なにしてんだろ | Nairobi Today

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ナイロビ → 横浜 → バーゼル → 東京 → 軽井沢 → マニラ → バーゼル → カイロ

数年に一度、ひょんなタイミングで

不思議な感覚に襲われます。

 

最初に感じたのは、ケニアでのこと。

義父の家に関する手続きで

ナイロビの少し郊外にある自宅から

街の中心部にある弁護士事務所に

なぜか私ひとりで出向くことになり、

 

よく知らない運転手と二人きり

ガタガタの道に車を走らせながら

窓から見える小さな露店や

風に舞う赤土やジャカランダの花や

寝転がっている犬やヤギや

歩いていく牛やマサイの人たちを

眺めていました。

 

そしてふと思ったのです。

「私、こんなところで

  家の権利書持ってなにしてんだろ」

 

 

二回目は、スイスでのこと。

娘が生まれて数か月後に

夫の家族が遊びに来てくれました。

 

スイスらしい山岳風景を見てもらおうと

ルツェルン近郊のリギ山に行きました。

登山電車で山頂のホテルに着き、

散歩がてら軽いハイキングへ。

 

赤ん坊連れの私は

途中でよさそうなベンチを見つけたので

みんなが帰ってくるまでそこに座って

待つことにしました。

 

穏やかな春の日で、

太陽の光はやわらかく降りそそぎ

さわやかな風が吹き小鳥が歌い、

遠くにはまだ雪をかぶった山々や

ふもとの村の小さな教会の尖塔が

きらきらと輝いていました。

 

そして腕の中ですやすやと眠る

娘の顔を眺めながらふと思ったのです。

「私、こんなところで

 赤ん坊かかえてなにしてんだろ」

 

 

三回目は昨日。

日本から持ってきたピアノの調律を

フィリピンで初めてお願いしました。

 

調律師の方がピアノを開けて

ひとつひとつ音を確認しながら

弦の張力を調整していく作業を

しばらく見守っていたのですが

ふと目をあげると窓の外には

熱帯のぎらぎらした日差しと

マニラの高層ビルとゴルフ場が。

 

そしてふと思ったのです。

「私、こんなところで

 ピアノ全開でなにしてんだろ」

 

 

別に否定的な感情ではなく

あー遠いところまで来ちゃったな、と

ちょっと他人事みたいに思うのです。

次はどこで思うのか、

楽しみでもあり、ちょっと怖くもあり。