geteiltさんのブログ
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【百合スザルル】リリーホワイト。

♀スザク→朱雀
♀ルルーシュ→ルル、で。




「…ねえルル、知ってる?」
「わたしのルルへの『好き』はね……」



いつもと変わらないお昼休み。テラスで向かい合い、一緒にお弁当を食べながら朱雀が言った。
前に、好きだって言ってしまってからも…疎遠になることもなく、朱雀は変わらず一緒に居てくれた。
私は嬉しくて、切なくて…何度も眠れない夜を眺めては、貴女を。
朱雀を、想い続けていた。
空になったお弁当箱を手早く片付けて、貴女は私の手に触れた。
いつもと同じ笑顔の筈なのに、その瞳がとても真剣で…私は持っていた箸を置いて、朱雀を見る。
あたたかい栗色の、ふわふわの髪が頬に触れるくらいの至近距離に貴女が居て、私の心臓は期待と緊張に暴れ出す。
日向の匂いが鼻を掠めた、ほんの一瞬。
左の頬に軟らかいものが触れて、すっと離れていった。
「……っえ…?」
慌てて朱雀を見ると、ね?と首を傾げて微笑む。
いつも彼女が浮かべている快活そうな笑顔とは少し違う、それよりずっとやわらかな微笑みに、私の胸はぎゅっと締め付けられたように苦しくなった。
長袖のセーラー服から伸びたあたたかい指が、硬直している私の頬を優しく撫でる。
「…ね、ルル。わたしの『好き』って…こういう『好き』なの」
ルルはそういうの鈍いから、伝えるかどうか…すごく悩んだんだよ。わたしも。
困ったように笑って、朱雀の長い指が私の髪を撫でる。貴女がいつも綺麗ねって褒めてくれる、私の長い、黒い髪。
どきんと一つ、私の心臓は痛いくらいに跳ねた。
「わたしね、ルルともっともっと近寄りたい。友達よりも、もっと…『とくべつな人』になりたいの…」
朱雀はとても真剣に、私を見詰めてくれていた。
男の人とも付き合ったことのない私を、怖がらせないようにしてくれているのがわかって…また胸が苦しくなった。
「…ね、ルル……いや?女の子同士でなんて、気持ち悪い?」
朱雀は…貴女は、どうしてそんなに優しいの?
私の内側の、無様で醜い想いを…さらけ出しても、いいの?
私は、髪に触れている朱雀の手をそっと握った。
自分でも、顔が赤くなっているのがわかって…そっと目を逸らす。
「朱雀…朱雀、私…貴女に言ったわよね?貴女が…すきって…」
今も、変わらないの。
貴女を想うだけで、泣いてしまうくらい…
ぽろっ、と涙が落ちるのがわかった。
「私…私、朱雀が好き。貴女だけが……好きなの……っ、」
私は目を見開いた。
目の前には朱雀の顔があって、私の唇は朱雀のそれに塞がれて、いたから。
「わたし…ずっとこうやって、ルルにキス…したかったの。」
唇を離して、朱雀が嬉しそうに微笑む。
ねえ、と至近距離で囁いてくれる声は、吐息は、何だか甘いミルクのような香りがした。
「ルル…わたしの、彼女になって?ずうっとそばに居て、わたしだけ…見ててほしいの…」
嬉しくて、また涙が出た。
涙に濡れた顔を見られるのは恥ずかしかったけれど、それよりも私は、朱雀の告白が…泣きたいくらい、嬉しかったから。
「…朱雀…私、私でいいなら…」
ちがう、そうじゃない。私が言いたいのは。
「私…私、貴女のことだけ、見ていていいの?貴女を好きでいて…いいの…?」
にこっ、と朱雀が笑った。お日さまみたいな、明るい笑顔。
「いいの。見ていて、わたしをもっと…好きになって?
わたしを、ルルの『いちばん』にしてほしいの」ちゅっ、とまた軽いキスをくれて、朱雀は私の瞳を覗き込む。
心臓は馬鹿になってしまいそうなくらい高鳴っていて、からだが震える。
でもどうしようもなく嬉しくて、私は微笑んだ。
戸惑いとか、背徳感なんてニの次で…気付けば、そっと頷いていた。
「…うん。私…ずっと、ずうっと朱雀と居るわ…」
震える声も、ただ痛くて苦しかった胸の疼きも、いつの間にかどこか甘いきもちに変わっていた。
「だから…朱雀。私のことも…朱雀の『いちばんのひと』に、して…?」
朱雀が微笑う。おひさまの香りがする腕で私を優しく、抱き締めながら。
「ずうっと、いちばんだよ。ずうっと前から。」
あやすように私の黒髪を撫でて、貴女は囁いてくれる。
「ルルが、好きだよ。だいすき」
嬉しくなって、私も貴女を抱き締めた。細いばっかりの私とは違う、やわらかい身体。
いい匂いがして、私はうっとりしてしまう。
「これからは……恋人同士、ね?」
「……うん」
身体を離して微笑み合っていると、お昼休みの終了を教えるチャイムが鳴った。
「午後の授業、はじまるね」
「…うん」
離れがたくて、俯く私に貴女は言った。
「サボっちゃおうか」
「え………」
いいの?と目で尋ねると、朱雀は悪戯っぽく笑ってくれた。
「勉強なら、ルルが教えてくれるでしょう?」
誰も来ないところに、二人で隠れちゃおう。
そう言ってキスをくれる、大好きな貴女。
嬉しくて、怖いくらいに幸せで、私は微笑んだ。
「…………だいすき。」
食べかけのままのお弁当、空は優しく晴れていて。
私たちは、退屈な午後から逃げ出した。

アフター・バレンタイン

「チョコレートなら、捨てたぞ」
その一言に、周囲を包む寒気が数万倍にもなったような気がした。


アフター・バレンタイン


軍務や遠征が重なり、ようやく学校に顔を出せたのは二月も終わりが見えた時分。
枢木スザクは実に数週間ぶりに、アッシュフォード学園へと登校を果たしていた。
とは言っても授業にはぎりぎり間に合わず、放課後の生徒会室に足を運ぶのが精一杯で、それでも時間のある時は学生として過ごしたい気持ちと随分会っていない、想い人の顔を見たい一心で登校した、のだが。
室内に足を踏み入れるとまず目についたのは恋人の姿ではなく、未だ無人の部屋とその隅に積まれた段ボール箱。
五つ六つはあるだろうその箱には、太字のマジックで大きく「Suzaku」と書かれていて、頂上からはまるでパーティー用品か何かのようなリボンやモールがはみ出している。
そして、部屋に漂う甘い匂い。
呆然と突っ立ったまましばし考えて、はたと気付く。
その日自分は戦場に居ただろうと思うのだが、心密かに期待を抱いていたあるイベントが、過ぎ去っているということに。
バレンタインデー。
エリア中の男女が沸き立つその日、本来の意味合いではなく恋人達の日、もしくは告白デーとして製菓会社の戦略に乗っかって、甘い甘いチョコレートを贈りあった筈の日。
そして、今年は最愛の恋人が居るからと自分が密やかに期待して、とても楽しみにしていた日。
目の前に存在する段ボール箱は間違いなく、当日にそこに居なかった自分に届いた…義理、本命の入り混じった…チョコレートの山、だった。
ナイトオブセブン。円卓の騎士たる自分に近付きたい女子が増えていることは知っていたが、ランスロットと共に戦場を駆け抜けていたスザクがバレンタイン当日、そのことに思いを巡らす暇などあるわけもなく。
配給されたレーションだけで過ごし、特派において今でも全く逆らえないセシル女史が用意してくれたチョコレートも貰いたい人がいるからとやんわり断って、そのまま通り過ぎてしまっていたのだ。
特別な筈の、その日を。
以来軍務に忙殺されて、それを思い出すことも連絡を取ることも、出来ていなかった。
その結果として、今。
生徒会室に積まれたままのチョコレート達と鉢合わせした自分が居る。
—う、わ……どうしよう。
思わず考えたのは、その一言。
チョコレートを貰った喜びでも、それを贈ってくれたのであろう少女達への感謝でもなく。
恋人同士になって初めてのバレンタインをひとりで過ごしたのであろう恋人……ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの存在だった。
いや、実質たった一人で過ごしたわけではないということはわかっている。
彼には共に暮らす弟が居るし、何より賑やかな生徒会で、お祭り事が大好きなミレイ・アッシュフォードのもとパーティーでも開かれただろうということは容易に想像がつく。
だがしかし。
彼の恋人であるスザクが傍に居なかった以上、ルルーシュが「ひとり」でバレンタインを過ごしたことは、確かな事実なのだ。
「あっれ、スザク?久しぶりだなぁ、何やってんの?」
頭を抱えてしゃがみ込んでいた事に気付いたのは、気さくな友人の明るい声が、頭上から聞こえてきた処為だった。
「リヴァル………」
久しぶり、と挨拶することも忘れて、大きな溜息と共にまた視線を下げる。
「僕は…駄目人間だ……」
「はい?」
久しぶりに会ったと思ったら、何その凹みよう。
元が気の良い友人は、目を丸くして驚いたようだった。
その姿を見遣る気力もなく丸まって溜息ばかりを吐いていると、取り敢えず中に入れと背中を突かれる。
「入り口でしゃがみ込まれたら、誰も出入り出来ないでしょ。ホラ」
促されてよろよろと立ち上がり、言われるままに椅子に腰を下ろす。
室内に入ったことで強くなった甘い香りに、スザクはますますうなだれた。
「なーにいきなりブルーになってんの。アレ、バレンタインパーティーに参加できなかったのがそんなに悔しかったの?」
あっさりと紡がれたパーティーの一言に、スザクはもはやテーブルに頭を打ちつけそうなまでの勢いで突っ伏した。
思った通り、バレンタインにはこの生徒会室で各自チョコレートを持ち寄り、パーティーが開かれたらしい。
それ以外にも今は回収されているが、スザクやルルーシュ。それに同じラウンズであるジノなどには女子(男子も居たらしいが)から大量のチョコが届き、整理しなければ生徒会室はチョコに埋もれるところだった…これはリヴァルの誇大報告だろうが…とかで、とにかく大騒ぎだった……とか。
「それでルルーシュとジノの分は本人達が回収してったんだけど、お前は全っ然学校来ないからさ~……って、スザク?」
リヴァルの話をただ聞き流しながら、スザクはいっそその場に埋まってしまいたい気分になっていた。
出来ることなら一生を共にしたいと願える相手と別々に過ごしてしまった特別な日、その後に無情に横たわる時間、時間、時間。
「…いっそ死にたい……」
絶望的な気分で、スザクは呟いた。


机に突っ伏したままネガティブ・オーラを全開に落ち込んでいるスザクに、リヴァルは大きく溜息をつく。
何が原因か知らないが、これは相当重症だ。
普段は健康的で、快活で。そんな雰囲気のスザクがここまで落ち込んでいるのは初めて見た。
癖毛の隙間からにょきにょきと、キノコでも生えそうな…どんよりと沈みに沈んだ雰囲気。
友人とはいえこれはあまりにも重い、手に余る。
スザク相手の専門家とも言うべきルルーシュに助けを求めたいが、今彼はこの場に居ない。
それに、ここ最近はそのルルーシュもどこか沈んでいて、元気がなかったのだ。
友人二人の突然の不調は、明るく居たいリヴァルには少々重過ぎる。
また一つ大きな溜息をついて、頬杖をついてみる。
スザクはテーブルに突っ伏したまま、暗い雰囲気を漂わせ続けている。
「……ルルーシュが元気ないと思ったら、スザクもかよ…勘弁してくれよ……」
呟いた、その一言。
ルルーシュ、という単語に、スザクがぴくりと身じろぎをした。
「………ルルーシュが……元気、ない?」
もぞりと半分だけ顔を上げて、スザクがリヴァルを見る。
縋るような、叱られた犬のような何とも言えない表情に、思わずリヴァルは半分身を引いた。
「ルルーシュが元気ないって……本当?」
「あ、あぁ。なんかバレンタインからこっち、元気なくて…ほんと勘弁して欲しいよ、今日は生徒会室来ないとか」
言うし、と続けたリヴァルの横を、風が駆け抜けていった。
正確にはリヴァルの横を、文字通り風の如きスピードでスザクが、駆け抜けていったのだ。
扉すら開けっ放しで何処かへと走って行ってしまったスザクに、生徒会室に一人残されたリヴァルはぽかんと口を開けた。
「……なんだ、アレ」


クラブハウスの廊下を駆け抜け、自身に出せる最速を惜し気もなく使ってルルーシュの私室へ。
疾走するスザクの頭の中は、ルルーシュに逢いたいというただそれだけに埋め尽くされていた。
バレンタイン以降元気がなかったというルルーシュ、きっと落ち込ませる原因になってしまったのは自分の不在だ。
圧倒的な情報網を持つルルーシュのことだ、今日生徒会室に来ないと言い出したのは自分が来るという情報を得て、会いにくいと感じたからに違いない。
だが、今日会わなかったら明日から、もっと会いにくくなる。
直感でそう感じたから走っている、それだけだ。
辿り着いたルルーシュの部屋には、鍵はかかっていなかった。
思い余ってノックすら忘れて部屋に飛び込むと、突然の来訪者に目を見開いている、いま部屋に戻ったばかりという雰囲気のルルーシュの姿。
「っ…スザク…!?」
何でここに、と続けようとしたらしい彼が、不意に口を噤む。
「ルルーシュっ……!?」
やっと見られた綺麗な顔が一瞬の狼狽の後に、無表情に変わる。
愛おしい紫水晶は、冷たい光すら宿して。
そして彼は、唐突に…そして尊大に、言い放った。
「チョコレートなら、捨てたぞ」
その一言に、まだ暖房すら効いていない部屋の、その寒気が。
数万倍にすら、なったような気がした。



続く。

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