江東区役所を訪れ、区立 有明西学園の「木造・木質化」の取り組みを視察しました。



有明西学園は小中一貫の新設校で、その校舎のコンセプトである、

「木のぬくもりを活かした学び舎づくり」、

「豊かな学習環境を創出する空間づくり」、

「災害に強く、人・環境にやさしい学校づくり」、

を基にして、計画、建設されました。

校舎の中央には、2階から5階までの吹き抜けがあり、
木構造の柱や、木質化された壁に包まれた空間となっており、

子供たちは木の手触りや・温かさを感じることができます。

江東区の臨海部である有明地区では、埋め立て地に高層マンションの建設が急増し、新規住人の増加に伴う児童生徒数の増加から、学校施設の確保が課題でした。

そして、2020年に予定されていた東京オリンピック・パラリンピックの競技会場予定地と隣接していることから、開催を契機に、世界に江東区を宣伝するチャンスと捉えました。

また、江戸時代から貯木場を有し、木材の流通拠点として栄えてきた「木場」をかかえ、木材と関わりが深い文化を有する江東区では、

地場産業でもある木材をふんだんに活用した建築物は大きなシンボルになると考え、積極的に「木材利用推進方針」を策定してきました。

そうした状況を背景に、有明西学園は、通常の学校の約3倍ある、20,185㎡の敷地面積に、

鉄筋コンクリート造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄鋼造、木造、の地上5階建の学舎が誕生しました。

有明西学園の隣は2021年に開催された東京オリンピック スケートボードの会場があり、

江東区出身の堀米雄斗選手が男子ストリートの初代金メダリストとなり世界中の耳目を集めた会場です。

東京大会の競技中には有明西学園の校舎も映り、世界に配信され、江東区は大変盛り上がったとのことでした。

有明西学園の建設費は118億円で、50万円/㎡であり、

通常の学校の3倍の、面積、建設費、生徒数、維持費、とのことでした。

木の温かみを全面に出すために木造を取り入れた複雑な構造であることから、相当高額な建築費を予想していましたが、

建物面積を勘案すれば、町田市で建設されている通常の小中学校とそんなに大差ない建設費ですし、工事期間も短いと感じました。

江東区では、平成22年に施行された「公共建築物における木材利用推進方針」に基づき、「江東区木材利用推進方針」を定めています。

その中では、新築や改築の際に原則として、0.008立米/㎡以上の木材を利用をすることが定められていますが、

有明西学園の木材利用量は0.048立米/㎡であり、目標値の6倍にもなっています。

先進的な有明西学園は内閣総理大臣賞をはじめ、多くの各省庁からも表彰されており、あとは国土交通大臣賞だけとのことでした。

町田市議会で幾度となく木造・木質化による街づくりの魅力向上を訴え、町田市の「木材利用推進方針」の策定を求めてきましたが、未だに方針の策定にすら至っていません。



町田より断然、緑が少なく都会的な江東区の方が10年以上前から取り組み、このような素晴らしい木材利活用の実績を出している現状について、この圧倒的な差異は何なのだろうと考えてしまいました。

以前、木造は耐震性、耐火性でRC造より劣ると見なされてきましたが、
有明西学園は、竹中工務店の新技術の耐火集成材(燃エンウッド)の柱や梁を導入することにより、

建物の耐火性を、国土交通省認定の部材。
火災などの災害にも強く、木材の風合いを十分に活かした、木のぬくもりが感じられる学舎づくりに成功しています。

木造校舎になってからインフルエンザ等の風邪をひく生徒が他校に比べ大幅に少ないことは、木の吸湿性や調湿性などの特徴からではないかと言われています。

木造校舎を活用した環境学習では、子ども達からの

「こんなに沢山木を使うと森が裸になっちゃうんじゃない?」

の問いに対し、

実際に生徒達が長野県長和町に行き、植林体験、木材加工、森林見学、を体験することにより、
この木材を利活用する循環こそが環境にとって一番良いことに気が付く授業に繋がり、
毎年の授業の定番となったそうです。

子ども達の豊かな学習環境を創出する空間づくりの工夫として、木材の柔らかな感触に包まれた吹き抜けの「木の回廊」では、

2階から5階の図書館に向けての壁面に世界の様々な言語で挨拶の言葉が記されていたり、
世界の偉人の格言が記載されていたりで、まるで図書館から言葉が降り注がれているかのようだとのことでした。

また、上の階に行くほど少し難しくなることから、5階の図書館を目指し、子どもの成長に合わせ言葉を探求していくように空間が仕掛けられているそうです。

有明西学園は、まさに校舎そのもの教材となっています。

有明西学園は、木造の懸念事項であった耐火性や耐震性を新技術によってクリアし、木の柔らかな感触、ぬくもりの中、子どもたちの最適な学習環境を創出していました。

全国からも大変注目されており、開校後5年経過しても、多くの視察団が訪れているようで、やはり成功事例には先を見据える眼と挑戦する意志が重要だと感じました。

我々視察団の時間的都合で、学校は授業中だったので、区役所での座学となりましたが、あっという間の視察に感じる程、見事なまでに面白く江東区の取り組みを教えてくださった、学校施設課の整備担当課長さんをはじめ、此度の視察を成立させてくださった関係者の皆様に心より御礼申し上げます。