プロローグ
1 「首都高クィーン」
最近、首都高をテリトリーとしている、走り屋の中で、ひとつの噂になっている話。
「いくら、おまえのバイクが古いって言っても、1100ccのチューンド・カタナだろ?それを抜かすのは、眉唾な話だろう。」
「後ろから来た。と思ったら、あっという間に抜かされたんだよ。しかも、そいつは400ccクラスのバイクだったよ。」
彼らの話をまとめてみると、首都高の水曜日の真夜中、1台の400ccクラスのバイクが、リッタークラスのバイクを相手にバトルを挑み、抜かしていくという話であった。
そのバイクのトップスピードは180km/hで頭打ちになるので、張り合ったバイクは直線では抜かすものの、コーナーで必ず抜かされていく。ということであった。
しかも、その乗り手のヘルメットは漆黒のシンプソンで、両サイドに真っ赤なバラのイラストが描がかれ、そのライティングスタイルから、どうやら女性であるということであった。
その為、いつしかバトルで負けたライダー達からは彼女の事を「首都高クイーン」と呼びようになった。
「総長。自ら出撃だけはおやめください。」
「俺たち、紅(クレナイ)のメンバーがその女に負けたままで言い訳がないだろう。」
「やられたらやり返す。それが俺たちの主義だろうが!!」
クラブ・紅(クレナイ)の総長である、崎 大輔は部下である男を叱りつけた。
「俺のマシン(ZX-10R)を用意しろ。そして、その首都高クィーンと呼ばれる女は誰なのか、徹底的に洗い出せ。」
崎が作り上げた紅(クレナイ)は首都高をテリトリーとする、速さを売りにしているクラブであった。
各ステージで最速の走り屋達を見つけては挑み叩き潰していき、いつしか、紅(クレナイ)は 首都高最速ランナーと呼ばれていた。
先週の水曜日、クラブ・紅(クレナイ)のメンバーの一人である、チューンド・カタナに乗る男がクィーン
に抜かされ、その噂がたちまちのうちに走り屋達に広まっていった。
「神崎 麗羅(レイラ) マシンは真っ赤なHONDA CB400SF。そいつが、クィーンと呼ばれる女なんだな。」
紅(クレナイ)の情報網により、首都高クィーンと呼ばれる人物が判明した。
「よし、今度の水曜日の12時に、この紅(クレナイ)の崎がクィーンを撃墜する。と周りに広めておけ。」
翌週の水曜日。PM:10:00
「やはり行かれるのですか?」
「ああ。コイツと公道で走るのは久しぶりだな。」
紅(クレナイ)の総長である崎は、充分に暖気されたZX-10Rに跨り部下である男に言った。
「公道での走りはレベルが低いから、今はこいつ(ZX-10R)はサーキットオンリィになっちまったが、やはり今でも公道でのバトルは血が騒ぐよ。」
彼のマシン(ZX-10R)は 真っ黒なカラーリングにクラブの証である紅(クレナイ)の刺繍のエンブレムをつけていた。
「やられたら、やりかえす。これが俺たち紅(クレナイ)の掟だ!!」そう言い残して、崎はZX-10Rのクラッチを静かにつなげた。
ドーゴーーーン!!
レース仕様のZX-10Rの図太い排気音がいつまでも木霊していった。
AM:0:00
崎は高速道路の緊急避難帯で1台のバイクを待っていた。
遠くから甲高い集合管の音がする。
「やつだ!!」
そして、それはすぐに、崎に向かって近づいて来た。
「!」
あっというまに崎の横を通り過ぎる赤いマシーン。
それを認めた崎は一気にZX-10Rを加速させた。
急激なパワーにマシンは舗装にも関わらず、リァタイヤが左右に振れる。
暴れるマシンを強引にネジ伏せて崎は、遥か彼方の赤いCBを追いかけていった。
直線では排気量が2.5倍ある10Rがパワーに物をいわせ、みるみるうちにCBに近づいていった。
「クィーン!!あんたも不運だな。このレーサーあがりの崎様が来たからには、もうおまえの不敗伝説も御終いさ。」
クィーンのCBはトップスピード180km/h前後で頭打ちを始めていた。その横を圧倒的なパワー差で抜かしていく崎。
空がいっしか湿りを帯びていた。
ピカッ!
一瞬、前方で眩しい閃光が走った!!
それをきっかけに雨が降りだした。
崎のシールドが雨で視界が不良になり、アクセルをおもわず緩めてた瞬間、その横を再びクィーンのCBが抜かしていく。
「クソッ!!」崎は舌打ちを行い、再びアクセルを吹かす。
ZX-10Rの大パワーが災いして、一瞬後輪が空転を起こす。
そして次の瞬間、崎のZX-10Rは大きく蛇行し始めて暴れ始めた。
暴れるマシーンを沈めた時には、クィーンのCBは遥か彼方に去っていった。
「クソッ!!俺様が負けるなんて!!。神崎麗羅(レイラ)。この借りは必ず返すからな!!」
崎の瞳は怒りに燃えていた。
それから、クィーンと呼ばれたライダーは2度と首都高には現れなかった。