オヤジの住んでいる、ここ北海道でもようやく春が来て、今年初めてのバイク日和となった。
「絶好のバイク日和だ!!今日こそ、湾岸アタックを開始しよう。」
と、オヤジは早速、愛機レディ9で近間の湾岸線に繰り出した。 (まーしかし、なんですね。海岸線と言わず、湾岸線と書くと、何となく走り屋風に・・・・・)と、ひとり思い込むオヤジである。
今日の装備はバトルパンツと赤い南海のジャケット。まさしく、8か月前にオヤジを初代レディから引退させた、縁起の悪い装備である。
バトルスーツの装備は重く、復帰戦には十分な動きが出来ないと判断したOYAZIである。
バトル・パンツは無意味なプロテクターを外す。万が一の転倒時には、無意味なプロテクターはかえって危険だ。
AM 9:40
A市湾岸線到着。あたりの空気は一変して冷たくなった。
最初の1本目は道路の状況。およびKサツ関係者の確認と、自分の感覚を取り戻すために、軽く流す。(今時期は結構、冬のスリップ防止の滑り止めの砂が交差点にばらまかれていたり、道路工事を行っているので、道路の状況を確認しないで飛ばすのは、愚の骨頂である。)
いょいょ勝負の2本目。
スタート地点の信号機のシグナル・ブルーを待つ。
昨年の14Rから数えると、ほぼ1年ぶりの復帰戦になる。これで、本当にOYAZIがキリンになれるのかが決まる。
ドクン!ドクン!!やけに瞳の奥がかすむ。緊張のあまりか???と思っていたら、単にシールドが寒さで曇っていただけであった。
「やばいな。シールドをあけなければ。」と思っているとすぐにシグナル・ブルーと化した。
一斉に飛び出す車たち。
バゴーーッ!!
レディ9は爆音をまき散らせ、あたりの車を威嚇する。
ドカドカドカドカ!!
すごい振動だ!!もはやバックミラーに車の姿は見えない。
「は・速い!!」
HD譲りのVツインエンジンのトルクに、OYAZIの目が付いて行かない。
ギァーを5速まで上げた途端に、右回りの急カーブの印が付いているファースト・ターンが現われた。
シフトダウンしている余裕が無い。
「頼むぜ!!レディ9!!」
OYAZIはエンジンブレーキで車速を落とし、別名SS(スーパーバイク)喰いと呼ばれる、このコーナーリングマシンをおもむろに右に傾けた。
レディ9は簡単に傾き、ファーストターンをきれいにトレースしていく。
400ccのFXとは比べもののならない深いコーナーリング。
レディ9に装着されたピレリーがダイレクトにOYAZIの尻に路面状態を伝えてくる。
ファースト・ターンクリァー。そして続けてセカンドターンが待っている。
続いてクリァー。
そしてストレートが続く。
ドガーーン!!
タコメーターが3000から4000に替わろうとした時、最初の衝撃が OYAZIを襲った!!
そして5000!!
もはやレディ9の振動は限界に近く、OYAZIはあまりの振動で前を見ることが困難になっていた。
メーター読み120kmに達しょうとした時に、次のターンが待ち構える。
一瞬、潮の香りがしたような気がした。
「!」
キリンのカタナはシフトが抜けたまま、高速道路から・・・・・
おっと、間違えた。この話はキリンではなく、OYAZIの話であった。
次々とターンをクリァしていったOYAZIの目に自然と笑みがごぼれた
「そうだよ。この感覚だ!!この感覚がOYAZIが待ち望んだ感覚なんだ。」
その日、OYAZIは3本。この湾岸線を攻めた後に路肩の駐車場にレディ9を止めて一息を入れた。


テクニックも周りの車の動きを読むカンもまだまだだ。
しかし、俺は帰ってきた。この場所にまた帰ってくることが出来たんだ。
オヤジは満足げに一人うなずき帰路に着いた。

