壽祝桜四月大歌舞伎 昼の部 観劇 | 栢莚の徒然なるままに

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今回は私自身初となる明治座の観劇の記事です。

 

壽祝桜四月大歌舞伎 昼の部 観劇

 

 

客席

 

 今月は壽祝とあるように明治6年に明治座の前身に当たる喜昇座が開場してから150年目という節目の年である事から6年ぶりとなる歌舞伎公演となりました。

 

 喜昇座についてはこちらをご覧下さい。

 

義経千本桜 鳥居前

 

主な配役一覧

 

佐藤忠信実は源九郎狐…愛之助
武蔵坊弁慶…歌昇
静御前…千之助
亀井六郎…男寅
逸見藤太…種之助
源義経…吉弥

 

まず最初に上演された義経千本桜の鳥居前は二段目の序に当たり四段目の河連法眼の館に繋がる序章に当たります。

 

四の切を観劇した時の記事 

 

この段を見れば何故静御前が鼓を持っているのか、その鼓がどういう意味合いを持っているのか、そして狐忠信と本物の忠信の件を理解しやすくなる一幕でもあります。(因みにここに出てくる忠信は狐忠信)

逆に言うとこの場だけだと四の切を見ている人以外には意味が分からずただ忠信の立廻りを見るだけの演目になってしまう欠点があります。

個人的に今月の明治座の演目の中で正直言って選んだ理由が全く理解出来なかったのがこの演目で今月はこちらのみ出演の愛之助の為だけに拵えたのでは無いかと思いました。

仮に愛之助の出し物だとしても芸幅が広い彼ならば鳥居前でなくても他にも幾らでも出せる演目はあるので翌月の歌舞伎座に被ってはしまいますが宮島のだんまりとかあるいはいっその事、明治座開場150年に因んで次の大杯觴酒戦強者と共に慶安太平記の堀端の場でも上演すればまだ格好が付いたのでは?と思ったりします。

ただ、1つ言っておくと愛之助の忠信は非常に押出しも強く、科白も力強く初役とは思えない位に充実した出来ではありました。それだけにもしやるとすれば取って付けた鳥居前だけではなくその後の道行初音旅四の切も合わせて上演してくれれば昼の部はそれだけも良かっただけに返す返すもこの中途半端さが歯がゆく感じました。

 

大杯觴酒戦強者

 

主な配役一覧

 

足軽原才助実は馬場三郎兵衛…芝翫
内藤紀伊守…幸四郎
小姓木村采女…莟玉
同 松浦主水…歌之助
平岡治右衛門…松江
井伊直孝…梅玉

 

続いて大杯觴酒戦強者は河竹黙阿弥によって書かれ明治14年5月に猿若座(中村座)で初演された時代物の演目になります。

こちらは言うまでもなく明治座の経営者兼座頭となった初代市川左團次の為に書かれた物で酒に酔った立ち振る舞い、大名相手にも遠慮会釈ない豪快さ、正体を知られてからの肚の演技や立廻りなど左團次が得意とする演技を詰め込んで書かれていて慶安太平記と並んで左團次が得意とし何度も演じた高島屋のお家芸となります。

 

延若が演じた浪花座の筋書 

 

 

吉右衛門が演じた明治座の筋書 

 

 

初代の息子の二代目左團次が演じた本郷座の筋書 

 

二代目市川左團次の馬場三郎兵衛

 
さて、明治座所縁の演目という事での上演でしたがまず断っておくとこの演目、書かれた理由の1つは上記の通り左團次の為ですが、もう1つ理由がありそれは初演時に井伊直孝を演じた二代目市川権十郎の為でもありました。
 
二代目市川権十郎

 
彼は上方出身ながら左團次と似て新作物に強みがあり立廻りが大好きという芸風でした。そんな似た芸風の2人の為に書いたのがこの演目であり、逆を言えば馬場三郎兵衛と井伊直孝の配役で出来の8割は大体決まってしまう言わば鈴ヶ森にも近い性質を持っています。
それを踏まえての今回ですが芝翫の馬場三郎兵衛は実にピッタリであり酔態の無様さ、呂律の回らない科白廻し等も上手くで直孝との対面での酒を前にした嬉しさや呑みっぷり、更には馬場三郎兵衛と見抜かれてからの立ち振る舞い共に今の歌舞伎役者で彼以上の三郎兵衛役者は望めまいと思える位の上出来でした。
しかし、直孝役の梅玉はと言うと確かに風格、人品の良さ、懐の深さはよく出てますがどうにも大坂の陣で三郎兵衛と相見え彼の主家武田家の遺臣を取り纏め井伊の赤鬼を率いる頭領らしさには見えない部分がありともすると最後の手合わせも酔った勢いでの勝負ではなく優しさで片八百長でわざと負けて内藤家及び三郎兵衛に花を持たせた様な感じにも見えてしまいました。
個人的な考えでは直孝役は
 
・動ける
 
・柄に恵まれれている
 
・風格もそれなりに必要
 
という役だけに故人を勘定に入れれば吉右衛門が最適な役ですが今の役者で直孝役を望むとなると
 
・彦三郎(本命)
 
・松緑(対抗)
 
・猿之助(大穴)
 
かなと思います。この3人は生憎FFX歌舞伎や歌舞伎座の方に出ているので望み薄でしたが強いて言えば昼は空いている松緑が掛け持ちで出てくれればと思いました。
とはいえ、芝翫の三郎兵衛は素晴らしいのは疑いようなく、昼の部では一番の見物はこの演目だったと思います。
 

お祭り

 

主な配役一覧

 

鳶頭梅吉…梅玉
町娘お玉…莟玉
若い者公造…男寅

 

最後のお祭りは古臭い言い方で言えば追い出し舞踊で梅玉が直孝役から直ぐに真逆の鳶頭として出てきます。

梅玉の養父である六代目中村歌右衛門は舞踊の名手として鳴らした人だけに彼もその薫陶を受けた事だけあって下手な訳がなく肩の力を抜いた様に軽々と踊りを見せてくれました。

今回町娘に芸養子である莟玉を出したのは「見て覚えろ」という意味合いもあったと思いますが同年代の役者で今踊れるのは他に玉三郎くらいなので貴重なこの機会を無駄にしないで欲しいと思います。

ただ、一点だけ苦言を呈するなら明治座開場150周年のくすぐりを入れるのは良いとして前の大杯觴酒戦強者でも入れている事から印象がボケがちになってしまっている点です。これは祝祭の意味も込めてこちらで言うだけの方が良かった気がします。

 

この様に苦言は書きましたが内容としては大杯觴酒戦強者は新鮮味でも芝翫の出来栄えの点からも一見の価値はあり、鳥居前も愛之助の出来だけは良いだけに決して1等席を買っても損はしないと思います。

 

夜の部も続けて見たのでそちらの記事は次に紹介したいと思います。