青い目と関西弁 その2
前記事 使命 の続きである。
タイトルがなぜこれなのかは、読み進めていただくと分かると思いまする。
あれから5分ほど経っただろうか。救急車はまだ来ない。
その代わり、見物する人たちが増えてきた。
中にはわざわざ車を止め、降りてくる人もいた。
遠巻きに見る人、他の人と情報を交換する人、さまざまである。
道路に人が倒れたままの事故現場である、それも仕方ないな と思った。
もう一度、倒れている藤沢君の様子を見に行くことにした。
相変わらず数人に囲まれている。
まだ寒さに震えているようなら、何か対策をしなければ。
そんなことを考えながら、藤沢君の元へ向かった。
まだ寒さに震えているであろう藤沢君は、きっと地獄を味わっているに違いない。
そこにいる藤沢君は、恍惚の表情を浮かべていた。
彼はこの世の天国 にいた。
先ほどまで冷たい地面に横たわり、寒さに震えていた藤沢君。
その彼は今、女性の暖かい膝枕の上に頭を乗せ横たわっている。
その膝枕の持ち主は、先ほどの姉ちゃん3人組の一人だった。
他の二人も藤沢君、いや藤沢の顔や手を、そのしなやかな柔らかい手でさすっている。
手や顔をさすられながら、藤原はうっとりと目を閉じていた。
そのお姉さん3人組はこう相談した上での行動だろう。
寒いと言っているわ。
そうね、暖めてあげなきゃ。
でも、何もないわ。
そうだ!tvで見たあれをすればいいんじゃない?。
人肌であっためるのね!ナイスアイデア!!
お姉さんたちは
「まだ寒い?」
などと声を掛けながら、藤沢の体をさすっている。
そのことから考えてもきっとそうに違いない。
とっさにその行動を取れるお姉さんたちはすごくいい人たちだ。
今度お姉さんたちの店に飲みに行こう そう思ったが、私はお酒は飲めないので無理だ。
しかし、その光景を見てなんか腹が立った。
お姉さんたちにではなく、藤沢に対して である。
さっきまで 痛みに耐え、寒さに震えるかわいそうな好青年 だったのが、今は
美女三人に顔をさすられニタニタしている単なるエロ兄ちゃん になり下がっているのである。
今、藤沢の足の骨をたたき折っても、事故のせいに出来る。
「折ってやろうか」 本気で考えた。
道路の縁石に、五十嵐君が座っていた。
彼は、吐息の酒臭い酔っ払いのおっちゃん2人に囲まれている。
警察よりも前に事情聴取を受けているようだ。
事故の起きた状況から、五十嵐君の出身地、大学名まで聴取されている。それらの質問に答えながら、横目でちらちらと藤沢を見ていた。
お姉さん3人組に囲まれている藤沢と、酒臭いおっちゃんに挟まれた五十嵐君。
まさしく、天国と地獄。
ちょっと涙が出た。
ヘブンにいる藤沢は大丈夫だろう。
おっちゃん警察に事情聴取されている五十嵐君も大丈夫そうだ。
その場から離れようと横を向いた。
するとそこに、一人の外人さんが立っていた。メガネをかけ、ひょろっとした外人さんだ。
この寒空にTシャツと短パン姿だ。外人さんには季節感がない。
ヘブン状態で横たわる藤沢をじっと見ている。こっちを見た。私と目が合った。
ピンチ到来。
私は英語はあまり得意ではない。どっちかと言うと苦手なほうだ。
外見から英語ぺらぺらのように見えるらしいが、それは偏見だ。
案の定、彼も私が英語をしゃべれると思ったらしい。私の顔を見つめ何か話そうとしている。
仕方がない。こんな顔に生まれた私が悪いんだ。
そこの外人さんよ、何も理解できない私を許し給え。
ニコニコしながら貴方のしゃべる言葉を聞き、最後には
「アイムソーリー アイキャンノット スピーク イングリッシュ」
と答えることしか出来ない私を許し給え。
覚悟は決まった。
さぁ、そこの外人さん、流暢な英語で思いっきり質問するがいい。
私の覚悟を悟ったかのように、その外人さんは話し出した。
「なぁ、どないしたん~?」
なぁ、どないしたん??
一瞬、自分の耳を疑った。
あぁ、分かったぞ。この外人さんは
「ユーアンダスターン?」
と発音したんだ、きっと。それを聞き間違えたんだ。リアル空耳アワーだ。
外人さんは続けた。
「俺なぁ~、海軍病院に勤めてるねん。一応ドクターなんや。
あのあんちゃんは、どこか怪我してるん~?」
すごい強い訛りのある英語 である。
まるで日本語のように聞こえた。しかも、関西弁に聞こえた!
訛りの強い彼の英語 はまだ続く。
「なぁ、あのあんちゃんは頭打ったんか?なんか吐いた?
他にけが人はおるの?。」
訛りではない。
関西弁やんけ~!
こっちも関西弁で驚いた。声には出さなかったが顔には浮き出たはずだ。
私は、顔に浮き出た関西弁を隠しながら経過を説明した。
なぜか言葉が片言の日本語になってはいたが・・・。
一通り私の話を聞き終えると、関西弁を操るあんちゃんは藤沢の足を診察した。
あごに手を当てながら、何やらぶつぶつ言っている。
残念ながら、それが関西弁なのかは聞き取れなかった。
そっと、その場を離れた。
その場を離れたかった というのが適当だろうか。
離れてみていると、なんともすごい光景であった。
道路の真ん中に、ヘブン状態で横たわる藤沢。
それを取り囲み、藤沢の顔や手を撫で回してる3人のやさしいお姉さんたち。
さらにその傍らでは、外人さんが足を触り何かつぶやいている。
道路の縁石には、おっちゃん警察と五十嵐君。
それらを取り囲む数人の野次馬たち。
私もさっきまでその輪の中にいたと思うと・・・またちょっと涙が出た。
誰でもいい。私をヘブンに連れてってくれ。
忌々しいこの場所から早く開放してくれ給え。
遠くから救急車の音が聞こえてきた。パトカーのサイレンも聞こえてくる。
やっとこの場所から開放されそうだ。
五十嵐君。
バイク残念だったけど、怪我が軽くてよかったな。
自分のことより友達を気遣う君のことだ、これからはいいことが待ってるさ。
君のこれからの人生に 幸あれ!
お姉さん3人組。
貴方たちのその優しさに惚れてしまいそうでした。
これからもその優しさで、疲れた殿方を癒してやってください。
外人のあんちゃん。
外人は英語でしゃべる という偏見の目で見てしまってごめんなさい。
でも、この季節にはTシャツ短パンは寒すぎだよ。
おい、藤沢!!
ヘブンの時間はもう終わりだ。病院で痛い注射をしてもらえ!
怪我もたいしたことなくってよかったな、このやろう!
そう心の中で語りかけながら、家路に着いた。
救急隊員へはあんちゃんが説明してくれるだろう。流暢な関西弁で。
隊員が 関西弁だ と気づけばいいのだが、まぁ大丈夫だ。
玄関のドアを開けた。
おなかが グゥ となった。
あ、コンビニいくの忘れた。
今日は水飲んで寝よう。
関西弁を話すアメリカのTV番組の記事 を書いてたら思い出した事を
2話にわたってお送りしました。