「14Rのトラコンのレベル3は砂利道でも、空転しないように発進できるぐらいの機能だから、レベル1でも多分、ウイリー防止機能は入っていると思うよ。」
「そうか、今度解除してみるよ。楽しみだな。」と、E君の目は輝いた。
と、言って2か月前に別れた、初代レディ、14Rの嫁ぎ先のE君は、あれからピタリとオヤジのもとに顔を出さなかった。
(もしかして、14Rのトラコンを解除して、彼は200馬力の餌食になったのでは??)と密かにオヤジはE君の事を心配していた。
「オヤジ!!久し振り!!」と言いながら、今日の閉店間際のオヤジの店に彼は現れた。
「おっ!!E君!!元気だった?」
「あまり顔を出さないから、まじで200馬力の餌食になって、200km/hのトンネルで散ったか?と心配していたよ。」
「おいおい。勝手に殺すなよ。しかし、14Rはあまり速いと実感しないバイクだねぇーー。もっと、ガンガンフロントが浮くバイクだと思ってたよ。」と、彼は笑いながら答えた。
「ふーーん。あんまり、浮かないんだ。」
「ああ。ハヤブサなんて3速でもガンガン、フロントを持ち上げるみたいだよ。」
「そうだねぇーー。もともと14Rの開発者は乗り手を安全に、超ド級クラスのスピードにいざなうマシンとして作られたそうだよ。」
「ハヤブサの暴力的な加速とは、反対に気が付いたらいつのまにか、ハイスピードの領域に入っている。という感じなんだ。」
「こいつのデビュー戦で、ハヤブサとの0-400対決で、ハヤブサが相手にならなかった。というCMをやったおかげで、スズキからクレームが入った。という映像もあったよ。」
「そうなんだ。」と少し考え込むE君。
「で、どうなの?14Rってそんなに遅いバイクだった?」
「いや。それが・・・」と言うなりE君はニャリとした。
「14Rで走ると、今の俺たちのグラブの中では相手になる奴はいないんだよ。」
「うんうん。」
「昨年、俺たちのクラブに新しい人が入った。という話をしたよな。」
「ああ。確か、昔、鈴鹿を走っていて、2007年式のハヤブサを手に入れた人だったよね?」
「そうそう。その人でさえ14Rについてこれないんだよ。」
「えっ?だっていくら2007年式と言っても、あのハヤブサでしょう?」
「そうそう。多分一番テクニックはうまいんだけど、彼はマシンの差だ。と悔しがっていたよ。」と笑いながら、E君は「本当にありがとうな。オヤジ!!」と、オヤジに再びお礼を言った。
「いや、良いんだ。俺も、E君が14Rを買ってくれたから、今のマシンを手に入れることが出来たんだから。」
「そいえば、ビー・何に乗っているんだって。」
「ああ。ビューエル。1000ccのHDのエンジンを250ccのフレームに乗せたマシン。」
と、言いながらオヤジはレディ9の雄姿をE君に見せた。
「おっ!!カッコいいねぇーー。こいっ。かなり走りそうだね。」
と彼はレディ9の姿を見た途端、SSイーターとしての本質を見抜いた。
それから、E君とは少し近況を話してから別れた。
「じゃー。安全運転でね。おっと、安全運転は愚問か。」と笑いながらE君を見送ったオヤジであった。
バイクはいい。高校時代、同じクラスではあったが、彼とは全然付き合いはなかったE君。
同じ高校であったが全然面識のなかった、友人I。今ではオヤジの無二の親友だ。
それが、バイクという共通の趣味を持っことにより、昔から親しかった友人のような付き合いが出来る。
オヤジが手に入れたものはバイクではなくて、バイクを通して心から話し合える友人だったかもしれない。
