「それでも走り続ける2」ACT2 | クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

TYPE Rの称号を与えられなかったもう一つの悲運の車

  4 新メンバー


その女性が仁達のバイククラブ:「ホライゾン」に入会したのは、それから1週間ほど後のことであった。


「今日から我がホライゾンに入会する事になった新メンバーの神崎君だ。マシンはHIONNDA CB400SF  みんな、仲良くしてやってくれ。」仁は1週間前にガソリンスタンドで出会った女性をメンバー達に紹介した。


「よろしくっす。」

「隊長はガタイはゴツイけど、走りは遅いから、一緒に走るときは安心してくれ。」

「おい!!走りは遅いは余計だ。」

その途端、クラブ員から笑いが起こった。


「それでは今日のツーリングの予定は、高速に入ってから、昼には●●峠で全員集合とする。」

「各自、自分の力量で事故のないように。」と、いつもの仁の挨拶が終り、各自がそれぞれ走り始めた。

「それと、神崎君は初めてだから、俺と一緒にくるように。」

「はい。」


「そういえば、君の名前聞いていなかったね?」

「麗羅(レイラ)。神崎 麗羅(レイラ)です。」

「ふーーん。まるで、アニメかマンガに出てくるような名前だね。」

「そうですよね。昔、その名前でクラスのみんなに冷やかされて、いつも一人だったんです。」

「私、自分の名前、嫌いなんです。」

「そうなんだ。」

「そういう、隊長さんだって、桐生 仁って、まるで小説の主人公に出てくる名前みたいですよ。」

「ほっといてくれ。」


ヘルメットのインカムから、仁と麗羅(レイラ)がそれぞれが交信し合う。


「隊長!!神崎さんとの交信もいいですが、走るがおごそかになっていますよ。」

「後続からだいぶ遅れてます。」とシンガリを勤めている、副隊長から連絡が来た。

「おおっ!!すまんすまん。少しピッチを上げるよ。」


徐々に加速を始めるZ1000。

驚いたことに麗羅(レイラ)の乗るCB400SFもしっかりとついてくる。

「さっきみんなが言った、隊長はガタイはゴツイけど、走りは遅いって本当だったんですねぇーー。」

「アハハハ。そうさ!!俺は世界最遅を目指す漢(オトコ)だからな。」と、言って仁は豪快に笑った。

「クスッ。」と軽く微笑んで麗羅(レイラ)は久しぶりに、バイクで走ることが楽しいと感じることが出来た。

「隊長さん。少し先に行っていいですか?」

「ああ。構わないよ。ホライゾンの決まりは自分の力量で走ることなんだ。」


麗羅(レイラ)はコクリと小さく頷いてから、CB400SFのアクセルを吹かした。


 その乾燥重量、194kg、53馬力の赤いマシンは、麗羅(レイラ)の意思に答えるかのように、フロントを軽々と上げて、隊長の目の前から消え去った。


「とんだ曲者だな。あのネーちゃんは。とんでもない子を拾ったかもしれないな。」

遠くに去りゆく麗羅(レイラ)のマシンを見つめ、仁はボソッと呟いた。


その夜の「ホライゾン」のミーティングは大騒ぎであった。

 新人の女性ライダー。神崎 麗羅(レイラ)があれからトップ集団に追いつき、リッタークラスのバイク達と対等に渡り合ったのだ。

 しかし、クラブ員の誰もが、彼女を賞賛することはあったが、くさすものはいなかった。


 麗羅(レイラ)は心地良さをこのクラブに感じていた。





5 事故


 麗羅(レイラ)が「ホライゾン」に入会してから、数回のツーリングか開催された。

ツーリングの最終地点での峠では麗羅(レイラ)の独占場であった。


 ただでさえ、テクニックのある彼女が乗る車重の軽いCB400SF。峠では誰も彼女に敵うライダーはいなかった。


 そんな中、いつものように麗羅(レイラ)が峠を先頭で走っている時に、1台の車が駐車場に止まっていた。その車はランサーエボリュションⅤ型であった。

「おい。あの赤いCB400SFと漆黒のシンプソンのヘルメットって、まさか数ヶ月前に消えた首都高クィーンでないか?」

車に乗っていたドライバーが助手席の男に訪ねた。

「ああっ。間違いない、ヘルメットの横に真紅のバラが描かれている。」

「そうだと知ったら、紅(クレナイ)の崎先輩に連絡をしておけ。崎先輩、あれからいろいろとクィーンを探し回っているみたいだぞ。」


「そうだと知ったら、行くぞ!!クィーンを仕留めたら、俺たちの格が上がる!!」そう言いつつ、ドライバーはエボVのシフトをローギァーに叩き込み車を発進させた。


 猛然と迫り来る車を認めた麗羅(レイラ)は、その車をやり過ごそうと、CB400SFを横によけた途端、エボVのドライバーは麗羅(レイラ)の前に立ちふさがり、急ブレーキを踏んだ。


「!」


 その瞬間、麗羅(レイラ)の体が宙に舞った。


後続で見ていた隊長は顔色を変えた。

「大丈夫か?神崎。」

「イタタタタ。大丈夫。結構、飛ばされたけど、落ちたとこは草むらだったから体は大丈夫。」

「だけど、あたしのバイクは・・・・・・・・・」


赤いCB400SFのフレームは完全に折れていた。

「あたしのCB・・・・・・」


「野郎!!」その時、仁は怒りに燃えていた。

 

 仁はバイクに乗っていて自分に危害が及ぶことは気にならなかった。しかし、仲間に危害が及ぶことは我慢ならなかった。

「神崎を頼む!!」と後続のバイクに言い放つと、猛然とZ1000を加速させ、麗羅(レイラ)に危害を加えた車を追っかけていった。


 そんな仁を見つめ、麗羅(レイラ)は仁の速さは自分がバイクで速く走ることではなく、人の為に走る速さだと理解した。




 十数分後、仁は麗羅(レイラ)に危害を加えたドライバーに追いつき、車から引きずり下ろした。


「ホライゾン」の仲間の連絡によって警察が来て、エボVのドライバーは逮捕。そして、麗羅(レイラ)のバイクの弁償と手続きをすませた。


 その帰り、仁のZ1000のダンデムに乗った麗羅(レイラ)は仁にそっと呟いた。

「ありがとう。隊長。」

「まあな。俺は世界最遅を目指す漢(オトコ)だ!!今日は特別だぞ。」







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