キリンへの道ー大型自動2輪への挑戦 その日ー | クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

TYPE Rの称号を与えられなかったもう一つの悲運の車

 次の大型自動2輪の卒業検定日は、会社の用事などが重なり22日となった。

 密かに一発合格を狙っていた僕の精神は思ったよりショックが激しく、毎日毎日「なんであの時にもっとスピードを落とさなかったのか?」とそればかり考えるようになっていた。また、さらに物事をだんだん悪いほうに考るようになり、このまま今年中に卒業できるのか?とまで考え落ち込む毎日であった。

 悪い事は重なるもので、今まで快晴だった天気もどうやら試験日には台風が上陸するという状態になってきた。


 ついにその日がやってきた。昨日まで晴れていた天気が急変し、その日は雨どころが強風が吹き荒れ、どう考えてもバイクの試験なんかできそうにもない天気となった。

 ダメもとで僕は自動車学校まで車を走らせた。学校に近づくにつれ、風はますます強く吹き試験中止の予想が確定的になってきた。


 予想に反して試験は続行となり、しかも自動2輪の検定は僕一人であった。

試験場で待っていると10分過ぎても試験官は現れなかった。待っ時間が長くなればなるほど、体は冷えてきて、ひょつとしたらこのまま試験は中止になるのでは?と悪いほう、悪いほうに考えるようになっていく。


 結局、試験官が現れたのは担当の車の検定を終えた後で、なんと1時間もあとの事であった。

 その日の僕の走りはフラフラと頼りない走りで、おそらく今まで練習した中で最低の走りであった。

 強風と雨でヘルメットのシールドは見えなくなり、いままで簡単にこなしていた路上コースでも一時停止の時に倒れそうになり、思わず右足をついてしまった。

 また、気が付いたら交差点でウインカーを出しっぱなしで直進をしてしまうという大きなミスを犯してしまった。

「まだまだ。まだ、中止とは言われないから今日はせめて完走だけでもしてやる。」

 僕は自分を奮い立たせるように声に出しながら走っていた。一般の路上コースが終わり、2輪専門の課題に入ると悪い事に一本橋の時に風が強く吹き出してきた。

 どう考えても10秒以上で走ると脱輪は間違いないので気が付いたら5秒ほどで一本橋は渡っていた。

 S字、クランクと課題をこなし、前回の急制動の前の一時停止のところまでやってきた。

 前回の悪夢がよぎる。

「おちつけ。おちつけ。スピードさえ出ていなければ僕はきっと出来る。」しかし、雨の日の急制動は始めての経験である。

 僕は深呼吸を一回行いアクセルをおもいっきり絞りナナハンのスピードを上げていった。

「メーター読み40キロOK!!、アクセルオフ、フロントブレーキON。」

 いつのまにか機械を操作するように僕は心の中で叫んでいた。


バイクはいつもの練習のように静かに止まってる。

 

 そして最後の難関!!スラローム!!今まで一度も成功した事のないアクセルワークでの切り返し!!

僕は恥も外聞もなくスラロームはハンドル使って切り抜けた。とにかく今日は完走してやる!!

 最後の課題の波状路が終わり停止線まで来た時、そういえば昔、中型免許の試験日の最後の停止したときに、横から教官にこっそりと「早くハンドルを左に切れ。」と言われたな。と妙な事を思い出し、ハンドルをそっと左に切ってからエンジンを切った。


 「君はアクセルワークが雑で、ニーグリップが甘いね。バイクの加速に完全に負けているね。」と、最後に試験官からアドバイスを受け、その後、2階のロビーで待つように言われた。

 30分ほどロビーで合格発表を待っていた。そして車の試験の合格者が次々と呼ばれ、最後に僕の名前が呼ばれる。

 試験官は僕の顔をしばらく眺めた後、諦めるような顔で「合格です。」とボソッと言った。

 その瞬間、僕はその場から崩れ落ち、そしてすぐに立ち上がり、周りに人が大勢いるにも関わらず「ありがとうございました。」と試験官に大きな声で礼を言っていた。

 

 合格の手続きを行い、今ままで世話になった教官の元に合格発表を知らせようと玄関まで行くと教官は僕の事を待っていてくれた。

「どうでした。」

「合格しました。合格です。おかげさまで、20年以上思い続けていた夢を、教官のおかげてかなえる事ができました。」

「本当に今までありがとうございました。」

 教官に深々と頭を下げた僕に教官は「本当に良かったですね。」と、にっこりと微笑んでくれた。


 自動車学校を後にした僕は、不思議とうれしさはこみ上げてこなかった。うれしさよりも、もうこれで練習は出来なくなるんだ。という寂しさだけが僕の心を埋めつくした。