あの朝、富良野から帰った日曜日、少しの仮眠でオヤジは気力が充実していた。
朝から天気も良く、まさにレディ9とのデートにはもってこいの日であった。
「朝から走ろうか?」とオヤジはレディ9のキーを取り出した。
しかし、ある違和感があった。
「何か変だ?以前にも同じような事があった気がする?」
そう、それは昨年の8月に、500マイル・トイレで、徹夜で走りきった翌日、初代レディ14Rに乗って、いきなりの転倒、そのままバイク生命を絶たれたときの感覚に似ていた。
バイクの運転は甘いものではない。体調の悪いまま、間違った判断を行えば、即、事故やケガ、最悪の場合は死さえ訪れる。
オヤジの感じた違和感は、睡眠不足のための高揚感。それはまるでジャンキー(麻薬中毒者)のように、自分では気力が充実していると感じているが、実際は体が疲れていたのであったのだ。
結局、その日は午前中は仮眠、昼からは家族の用事たしに追われ、実質、レディ9に乗れたのは、夕方の6時から30分ほどであった。
そして、今日の午後からはそのリベンジ。しかも、今日もまた4時間ほどしか眠れなく、睡眠不足から起きる疲れで、昼から何をするでもなく2時過ぎまでボーツとテレビを見ていた。
「あせるな、乗るチャンスは必ずある。今はとりあえず10分でも仮眠するんだ。」
オヤジは刻々と過ぎ去る時間、焦りを覚えながらソファーに横になった。
人間は10分でも仮眠を行うと、体力が充実する。
気が付くと3時近くになっていた。いつの間にか寝ていたようだ。
久しぶりに頭がスキッとする。
「よし、出撃だ!!」
久しぶりのバトルスーツ。
今回は8月のツーリングに対する、仮想装備を行う。
まずはカドヤのバトルパンツとレッグプロテクターを装着。
ブーツを履いたあと、両足に違和感が無いか、何回か足を動かして確認。
続いて、カドヤのハンマーグローブにアームプロテクターを付ける。
いや、8月後半だ。気候は今よりも寒くなる。
ということで、イェローコーンの手首まであるグローブを選択する。それに伴い、アーム・プロテクターを外す。
久々にレディ9に跨る。始めて跨いだときは、小柄な車体とバック・ステップによって、すこしポジションがキツイと感られたが、今は違和感ない感じである。
セルボタンを押す。
キュルキュルキュル!!
バゴーッ!!
ハゴーッ!!
たちまちレディ9の排気音から図太い音が聞こえた。
ギァーを1速に落とす。そして、OYAZIは静かにレディ9を発進させた。
今日の目的地は、A市の道の駅と湾岸か?それとも、SSイーターの得意なステージのB峠か?
結局、その日の気分でOYAZIはB峠に向かう。
バスーン!!バスーン!!
しばらく乗ってないせいか、レディ9はバックファイャーを起こし、ギグシャクしながら走り始めた。
それに伴いOYAZIも運転慣れを行うため、レディ9を最初の数キロはゆっくりと走らせていった。
そして、ゆっくりと高速道路に入る。前走車との距離を車2台分ほど開ける。
ハイスピードでの走行で、前走車との間隔を詰めるような愚かな行為はしない。何かあって、前走車が急ブレーキをかけたら、ひとたまりもないからだ。
しかし、常に、左の路肩に逃げるようにして走る。が、決して左端は走らない。
バイクで左端に寄りながら走ると、車のドライバーの心理として、つい、バイクの前の前走車の後ろを走りたくなり、結果、バイクは左に弾かれるのだ。
あくまでも車と対等に真ん中を走る。それが後続車から身を守る唯一の手段である。
市街地を抜け、B峠にレディ9を向ける。
OYAZIは淡々と60km/hで、公道を走る。B峠のふもと付近までは覆面が何回か出現しているので、うっかりハイスピードで走ろうものなら、途端に捕まるからだ。
途中、ツーリング中のクォーター(250cc)が左端で休憩をしていた。
そいつの横をOYAZIが通り過ごすと、追いかけてきた。
しかし、後ろにピッタリとつくわけでもなく、一定の距離を置いてOYAZIの後をついてきたのだ。
「小僧、バイクってゆう乗り物をわかっている走りでないか。」
そいつもまた、OYAZIのバイクが何かあったら避けることを考えて、距離を開けていたのだ。
B峠のふもとにやってきたとき、1台のSUV系の車が、すごい勢いで後ろのバイクを抜かし、OYAZIの迫ってきた。
OYAZIは軽く左にレディ9を寄せ、車を先に行かせてから、大きく車体を右に振った。
「追撃開始だ!!」
ギァーは5速のままアクセルを思いっきりしぼる。
ドゴーーン!!
こいつ(レディ9)の特性は、ずぶといトルクにある。
レディ9は急な登り坂にも関わらずに、猛然と前に走る車を追いかけて行った。
峠+前走車。まずは覆面は現れないであろう。また、現れても前走車が犠牲になってくれる。とOYAZIはもくろんだ。
みるみるうちに後ろを走っていたクォーターは小さくなっていった。
前走車の追撃のおかげで、B峠の頂上にはあっという間に着いてしまった。というか、生理的現象のほうが大半であった。(つまり、オシッコね。)
トイレの近くにレディ9を止める。
ほどなくして、先ほどのクォーターもやってきて、OYAZIから車一つ分あけて横にバイクを停めた。
車種は白いHONDAのYTR-Fであった。
そのライダがオヤジに後ろ向きになって、ヘルメットを脱ぐと髪の毛が長かった。そしてきしゃな体つき。(女性?)と思いつつも、そのライダーの顔を確認する暇も無くオヤジはトイレにかけこんだ。
(ケッ!!まったく年寄になるとシモが近くなるんだから・・・・・)
フーーツ。生理的欲求から一息入れると、のどが急速に乾いてきた。
そして、多くの人が集まる自動販売機に向かう。すれ違う人がオヤジの異常なカッコを見て、気のせいか周りから潮が引くように去っていく。
オヤジは基本、甘いものが好きである。朝のコーヒーも、コーヒーよりもカフェ・オレが好きだったりする。
その為、缶コーヒーも120円なら、甘ったるいカフェ・オレの、しかも300mlの容量の多いほうを選ぶ。
が、今日のオヤジの装備はバトル・スーツである。
間違っても甘いコーヒーなんか飲めない。いや、飲んではいけないのだ。
いかついライダースーツを着た、怪しいオヤジがニコニコしながら、甘い缶コーヒーを飲んでいた。という姿は、バトル・スーツ伝説を貶める事になるのだ。
という事で、オヤジは普通は絶対飲まない無糖ブラック。しかも200mlのやつのボタンを無表情に(しかし、心ではもったいない。と泣きながら)押した。
レディ9の横で、シブイ感じを醸し出して缶コーヒーを飲んでいると、観光バスから降りてきた、韓国人がバトルスーツ姿のオヤジの姿を一様に見ていく。
中には無視するように、しかし、目だけはしっかりこっちを見ていたり、あからさまにオヤジの恰好を滑稽な姿だというような視線を送る人もいた。
(いゃー。バイクの前だからいいけど、これで、バイクが無かったら、まさしくチンドン屋だろうなぁーー)と、心の中で赤面するオヤジである。
と、その時、●●大学。というジャケットを来たHONDAのCBX125に乗った若者が、オヤジとVTR-Fの間にバイクを割り込ませた。
250ccや、横の125ccと比べても、我がレディ9は負けないぐらい小さい。
そのCBX125の若者は、イモ・ダンゴを頬張りながら、彼の125ccのバイクと同じような大きさのレディ9と、重装備のオヤジの姿を見て、オーバーカッコをした年寄がいる。と興味本位に見ていた。
彼の姿は、大学の名前のジャケットとGパン。そしてスニーカーである。グローブはつけていなかった。
限定解除で大型免許を取ったオヤジの友人Iは前に「俺はバイクに乗るときは必ずブーツを履くんだ。」と言ったことがあった。
「何故?」と尋ねたら、一度、スニーカーで400ccに乗っていた時、クツのヒモがサイドスタンドに絡まり、信号待ちの時に、左足が出せなくて、転倒したことがあったそうだ。
それ以来、友人Iはバイクに乗るときは、最低限ブーツとグローブは身に着けて走るようにしているらしい。
高価なバイクを買うのは良いと思う。しかし、どんなバイクに乗るにしても最低限の装備は必要であると思う。高いバイクを買って、装備は後回し。というのはいかがなものかと思う。
ライダーブーツは履いたほうが良いですよ。と言うよりも、友人Iのスニーカーで走ったら転倒した。という事を話すほうが、よっぼど、ブーツを履く人が増えるかと思う。
バイク乗りのカッコ良さは、発進にあると思う。
CBX125の若者の視線を浴びながらオヤジはレディ9をバックさせた。
この駐車場は少し前方が低くなっているので、本当に軽いレディ9で助かったオヤジである。
そして、充分に彼のバイクから離れ、おもむろにレディ9に跨りエンジンをかけた。
キュルキュルキュル!!
ドコーン!!
バゴーン!!
レディ9の小柄な車体とは裏腹な、凶悪な図太い排気音が辺りに響いた。
OYAZIは驚く若者をしり目に、レーサーのように右足を少しの間浮かせから発進させた。
今日は残念ながら、SSイーターの獲物のSSがいない。
「チッ!」としたうちしながら、OYAZIは元来た道を引き返した。
(というか、いてもやはり時間切れだ。と言って帰るんだろう。OYAZI.)
そして、約2時間ばかしの間、レディ9とつかの間のデートを楽しんだOYAZIであった。
あとがき。
さて、今日からブログのヘッダーの画像を変えてみました。
我が愛機。レディ9。ビューエルXB9S。画像を見ると、やはり小さい車体です。こいつのエンジンが本当に1,000もあるのかと思うと疑わしいです。
というか、バトルスーツを着て跨ると本当にオモチャのような感じです。
まるで、オヤジに潰される感じです。
初代レディ ZX-14Rと比べると、まるで大人と子供ですが、その実力は10年以上前の古いバイクですが、リッターバイクとひけはとりません。
250ccクラスのバイクだと思わせて、図太いトルクで加速する。
最近はヒツジの皮を被ったオオカミ的な楽しさを感じているオヤジです。