壽 初春大歌舞伎 第二部観劇 | 栢莚の徒然なるままに

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皆さん、明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

 

早速ですが新年一発目の記事は歌舞伎座の観劇の記事です。

 

壽 初春大歌舞伎 第二部鑑劇

 

 

コロナ体制下に入って初の初春大歌舞伎とあってどう変わるのか気になりましたが、蓋を開ければ昨年以降からは大した差は見られずいつもの三部制という感じでした。

 

座席は1階の真正面とあって大変見やすかったです。

 

 筋書

 

第二部

夕霧名残の正月

 

まずは昨年12月に88歳で大往生した四代目坂田藤十郎の追善狂言です。

私自身藤十郎は2017年11月の顔見世と2018年の高麗屋三代襲名の計2回しか見ていませんが完全に声が出てない台詞廻しは兎も角、新口村の忠兵衛と園生の前の両方の役は今でも印象深く残っています。

 

主な配役一覧

 

藤屋伊左衛門…鴈治郎
扇屋夕霧…扇雀
太鼓持鶴七…亀鶴
同  亀吾…虎之介
同  竹三…玉太郎
同  梅八…歌之助
扇屋番頭藤兵衛…寿治郎
扇屋女房おふさ…吉弥
扇屋三郎兵衛…又五郎

舞台には成駒家のイ菱の家紋が入った暖簾に建物の柱には外題と「中村鴈治郎、中村扇雀相勤め申し候」という札がかかり嫌が応にも追善演目である事を強調していました。

演目としては初代藤十郎が夕霧が亡くなった翌月に初演した演目です。初代没後に台本が散逸し幻の演目となっていましたが亡くなった藤十郎が襲名に当たり新たに作った新作となります。また鴈治郎自伝にも書きましたが中村鴈治郎家は今回正に舞台となっている妓楼扇屋の子孫に当たり、初代中村鴈治郎はその血縁もあってか盛んに廓文章で伊左衛門を演じており言わば二重の意味でお家芸となっています。

 

初代中村鴈治郎の伊左衛門

 

 

内容としては廓文章の後日談に当たり、夕霧の死後四十九日の日に夕霧の死を知らない零落した伊右衛門が訪れて夕霧の幻に出逢い夢の中で踊るという丁度公演中に四十九日を迎える藤十郎の追善には打ってつけの演目と言えます。

3階の名優のパネルにもひっそりと藤十郎が追加されていました。

 

実子の鴈治郎、扇雀を始め虎之介、亀鶴、玉太郎、歌之助など東西の成駒家、成駒屋の役者が顔を揃えたほか吉弥、又五郎も出演し花を添える形となっています。

内容がシンプルなだけにこれと言って見せ場がある演目ではないのですが、扇雀の夕霧が奈落に消えて舞台が明るくなると飾ってあった夕霧の裲襠が乱れている場面では思わず「ああ、藤十郎はもういないんだな~」と感じざるを得ませんでした。

強いて注文を付けるなら孫の壱太郎には是非とも出演して欲しかったですが、そうなると扇雀と役が被ってしまう為、仕方ないのでしょうがやはりそこは凄く気になりました。
 

 

仮名手本忠臣蔵

 

続く仮名手本忠臣蔵は高麗屋襲名披露でも行われた七段目祇園一力茶屋の場です。襲名披露では白鸚が由良之助を務めていましたが、今回は実弟の吉右衛門が務めています。因みに初代中村吉右衛門も七段目の由良之助を演じた事はありますが七段目での初代吉右衛門の本役は寺岡平右衛門であり、当代の白鸚、吉右衛門兄弟はこの前当代の幸四郎が図夢歌舞伎で共演した事で話題になった彼らの実父で「由良之助役者」と呼ばれた初代松本白鸚から学んで得意役としました。

 

初代松本白鸚の七段目の由良之助

 

主な配役一覧

 

大星由良之助…吉右衛門
遊女おかる…雀右衛門
鷺坂伴内…吉之丞
斧九太夫…橘三郎
寺岡平右衛門…梅玉

 

筋書を買って解説を見て驚いたのですが、コロナ対策なのかはたまた吉右衛門の健康面故なのかいつもの七段目とは違い前半部分の茶屋遊びの場面や力弥との密書のやり取りや九大夫との蛸のやり取りなど大幅にカットされていて伴内と九太夫のやり取りから始まる短縮版となっています。

その為か吉之丞も隈取もいつもより三枚目を強調していているなど変則的な始まり方の中で苦心している様子が伺えました。

 

平右衛門の梅玉は吉右衛門が由良之助を演じる際には幾度となく演じている事から安定した芝居運びで前の高麗屋三代目襲名の際の仁左衛門と比べてみると年齢は感じさせるものの柔らかみのある演じ方は仁左衛門とは違った面白みがありました。

 

一方おかるの雀右衛門は先代の一周忌の際に初役で務めてから都合四回目で前回見た玉三郎と比べると色っぽさ、遊女らしさは流石に劣るものの、何処か遊女慣れしていない様な生娘に近い感じは逆に本文通りに近くこれはこれでありかなという気がします。

何よりここ近年吉右衛門の相手役として数々の大役を演じてきたせいか吉右衛門との相性は抜群で格別大当たりはしない代わりにコンスタントに安定した芝居をやってくれるので吉右衛門としてみればやり易いのだと思われます。

 

さて肝心の吉右衛門ですが、まず前半部分が丸々ないせいか密書の受け渡しでの本心を垣間見せる場面がない分由良之助がただのプータローに見えない様に密書を読む場面ではおかるの簪を落とす音に一瞬、目に力が入り次いで密書の一部が破れているのを知り懐紙を投げて九太夫が軒下に隠れているのを知った瞬間に目を緩めてすぐ様作り阿呆みたいに戻る部分やおかるに密書を読んだか詮索している場面での目が笑っていない演技は僅かな変化でしたが流石の演技力でした。

しかし、10月に手術を受けた影響なのか九月の時と比べても声量が一回り小さくなった印象を受けました。台詞廻しは上手いだけに台詞が聴こえない事は無いのですが本心を表して九太夫を責める場面も感情を爆発させる場面にも関わらず高音部分がややか細く聴こえ気になりました。

吉右衛門もまだ実兄の白鸚が健在とはいえ既に76歳ともうすぐ父方の祖父である七代目松本幸四郎の没年齢(78歳)に手が届くようになりました。

コロナ下での緊急事態宣言で貴重な半年間を何も出来なかったとはいえ、健康面には十分注意して延期になっている十三代目襲名には是非白鸚と共に長老の一人として出演して欲しいと思います。

 

やはり、前半部分が無い分物足りないのは否めませんでしたが上演時間に制限がある中で、しかも追善狂言もあり出演者も限られている今では致し方ないと言えます。

個人的には完全な形の七段目を演じてほしいのは言うまでも無いですが、一年前に延期となった籠釣瓶花街酔醒を配役そのままで4月辺りに是非やって欲しいです。

 

初日を前にして東京都が緊急事態宣言を要請するというアホな事をやったせいで千秋楽まで公演を続けるのか雲行きが怪しくなってきましたが時間に余裕のある方は見れなくなる前に今回紹介していない一部や三部も含めて一度ご覧になられる事をお勧めいたします。