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クレイジー・ヴァイオレンス・ラヴァー3~優しい客観論なんて壊れるだけなのに~

痛みは慢性化し悦楽へと変わり、少年を傷年へと変えてゆく。
恐怖を抱きながら衝撃を苦痛を欲する心、マゾヒズムに支配された彼を恋人はサディスティックな恋情に任せて痛め続ける。
もう殴らないで、痛いことをしないで、
もっと痛くして、酷いことをして殴って蹴って踏みにじって。
傷年の精神は二律背反。いつでも怯えていて、いつでも望んでいる。




クレイジー・ヴァイオレンス・ラヴァー





自室のドアを開けると、そこにルルーシュの姿がなかった。
一瞬渡来する不安感、きょろきょろと床の上を探すけれど、何時ものように倒れて寝入っていることもない。
歯を食いしばると微かに鼻が水…お湯の匂いを感じ取った。
僕は浴室に向かってみる。
洗面台の下の屑籠に、汚れた包帯やら湿布の残骸やらが乱雑に押し込んであった。
シャワーのお湯が床に当たる音も、此処まで来ると聞こえている。
僕は屑籠に手を入れて、べっとりと血糊の付着した包帯を摘んだ。
顔を近付けると甘くて生臭い、渇いた血の臭いがする。
自然と顔に笑みが広がる、ルルーシュの血の臭いは酷く僕を興奮させるのだ。
痛いと助けてと哀願する声を顔を思い出して、嗤う。
不意に、浴室の中でごとんと音がした。
止まないシャワーの音、それが暴れたような響きを孕む。
何だろう。不思議に思って、僕はドアを開け放った。

其処にはルルーシュが倒れていた。
先程の音は掴んでいたシャワーが落ちた音だったらしい。
陽に当たらない処為で青白い肌は濡れて、きらきらと光を反射している。
包帯に隠されていない、傷や痣だらけの痩せた身体。
骨の浮いている箇所にはほぼ間違いなく擦り傷や鬱血の痕があって、痛々しいのと共に酷くなまめかしい。
湿布や包帯を全て取り去っても外すことの出来ない金属の手枷が食い込む手首は、青黒い痣と紅い傷の対比が美しくて。
触れてみると、彼の身体は酷く熱かった。
恐らく体調が悪い癖に僕が居ない間に身体を清めようと浴室に入り、発熱して倒れたんだろう。
蹴り起こそうかとも思ったけれど、その表情は既にとても苦しそうで、半開きの唇から小さな苦悶の呻きを漏らしていて。
僕はその身体をタオルで包み、ベッドへと運んだ。
身体をちゃんと拭いてやったほうがいいんだろうけど、それは面倒臭くて。
部屋に取り付けられた電話で、専属の医師を呼び出す。
「僕だけど。ルルーシュが熱あるみたいなんだ、診に来てよ」
『かしこまりました』
うっかりルルーシュを殺しかけた時とかに何度も世話をさせている医師は、嫌な顔をしながら5分と経たずにやって来た。
ベッドに転がしたルルーシュの体温を測り、胸の音を聞いたりしてから鞄の中から取り出した薬をその腕に注射する。
「風邪というわけではないようですね。傷口が化膿して発熱したのでしょう」
言いながら、医師はガーゼや消毒液、包帯なんかを広げ始めた。
てきぱきと、手枷で動きが制限されているルルーシュがやるよりもずっと綺麗に傷の手当てを施していく。
「傷の手当てはなさらないのに、スザク様は病の処置はされるんですね」
医師が皮肉っぽく言う。
僕は笑った。
「傷ついていても、どうせ更に傷を増やすんだから問題ないでしょう?だけどルルーシュが病気じゃ、僕は楽しめない」
これは本心からの言葉だ。
ルルーシュを殴り、蹴ったり踏み付けたりして嬲ろうにも、熱とかで反応が鈍くなっている状態じゃあ楽しくない。
だからこれは、大好きなルルーシュを憐れで可愛く居させるための作業だ。
テープで包帯を留め、ルルーシュの身体にしっかり毛布をかけると医師は立ち上がった。
「解熱剤を打っておきましたから、じきに熱は下がります。化膿の処置は消毒でなんとかなるでしょうから、後はご自分で」
では、と不機嫌なまま医師は部屋を出ていった。
僕は物珍しいものを見るような気持ちで、包帯にまみれて苦しげに肩を上下させているルルーシュを見る。
ぱしっ、と軽く頬を叩いてみると、紫の瞳がうっすらと開いた。
「ぃ、た……?」
「起きた?ルルーシュ」
焦点の合わない瞳がさ迷い、現状を把握しようとしているのがわかる。
「ス、ザク…どうして俺、ベッド…」
シャワーを浴びていた筈なのにと、ルルーシュは不思議そうに僕を見上げる。
その姿が可愛くて、僕は笑った。
「君、熱を出してお風呂で倒れてたんだよ。傷口が化膿して熱が出たんだって」
笑いながら告げると、ルルーシュは苦しげに息をついた。
「だ、から…こんなに、身体…」
それから不意に、熱で潤んだ紫が僕を見る。
「きょうは…なぐら、ないのか」
その視線に微かな期待が混じっているのは、僕の見間違いじゃない筈だ。
「熱で苦しんでる君がなかなか良い顔してるから、殴る必要がないんだよね。」
ルルーシュの瞳が、安堵と落胆の両方を宿す。
ねえどっちなの、結局君は殴られたいの?
「がっかりしたって顔。じゃあ今日はこれくらいしてあげるよ。」
そう言って僕は、昨日の殴打で赤紫の痣を残す頬を指先でぐっと押した。
「イっ……!」
ルルーシュの顔が苦痛に歪む。本当、どっちなんだろう。
ルルーシュは最近、痛いのが好きになってきたみたいだ。
だけど今日無理させて、明日遊べないんじゃ意味がない。僕は頬から手を離し、ルルーシュの横に身体を投げ出した。
「今日は寝てなよルルーシュ。明日たっぷり、可愛がってあげるからさ」
「スザク…」
「僕の気が変わらないうちに寝て。僕はまだまだ楽しみたいんだから」
わざと低い声で告げるとルルーシュは大袈裟に身を竦ませて、こちらに背を向けた。
すぐに、苦しげな寝息が聞こえてくる。
ルルーシュは随分従順になった。
もう少しだ、もう少しでルルーシュのなにもかもが手に入る。
明日からの日々がまた楽しくなることを予感して、僕は嗤った。



気違いのように嗤い続けていた。











>DVスザクは楽しむためにルルーシュを整備するのを怠りません。

『ツキアカリイノリウタ』6~フライト~

白む空、冬の海は波が荒くて、引き込まれるようだった。



『ツキアカリイノリウタ』6~フライト~



モノクロの水平線に、微かに朱が混じり金が輝く。
瞬く間に紫に赤に染まっていく空に気付き、ルルーシュが歌を途切れさせた。
「…陽が昇るな」
歌声の余韻を引きずる甘い声音。
音に酔うように浸っていたスザクの顔に、海辺の寒風が吹き付ける。
うたを歌い、話をして、また歌い。気付けば大晦日の夜は明けて、元旦の朝日が昇ろうとしていた。
赤々と染まる空と海に、スザクは感嘆の息を吐く。
「すごいね…海で見ると夜明けって、こんなに綺麗なんだ…」
遠い波間に煌めく金色。強い風に煽られた雲が流れて行く、ゆっくりと…ゆっくりと、太陽がその身を天に立たせようと上がってくる。
夜が終わる。
新しい年が、はじまる。
スザクは意識しないまま、飛行の旋律を口ずさんでいた。
明るい声が紡ぐ、明るい空の歌。
ルルーシュが少し驚いた表情で、スザクを見詰めている。
視線に気付き急に照れ臭くなって、歌うのを止めた。
波が奏でる音が、風が奏でる音が強くなる。
「明けまして…おめでとう」
誤魔化すように低い声で、告げたのは新年の挨拶だった。
急に歌を披露してしまった処為で照れてしまって、紫水晶を見ることが出来ない。
やがて花が開くように、ルルーシュのかんばせに笑みが広がった。
「明けましておめでとう、スザク。お前…思ってたより歌、上手だったんだな…」
もっと聴きたかったのに、どうして止めるんだとルルーシュは笑う。
その声にからかう様子は無くて、朝焼けに紅潮を紛れさせるように海へと顔を向けたスザクは溜息を吐いた。
「君に歌が上手いって言われても、なんか恥ずかしいよ」
「どうしてだ?お前の歌声、気持ちがよかったのに」
驚いてルルーシュを見た。
黎明に包まれる華奢な姿は美しく、嬉しそうに微笑っていた。
「やさしい…優しい声だ」
暖かくなる。生きている声だとルルーシュが言う。そんなに褒めちぎらないでと、スザクは益々顔を赤くした。
うたが好きなルルーシュの言葉に嘘がない、素直な言葉だと云うことはなんとなく、理解できたけれど…そのぶん余計に、恥ずかしい。
「…今の歌、俺も知ってる」
「え…?」
自分が知っているくらいだからルルーシュが知っているのは当たり前だと、そう思いながらもスザクはその真意が掴めずにルルーシュを見た。
煌めく紫水晶と翡翠が絡み合う。
隣に並ぶ位置へ移動して、ルルーシュはスザクを見詰めた。
「やっと目線、合わせてくれたな」
とても嬉しそうに、彼は笑みを深くした。今日はずっと視線を合わせてくれなかったと、呟いて。
「ルルーシュ…?」
すぐ近くで見詰めているその頬に右手を触れさせて、名前を呼ぶ。
ルルーシュは笑っているのに泣いてしまいそうな顔で、それがひどく切なかった。
「もっと…もっと聴きたい」
お前の声。もっとずっとと、テノールが紡ぐ。
ほんの僅かに瞳を潤ませて、ああ泣いてしまうとスザクは思った。
ずっと不思議だった。
ルルーシュは何を憂いているのだろう。
何故悲しいメロディを好んで歌うのだろう。
どうして泣かないのだろう。
「…ルルーシュ、」
尋ねようとしたのか、何か言おうとしたのかも解らないままただ名を呼んで、言葉に詰まる。
頬に触れたままの手にそっとルルーシュの手が重ねられて、ぬくもりを確かめるように握られる。
ごう、と海風が吹き抜けて、髪をコートを、ルルーシュのマフラーを大きく揺らした。
一度目を閉じ、また開いた彼の瞳は泣きそうなまま、けれど潤んだ名残を消していて。
思えばルルーシュはずっと、何処か泣きたいのを我慢しているような瞳をしていたのではないだろうか。
彼は何を、何を思っているのだろう?
「ルルー…っ」
不意に軽く手を引かれた。
柔らかく微笑んだまま身を翻したルルーシュに引っ張られて、前に出る。
きゅっと手を繋がれたまま、波打際へと連れて行かれた。
きらきらときらきらと、いよいよ空へと昇りくる陽の光。
金色の波が輝いて、眩しさに目を瞬かせればルルーシュが笑う。
そうして不意に、ルルーシュは大きく息を吸い込んだ。
(えっ…)
紡がれる、さっきスザクが歌った旋律。
空へ向いて歌っているのに、彼のうたはスザクへと向けられていた。
確かめる必要もない程、そう感じられた。
「いっしょに」
歌の切れ間、ルルーシュが言う。
一緒に歌おうと。
自分とは比べものにならない歌声に合わせるのはとても恥ずかしかったけれど、スザクはゆっくりと、声を放った。
高く低く、合わせる声。
海を空を見据えたまま、二人並んで…飛ぶように、歌う。
世界中に響けと、いつしか思いを乗せて、微笑みながら響かせる、うた。
アップテンポなロックチューンを二人で、夜明けの海辺に刻んでゆく。

悲しみも喜びもさあ、溢れるくらい詰め込んで……

そのフレーズに、スザクは文字通り想いを詰め込んだ。

僕らは、飛べるさ…

長く尾を引く、歌の終わり。
そうだ、僕は
僕はルルーシュの、隣に居たいと思ったんだ。
胸の中ですとんと、ずっと引っ掛かっていた何かが落ちた。
朝日が、初日が顔を覗かせる水平線。
海でも空でもなくルルーシュを見詰めて、スザクは笑った。
肩の力を抜いて、自然に。
晴れやかに。

「…君が好きだよ、ルルーシュ」

好きなんだともう一度声に出して、視線を絡ませる。
見開かれる瞳、至近距離で瞬く長い睫毛。
触れ合わせた唇をそっと離して、スザクは微笑んだ。

「君のことが、好きだ」

金色の光が、辺りを照らし出していた。

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