「それでも走る続ける2」 ACT1 | クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

TYPE Rの称号を与えられなかったもう一つの悲運の車

1:自由な翼


「36番。桐生 仁。」

「はい。」

「合格です。おめでとう。これから、安全運転をしてください。」

「はい。ありがとうございます。」


仁は試験官から、うれしそうに原動付き自転車の運転免許を受け取った。

 30代で始めて手にした運転免許証。

早速、家に帰った仁は買ったばかりの中古のRZ50に跨った。


 YAMAHA RZ50大きさは正しく自転車と同じぐらいの大きさだが、排気量49cc。7.2馬力のマシンは今まで自分で運転できる乗り物は自転車以外は乗れなかった仁の体を強烈に加速させていった。


強烈な加速の中で、何かが仁の中で弾けた。


「俺は自由だっ!!」そう仁は叫び、RZを加速させている仁の全ての柵(しがらみ)を解き放っていった。



 桐生 仁は幼少の頃から弱視であった。その為、バイクや車の運転というものは、一切出来なかった。

20代になり同級生達が次から次に車を持ち始めた頃から、いつしか車が運転できない。ということが仁のコンプレックスとなっていた。


 コンプレックスを持っている人間は強い。20代の頃から仁はその、コンプレックスをバネに誰よりも仕事を行い、20代後半で気がついたときは、有名企業の一角の地位のある人間になっていた。


 そしてお決まりの会社の倒産。

今までの仁の生活は一気に奈落の底に落ちた。


 再就職の焦り、生活への不安。また、弱視である仁をどの企業も取ろうとはしなかった。

正しく、仁はその時は人生のどん底にいた。


そんな中で、ある1枚の写真が目にとまった。


 それは一人の男が、真っ赤な太陽が落ちていく果てしない地平線に向かって、どこまでもバイクを走らせている写真だった。


「いいなぁー。これ。」 誰もいない部屋で、仁は自然とつぶやいた。


そして幼い頃から憧れていた、バイクに不意に乗りたいと思った。


30代でいきなり訪れた自由な時間。


「そうだ。この目さえなんとかなれば、免許は取れるかもしれない。」


 翌日、仁は早速知り合いの眼科に行った。

先生の話を聞くと、仁の場合は弱視をおこしているもとの病気があり、その病気を手術によって治す事で視力が回復する。ということであった。


 そして、数ヵ月後、仁の視力は回復し、原動付き自転車ではあるが、初めての運転免許の取得を行ったのであった。




2 仲間達


 

 始めて乗ったバイクがよほど、仁にあっていたようで、原付に乗り始めてから半年後には、仁は大型自動2輪の免許取得を行った。

 翌年、仁はカワサキ Z1000のオーナーとなっていた。


 仁は30代からの遅れてきたライダーだ。しかし、彼のバイクに対する熱い情熱が、かれの取り巻く周りを熱くし、どんどんと彼の周りには人が集まってきた。

 不思議と仁がバイクに乗り出すと、彼の周りがうまく動き出してきた。


バイク仲間からの紹介で仁の新しい就職先も決まった。


「楽しく乗ろうよ!!」という言葉が仁の口癖であった。


いつしか、仁の周りには仲間が30人ぐらいになりだした。


 集団でバイク・ツーリングを行う場合は危険を伴う。技量のあるものとないものが一緒に走ること事体が無理な話であった。


必要にかられて、仁の集まった仲間たちはクラブを作り出した。


「ホライゾン=地平線」それが、彼らのクラブ名であった。


 その名前は、昔、仁が人生の絶望の中で、どこまでも真っ赤な太陽目指して走っていくライダーの姿から付けられた名前は言うまでもない。

 仁はその初代代表者、隊長と呼ばれるようになった。



3 出逢い


ツーリング先のガソリンスタンドにて。


「隊長!!一番隊の奴ら、もうさっさと次の目的地に向かっています。」

「ああ。勝手に行かしとけ。どうせあいつらはスピードが命だから、先に走らせたほうが、後続隊が無理なく走れるから都合がいいよ。」

「お前も先に行きたいんだろう?俺に構わず、さっさと行っていいぞ。」と隊長が連れの男に言うと、

「そうですか?それでは、お先に失礼致します。」と、隊長に頭を下げ、連れの男は猛然とRZV500Rを加速させ走り去っていった。


「はい。ハイオク満タンですね。」隊長のZ1000に若い女性スタンド・マンがガソリンを入れに来た。

「皆さんでツーリングですか?良いですねぇ。」


「君もバイクに乗るんだろう?さっき休憩所で女性用のツナギと黒いシンプソンのヘルメットを見たよ。」


「ええ。しかし、私は下手だし400ccなので皆さんと一緒に走ると、足でまといになりますので。」


「バイクに乗るのに、上手も下手も無いんだよ。」

「俺たちのクラブはバイクは楽しく乗る。というのが主義なんだ。」

「もし、良かったら、今度一緒に走ろうよ。うちのクラブは君のような女性ライダーも何人かいるから、一人で乗るよりも絶対に楽しいと思うよ。」


 隊長の邪意のない言葉が、不思議と彼女の心を捉えた。


「ええ、いつか機会があれば。」

「ああ。きっとだよ。連絡、待っている。」と言い、隊長は彼女にクラブ「ホライゾン」の連絡先を渡した。

「では、また。」


遠ざかる隊長のZ1000の後ろ姿を見て、連絡先を受け取った女性は、

「だけど私はいつも走りだしたら一人ぼっち。誰も仲間なんていない。」とさみそうに呟いた。







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