ムター、ワイセンベルクのブラームス | geezenstacの森

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ムター、ワイセンベルクのブラームス

 

曲目/ブラームス

ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 作品78 

1.第1楽章 : ヴィヴァーチェ・マ・ノン・トロッポ 10:16

2.第2楽章 : アダージョ 7:18

3.第3楽章 : アレグロ・モルト・モデラート 07:45 

ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調 作品100 

4.第1楽章 : アレグロ・アマービレ 07:31

5.第2楽章 : アンダンテ・トランクイロ~ヴィヴァーチェ 5:48

6.第3楽章 : アレグロレット・グラツィオーソ(クワジ・アンダンテ) 4:59

ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ニ短調 作品108 

7.第1楽章 : アレグロ 7:19

8.第2楽章 : アダージョ 4:18

9.第3楽章 : ウン・ポコ・プレスト・エ・コン・センティメント 2:39

10.第4楽章 : プレスト・アジタート 4:59


ヴァイオリン/アンネ=ゾフィー・ムター
ピアノ/アレクシス・ワイセンベルク

録音/1982. 09  パリ・サル ワグラム

P/ミシェル・グロッツ

E/セルジュ・レミー

 

EMI  CDC7492992

 


 ムター19歳時の録音です。対するワイセンベルクは当時53歳。オリジナルLPは2枚組で フランクのソナタとのカップリングでした。ムターは2009年にDGにオーキスと3曲を再録音しています 。

 

 H.シェリングに師事し天才少女という名を欲しいままにしカラヤンとの共演で有名なムターと、シュナーベル、ランドフスカに師事し'50年代半ばからの活動休止から劇的復活を遂げたA.ワイセンベルクの共演です。ジャケットで見るとカラヤンとの初共演の時に比べると随分と大人になり、演奏も美しい音色はそのままに落ち着いた印象を受けますが、それでもまだ10代なのですから驚きです。ワイセンベルクの素晴らしいピアノとの語らい、魅力あるヴァイオリン・ソナタに仕上がっています。

 

 ヴァイオリンという歌う楽器の特質を理解したヴァイオリンに最もふさわしい音楽とアンネ=ゾフィ・ムターが語るように、歌うヴァイオリンの魅力を堪能できる1枚です。当時20歳のムターが巨匠アレクシス・ワイセンベルクと組んだ唯一の録音です。ヴァイオリンとピアノのデュオなのに、ピアノの音の強さは感じられず、ヴァイオリンの音色を消さないで引き立てているのは、流石ワイセンベルクと言えます。しかしながらムタ-の弓使いのテクニックは若いだけ有って非常に端切れが良いいものです。奇しくも、むたーもワイセンベルクもカラヤンと共に活躍しています。確かに音楽のベクトルも波長が合っていたのでしょう。ピアノがバラバラと弾く中で、大柄な感じのヴァイオリンが歌っていきます。二人のテンポ感がピッタリ来るのか、それぞれマイペースなのでしょうが、変に息があっています。ゆったりした雰囲気の中で、曲と演奏者の個性を感じながら時間が過ぎて行きます。健康的で明るく、女性的で優しい『ブラ-ムス』です。天才少女が大人になった豊潤な音色を聴かせてくれます。ワイセンベルクのメランコリックなピアノと相まってブラームスの世界観に浸れる名演、録音も優秀です。

 

ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調op.78 <雨の歌>

 「雨の歌」の通称は、第3楽章冒頭の主題が、ブラームス自身による歌曲「雨の歌 Regenlied」作品59-3の主題を用いているためにそう呼ばれていますが、実に穏やかな佳曲です。ブラームス特有のドロドロさが無く、爽やかな印象なので若い時代の作品かと思いそうですが、れっきとした円熟期の作品です。それにしてもなんという詩情に溢れた音楽なのでしょう。この曲を聴いていると、なんだか自分が詩人にでもなった気がしてきます。この曲の試演会には不倫恋人のクララ・シューマン夫人が同席したというが、ブラームスの彼女への恋慕心が曲に垣間見えるようです。秋の夜長に聴きたい曲です。

 

ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調op.100

 この曲もやはり穏やかな美しい旋律に満ち溢れた佳曲です。それもそのはずでブラームスがスイスの美しい自然の中で過ごした時に書かれた作品なのです。更にはこの頃ブラームスは歌手のヘルミーネ・シュピース嬢に恋していたそうです。そんな心境が反映されているのでしょう。第1番と第2番を続けて聴くと渋いブラームスですが、恋心にあふれたの心情を感じ取ることができます。若かりし頃なら絶対聞かなかった曲ですが、年を重ねると共にこういう曲が理解できるようになりました。(^_^;)

 

 

ヴァイオリン・ソナタ第3番二短調op.108

 この曲は1番、2番とはだいぶ曲想が異なります。穏やかさは影を潜めて、暗く内省的な部分と激しく高揚する部分とが交錯する、まさにブラームスの本領発揮の曲です。構成も4楽章でスケールが大きく、聴き応え充分です。それにしてもジャケットのムターはまだ19歳です。この色気はなんなんでしょうかねぇ。