お互いのバイクの名義変更は、1,500円の手数料の払い、わずか数分で終わった。
オヤジはもっと、感情がこみ上げるかと思ったが、おもったよりさばさばしていた。
「ついに終わったな。」
「ああ。終わった。」
「俺とレディの物語はこれで終わりだが、Eとレディの物語はこれからだ。」
「レディ?」
「ああ。俺がこの14Rに名付けた愛称さ。」
「そうか。大切に乗らせてもらうよ。」
すべてが終わり、オヤジの家に戻ってきたときは12時半になっていた。
「それじゃー。また後で都合の良い日を連絡する。」
「ああ。わかった。」
と、二人はそこで別れた。
オヤジは昼の用事をすませていると、再びEからの携帯が。
「どうした?E。」
「なあ、オヤジ。道路も乾いたことだし、これからお互いのバイクの交換をしないか?」
「これからか?」
「まずいか?」
「いや。問題はない。」
「そうか、30分後にそちらに向かう。」
といって、Eの携帯は切れた。
30分後、レディ(14R)の止まっていた時間(とき)が再び動き始めた。
まず、外していたバッテリー端子を接続する。
レディはうんともすんとも言わない。
「まずい!!。まさかバッテリー切れ??」
「だけど、マイナス端子は外していたんだろう?」
「ああ。」
「どうする?このままではまずいな?」
あせるオヤジは、バッテリーを取り外すべく、カバーをはずしかけた。
「?♯▲●■◆!!」
と、すっとんきょうの声を上げるオヤジ。
「な・なんだ?この端子は??」
「もしかして、この端子もマイナス端子か??」
数分後、再びバッテリーをつなぎ、レディのメインスイッチを入れる。
一瞬、メーター周りが光り、レディは息を吹き返した。
「よし!!次はガレージから出そう。」
少しずつすこしずつレディをバックさせて、高さ20センチの高低差のあるガレージから総重量280kmのレディを降ろす。
およそ半年ぶりに日の目を見るレディ。
Eは慣れた手つきでレディのエンジンをかける。
キュキュキュル・・・
ドゴーーーッ!!
ハゴーーッ!!
ハゴーーッ!!
やはりバイクは動いてなんぼのものだ。レディは半年ぶりに息を吹き返し、大型バイク特有の排気音をあげ、周りを威嚇した。
オヤジはレディの簡単な操作をEに伝え、Eから代金の100万円を受け取った。
「それではまた。」Eは憧れの14Rを手に入れて、嬉しそうに去って行った。
Eが帰った後、オヤジはEから受け取ったXJR1200に跨ってみた。
「!」
「ま・跨れる!!きちんとギァチェンジが出来る!!」
確かに重いバイクではあるがあらためてXJRが乗りやすい大型バイクだと認識した。
しかし、このバイクではオヤジは命を預けて走ることはできない。オヤジの心を震わせることはできないのだ。
夕方、オヤジはXJR1200の査定をレッドバロンに依頼し、10万円で売ることに決めた。
バイクは一度手放したら二度と手に入らないことは百も承知だ。そのために30年物間バイクを乗れなかったことは自分自身が知っている。
しかし、オヤジはバイクに乗れれば何でも良い。という事ができないのだ。
初めてZZR-1400の大型バイクに乗りたい。と思い、その一念でとった大型バイク免許。
そして、憧れて買った14R。しかし、それは自分の能力を考えず、身の程知らずのものであった。
鋼鉄とプラスチックの塊のバイク。その意思を持たない機械を擬人化することはナンセンスだと人は言う。
しかし、レディはオヤジにとって、男のキバを取り戻す役割をはたしてくれた。
以前、釧路でビューエルへの乗り換えを考えたとき、なんの偶然かビューエルを見に行く前日に売れてしまったことがあった。
そして今日、レディはまるで自分の役割を終えたように、静かに自分のもとから去って行った。
やっぱりカッコいいよ。レディ。 たった少しの間であったけど、お前のオーナーになれたことは、今のオヤジの誇りだったよ。
かってカワサキナンバーワンの称号のもとに、ハヤブサから世界最速を取り戻すべく開発されたマシーン。
その名も漆黒の魔女、レディ ZX-14R。
これで、本当にキリンに憧れての物語は終わります。
今まで愛読されていた読者の方々。本当にありがとうございました。
キリンに憧れて!!
完!!
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次回からは、
真・キリンに憧れて!!
最狂伝説!!が始まります。
次々と自分のマシンを手放したオヤジ!
はたして、オヤジは真に自分のパートナーとなるマシンを手に入れることが出来るのか??
こう、ご期待!! (けっ!!やっぱり終わらないでやんの!!)