裏・ミッション完結編!
「ねえ。今度の月曜日の休みの日に、ミラ・イースーを借りれるかい?ちょっと釧路まで行きたいんだけども・・・」
土曜日の夜、オヤジがかみさんに言った途端、
「あんたね。最近、一人であちこち遊びまわっているじゃない。少しは家族のことも考えてよ。」と、かみさんはいつになく強い口調でオヤジに食ってかかってきた。
「おいおい。一体どうしたんだ。」
「どうせ、釧路に行くのもブログのネタ作りでしょう?」
「あんたは、ブログと家族!!どちらが大切なの?」
「もちろん・・・ブログ・・・」とオヤジが小さい声で答えた途端に、かみさんの強烈なローキックがオヤジのメタボな腹に決まった。
グェッ!!グェッ!!とオヤジは首の絞められた、ガチョウのような悲鳴をあげ地面を転げ回った。
事の起こりは前回の帯広・旭川編の裏ミッションでの謎の変態バイク・ビューエル探しから始まった。前回では残念ながらビューエルとは出会えなかったが、オヤジの興味はますます、ビューエルとはどんなバイクか?と、興味深々となっていた。
人によって意見の分かれる脚付きの良いバイクと悪いバイク。
アイドリングをしたら勝手に振動で動き回るバイク。
走るとそのすごい振動で、ネジが外れてしまった。という伝説さえある。
先週の金曜日の仕事の休憩時間中、オヤジは1日で日帰りのできる、最後の都市。釧路のレッド・バロン店にダメ元で在庫の確認をしてみた。
「もしもし。釧路レッドバロンでしょうか?」
「はい!そうです。」と明るい口調で営業マンが出た。
「多分、無いかとは思われますが、ビューエル。置いてませんよね?」
「ビューエルですか?ああっ。今、1台ありますよ。」と、営業マンは爽やかに答えた。
「ええっ?あるのですか?どんなやつですか?」と、オヤジが興奮して聞くと。
在庫があるやつは
白い色で2003年製、ファイヤー・ボルトだということである。
「お値段はおいくらでしょうか?」
「それがですね。クププププッ。」と営業マンは不気味な笑いをした。
(ふーーん。どうせ70万円ぐらいするんだろうな。中古相場が50万円だから、70万円といったら、サイナラだ。)
「驚かないでくださいネ。な・なんと、358、000円なんでーーーす!!(驚けーこの野郎!!)」
「えーーーーーーーーーーーっ!!358、000円!!や・安い!!安すぎる!!」
「そうですか、わかりました。では、次週の月曜日に見に行きたいのですが、脚付きや取り回しを確認したいので、跨ってもいいですか?」
「はい。もちろん構いませんよ。」
「では、月曜日に伺います。」
「あっ。もし、それまで売れてしまったら縁がなかった事でお願いいたします。」
どうせ、誰もが振り向かない変態バイクだ。そう簡単に売れることもあるまい。もし、脚付きが良かったら、買い替えもアリかな?と、オヤジはスケベ心を出していた。
そこで、本日、月曜日は前回の裏・ミッション達成のために釧路に行く事に、急遽決まったのであった。
と、いうことで、冒頭のケンカとなったのである。かみさんの必殺ワザのローキックを受けたオヤジは、家族をないがしろにして遊び回っていた罰として、日曜日の夕方に全員で外食をする。という事で許された。もちろん支払いはオヤジ。おかげで、5、000円もの手痛い出費となった。
外食中にオヤジの元に1本の電話がかかってきた。そいつはいつものごとく、友人I。となれば、かなりドラマテックになるのだが、今回はオヤジの幼馴染の友人Kであった。
こいつとは幼稚園からの腐れ縁で、住んでいるところも同じ町内会なのだが、不思議と1年に1回ぐらいしか会わない奴である。
話の成り行きで彼も、当日は休みなので釧路に同行することとなった。
22日、月曜日、AM 8:30
オヤジは友人Kを引き連れて釧路に旅立った。
途中、北見相生、阿寒丹頂の里の道の駅でトイレタイム。
紅葉が美しい。しかし、今のオヤジにとっては、憧れのビューエルがどんなバイクかすごく気になる。
レッドバロンに行くまでに、オヤジの心はすでにビューエルに乗り換える自分の姿を想像していた。
「で、今度はオヤジはあのバイクをやめて、ハーレーに乗るんだ。」と友人K。
「いや、だからハーレーでなくて、ビューエルなんだけど・・・」
まあ、ビューエルに興味のない一般人は、ハーレーもビューエルも一緒である。
片道、約2時間半の道のりを、オヤジは友人Kにビューエルの伝説を熱く語りだした。
「で、なんでオヤジはあの黒いバイク(レディ)を買おうと思ったの?」
「世界最速だから。」
友人Kは昔、「彼のオートバイ・彼女の島」という映画で、カワサキのW3の魅力にやられてしまい、思わずバイクの免許を取りに行こう。と思っていたのだが、いろいろな大人の事情で結局、バイクの免許はとれず今に至っている。
「で、なんで、今度はハーレーなの?」
「ダーカーラー!!ビューエルだって!!(少しは覚えろ!!この野郎!!)」
友人Kはわざと名前を間違え、オヤジをからかっていた。
「時速100キロまでは加速の王者、Vマックさえ凌駕する、ストリート・ファイターだから。」
ふうーーーん??まだ理解できないでいるナ。
「うーーん。そうだな。ZX-14R(レディ)は、車で言うならベンツの改造車のAMGのようなもので、高速を快適に走るバイクなんだ。ビューエルはポルシェみたいにスポーティで、ストリートを限定とした速さをを得るバイクかな?」と、オヤジは訳のわからないたとえで、友人Kをケムに巻いた。

北見相生の道の駅にて

阿寒丹頂の里の道の駅。
AM 10:30
そんなこんなで、片道140km離れた釧路のレッドバロンに無事当着。
「ごめんくださーーい。」と、オヤジは心をドキドキさせながら店に入る。
ドーーーーオオオオオオン!!
おおっ!!これだ!!これが幻の変態バイク!!ビューエルだ!!
250ccの車体にハーレーのエンジンを無理やりぶち込み、マフラーの取り回しは右側に無理やり出して、ヤワな乗り手の右足を火傷させる。
まるで、生きているかのように身をよじるように震えるエンジン!!

見るからに軽そうだ。これで脚付きが良いと、もう言うことが無い。
オヤジの心はもう90%ぐらいビューエル購入に傾いていた。
「いらっしゃい!!」と、出てきた店員の顔が少し曇っていた。
「あっ。先日お電話したオヤジです。売り出しているビューエルを見に来ました。」
「ああ。これはこれは。いらっしやい。実は・・・このビューエル。昨日、偶然にも売れてしまいました。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・う・売れた・・・・・・・・・・・_| ̄|○ ガックシ!!」
「ハハハハ・・・・・」オヤジは力の無い乾いた笑いをたてた。
聞くところによると、こいつは昨日、若松のレッドバロンで売れて、近日中に持っていく。との事であった。
「そうですか。もう決まりましたか。では、脚付き性を確認したかったので跨いだらダメですよね?」とオヤジが聞くと、
「いや。良いですよ。」との答えであった。
こいつを購入した人もこいつをまだ見ていないそうだ。
聞くところによると、同じビューエルを載っていた人が買い替えたそうだ。
(そうか。やっぱりビューエルには熱心な信者がいるんだな。)
早速、跨がしてもらう。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・??????
(な・なんだ!!やけに背が高いぞ!!下手したらレディよりも、脚付き性が悪いぞ!!)
オヤジは短い足をバタバタしてビューエルに跨っていた。
ネットで調べるとビューエルの脚付き性は2004年製以降の製品がローシートの採用で比較的、日本人向けに出来ていているそうだ。
オヤジは憧れのビューエルに跨がり、脚付き性の悪さに急速に購入意欲を失っていた。
「ありがとうございました。今回は縁が無かったということで、また機会があれば。」とオヤジが、店員に別れをつけると、
「もし良かったら、また入ったら連絡しますか?」
「いや、この辺のものではないので。」
「どちらから来られました。」
「網走方面からです。先週は帯広、旭川の探しに行ってきました。」
「実はほぼ自分のなかでは14Rをこちらに売って、こいつを買おうと決めていたのですが、実に残念です。」
店員は、逃した魚は大きかった!!というような顔をして、オヤジから去っていった。
友人Kは何故1日だけでも売るのを待ってもらえなかったかと、憤慨していたが、オヤジはそんな友人Kに、「今回はあのビューエルとは縁が無かったという事だよ。」と優しく言った。
確かにレディの購入の時は、不思議と何回もの偶然が重なり合い、手に入れたバイクであった。
今まで売れなかったバイクが、オヤジが来る前日に売れるわけが無い。
こんなにも偶然なことがあるわけがない。もはや、これはレディの呪いだ。
レディが売られたくない。という事を言っているんだ。オヤジからすべての愛すべき物(バイク)を奪う漆黒の悪魔。レディ。
どうやら、オヤジが手に入れたのは悪魔の力(レディ)。失ったのは愛(ビューエル)。
わかったよ。レディ。オヤジはもはや脚付き性とか、軽さとかに逃げない。
お前と共に一緒に地獄まで突き進んでやるよ。
・・・・と、いっても、今のオヤジはお前を飾るだけしかできないが・・・・
そう、固く決心したオヤジは釧路レッドバロンを後にした。
裏・ミッション完結編!終了!!チャンチャン!!
