さてさて、今日もまたまたやっちゃいました。
C・MN(クラブ・ミッドナイト)セカンドナンバー・所長さんのサイド・ストーリーです。
何だかテンポの早い展開に、オヤジ自身が付いていけません。
予定では、この小説でひと冬、誤魔化すだったんだけどなーーー。
_| ̄|○ ガックシ!!
3 別れ。
怜(レン)が進藤の死を知らされたのは、それから3日後の事であった。
怜(レン)の走行車線にかぶさった進藤のバイクと怜(レン)のバイクが接触。
進藤は怜(レン)のバイクにはねられ全身を強く打ちまもなく死亡。怜(レン)も転倒し意識を失い、緊急病院へ搬送。そして、意識を取り戻した当日の事であった。
数ヵ月後、病院から退院した怜(レン)は主(あるじ)を失った進藤宅に訪れた。
彼は進藤の位牌にお参りをしたあと、進藤の妻である美里に話しかけた。
「娘の優奈ちゃんと一緒に故郷の北海道に帰られるんですね。」
「ええ。ここは、進藤の想い出がいっぱいあるの。だから、このままここで生きていくのは辛いの。」
と、美里は寂しそうに答えた。
「そうですか。残念です。」怜(レン)も寂しそうに答えた。
「怜(レン)お兄ちゃん。さようなら。」幼少の進藤の娘も、そんな二人の雰囲気を察してか、悲しそうに怜(レン)に別れを告げた。
4 新シーズン。
進藤が亡くなってから、ひと冬が越えた。
新しいシーズンになってからの、怜(レン)の走りは精彩を欠いていた。
もともと、彼は感性で走るライティング・スタイルであったが、進藤の死以降、自分のリズムが狂いだした。
1戦目。マシントラブルでリタイヤ。
2戦目。追従していたバイクと接触。転倒。
3戦目。ようやく完走するも12人中9位という悲惨な結果となっていた。
皮肉な事に事故を起こした張本人の相沢はケガは無く、あれからスポンサーも付き、ニューマシン・ハヤブサをかり、今シーズンのランキングトップを走っていた。
「あいつも(レン)もう終わりだなぁー。昨年は天才ライダーと騒がれたにの、今じゃもうガタガタだ。」
「引退だよ。引退。あいつのマシンを見たか?昨年からの12Rだからエンジンももうボロボロで、走っているのがほとんど奇跡に近いよ。」
「あいつとは一緒に走るなよ。進藤さんの二の前になったらお仕舞いさ。」
心無いライダー達は成績の悪い怜(レン)の事をそう噂しあった。
そして、4戦目の最終の鈴鹿戦が近づいてきた。
5 進藤家の墓前にて
「進藤さん。俺、もうダメかもしれません。」
怜(レン)は進藤のお墓の前で深々と頭をたれた。
「もう、あの事故以来、マシンの声を聞くことが出来ません。いや、バイクに乗ることさえ嫌になっているのかもしれません。」
「俺、バイクで走っていると、相沢に憎しみを覚えながら走っています。」
「事故を起こしたあいつ(相沢)は、今じゃスポンサーも付いて、ニューハヤブサで出場。こっちといえば、昨年からのZX-12Rでもうボロボロです。これでは最終戦は戦えません。」
「しかも、最終戦は有名な国際ライダーも参戦するそうです。」
「もう、何もかも嫌になりました。このまま、最終戦を待たずに引退もいいかもしれませんね。」
と、一人寂しげに進藤の墓の前で自分の心の中をぶちまける怜(レン)であった。
と、その時、
「なに、そこで一人、黄昏ているの!!」と、後ろから女性の声がした。
怜(レン)が驚いて後ろを振り向くと、その声の主は進藤の奥さんの美里であった。
そして、娘の優奈も一緒にいた。
「美里さん。優奈ちゃん。戻って来たんですか?」怜(レン)の嬉しそうな声が響く。
「あなたの最終戦を、進藤に見せたくて帰って来たの。」
そう言い、美里は進藤の遺影を怜(レン)に差し出した。
「だけど、俺のマシンはもうボロボロで、最終戦にも出れるかどうか・・・・・」
うつむく怜(レン)。
「進藤からあなたへすてきな贈り物を用意しているわ。早くガレージに戻りなさい。」
「贈り物?」
「ねえ。怜(レン)。その代わり一つ約束をして頂戴。」
「約束?」
「ええ。もう決して憎しみを抱(いだ)いて走らないで頂戴。」
「あなたの監督から、あなたのことはずっと聞いていたわ。もう怜(レン)はダメかもしれない。とね。」
「だからね、進藤のマシンをあなたが乗る時に、憎しみを抱いて走ってもらいたくないの。」
「進藤先輩のマシンを僕にですか?」怜(レン)の顔が輝いた。
「ええ、いいから早く戻りなさい。」
走る。走る。怜(レン)の乗ったZXR1200はひたすら走った。彼の元に届けられた進藤のバイクを目指して。
6 ニュー・マシン。
ガレージには怜(レン)の監督が待っていた。
「遅かったな怜(レン)。進藤の奥さんから、お前にってコイツが届いた。」監督は怜(レン)にバイクからカバーを外しながら話した。
そいつは大柄な漆黒なボディで、鋭角な6眼のフェイスだった。
「ZX-14R!!」驚く怜(レン)。
「そうさ、ニュータイプの14Rだ!!あの世界最速のハヤブサをぶち抜くために開発されていたマシンだ!!」監督は興奮気味に怜(レン)に話した。
怜(レン)がふと14Rの横を見ると・・・・・・
そこには進藤の愛機である証のL字マークが施されていた。
「レディ!!」
「そうだ。進藤の愛機のレディだ。進藤は今期をこいつで走るつもりで、用意していたんだ。彼の奥さんは進藤なき今、このマシンを怜(レン)に乗せてやってくれ。と俺に頼みに来たんだよ。」
怜(レン)はそっと、そのL字マークをなでた。
「ねぇ。監督。このマークは消さないでください。進藤先輩も一緒に走りたいと思っているのかもしれませんね。」怜(レン)は久しぶりに安らかな笑顔に戻っていった。
7 鈴鹿最終戦。
ピットにて。
ウォン!!ウォン!!ウォン!!
あたりからレーシング・サウンドがなり響く。
「プロダクションレース:鈴鹿最終戦!!現在、トップ・ランキングはゼッケン10番:相沢浩二選手。マシンはスズキのニューハヤブサ。」会場のアナウンスが流れる。
「今回はスポット・参戦で、国際級ライダーの片山選手も出場されています。マシンはこちらもニューハヤブザでの参戦です。国際級の片山選手に対して、相沢選手がどれだけ戦えるかが、今回の見所になっています。」
「用意はいいか?怜(レン)。」と監督は怜(レン)にスタートが近いことを告げた。
「ええ。今日は久しぶりにいい走りができそうです。」怜(レン)の目は落ち着いていた。
そこに現れたのは美里と娘の優奈であった。
「今日は随分いい顔をしているわね。怜(レン)。」優しい美里の眼差し。
「ありがとうございます。美里さん。今日は進藤先輩に恥ずかしくない走りをします。」
「お兄ちゃん。」と、優奈が声をかけた。
「何だい?」
「今日のレース!!勝ってね!!」
「ああ。今日は誰にも負ける気がしない。」そこには怜(レン)の自信に満ちあふれた顔があった。
ふと、怜(レン)は美里を見ると。
「なに、グズグズしているの。さっさと入りなさい。」と、美里は外にいる人物に声をかけていた。
その人物を見た怜(レン)は驚いた。
「涼子!!涼子。戻ってくれたのか?」
「う・うん。」と恥ずかしげに彼女は答えた。
「ごめん。怜(レン)。あの時、あなたが一番助けを必要としていた時に、私はあなたから逃げ出したかったのよ。」
「いや。いいんだ。君が戻ってくれただけで、もうそれだけでいい。」
怜(レン)の心は晴れ晴れとしていた。
もう、充分だ。自分には走れるマシンがあり、先輩の美里さんがいてくれて、涼子も戻ってくれた。
これでもう充分だ。
続く。