている。


「その足・・・・」


「ああ。これか。昔、若い頃に自分の力を過信したときの名残さ。」

「若い頃は自分が無敵の存在に思える。有り余るパワーを自分のものに出来る。と思わず過信するのさ。」

「しかし、過信した運転にマシンはすぐに裏切ろうとする。」


「今では左ヒザをくだいたこの足には、重量のあるマシンは無理だからこいつに乗っている。」

と道路脇のビューエルを指差した。


「足を引きずる事故にあっても、バイクは止めないんですか?」


「ああ。それでも走り続けてるよ。」


「バイク乗りは誰もが悲しみを一つや二つ背負っている。しかし、それに立ち向かって走る奴らを、俺はキリン(バイク乗り)だと呼んでいる。」


「キリン・・・・」仁はその男見つめて呟いた。


「そう、悲しみを乗り越えて走る奴らの事さ。」


「君もそうだろう。今の君は自分の運命に立ち向かう為に走っているのだろう。」

「俺には、さっきの君の走りがそう思えた。」


「実は俺・・・・」 仁はその男に自分の今の想いを急に打ち明けたくなった。


男は左手で彼の話を静止し、

「それじゃーな。若きキリンよ。またどこかで会おう。」

軽く左手を上にあげて、仁と別れを告げた。


 走り去る彼の革のジャケットの背中には、中世の騎士の姿と クラブ:ミッドナイト というマークが描かれていた。






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