ミュンヒンガー 四季 | geezenstacの森

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 ミュンヒンガーの「四季」

 

曲目/

ヴィヴァルディ/四季 作品8、1-4
1.第1番 「春」 No.1 : SPRING (10:54)(Alegro - Largo - Alegro)

2.第2番 「夏」 No.2 : SUMMER (10:59)(Alegro non molto - Adagio - Presto)
3.第3番 「秋」 No.3 : AUTUMN (12:10)(Alegro Adagio molto - Alegro)
4.第4番 「冬」 No.4 : WINTER (9:45)(Alegro non molto - Largo - Alegro)

 

指揮/カール・ミュンヒンガー(指揮)
演奏/シュトゥットガルト室内管弦楽団

ヴァイオリン/ウェルナー・クロツィンガー

 

録音/1958/05 ヴィクトリア・ホール、スイス

 

英デッカ SPA201

 

 
 昨日取り上げた、カール・ミュンヒンガーの四季をゲットしていましたので取り上げることにしました。この録音について調べてみると、ミュンヒンガーとシュトゥットガルト室内管弦楽団が、ヴィヴアルディの「四季」を最初にモノラルLP として録音したのは1951年でした。(米国でL P が登場したのは1950年春。) ヴァイオリン独奏はラインホルト・バルヒェットが受け持っていましたが、このアルバムは初め輸入盤として1952年ごろにはわが国にも少量がはいっていたようです。ffrr というロンドンのすぐれた録音で注目されましたが、このころはまだ録音特性がバラバラで標準のRIAAではなかったようです。
 
 日本プレスとしてこのLP が発売されたのは1958年(昭和33年) 6 月で、番号はLB - 13でした。そのころのベスト・セラーのーっとなったことは言うまでもありません。イ・ムジチの四季もまだ、このころはモノラルしか出ていませんでした。多分認識としてはこの頃はそれ以前にも「四季」はSP レコードとしていくつかあったようですが、この曲がわが国をはじめ、欧米でにわかに愛聴されるようになったのは、やはりミュンヒンガーのこのモノラルL P の出現が大きく貢献したことは間違いないところでしょう。
 

 この1958年はすでにステレオ録音はソースとしては登場していました。デッカも1954年ごろから試験録音をしていましたのでミュンヒンガーも直ちに「四季」を再録音しました。この録音は、1958年5 月にスイスのジュネーヴにあるヴイクトリア・ホールで収録され、わが国では1959年の2月28 日にSLB - 1 という番号で発売されています。この1958年というのはデッカにとっては転機でヨーロッパや米RIAAのステレオ・レコードの規格としてが45/45方式を採用したのを期に、自社で開発したV/L方式を断念し、西独テルデック社に45/45方式のステレオ・カッターを注文してカッティングを開始しています。そして、この番号からも解るように、これはキングレコードのロンドン・ステレオ盤の第1号でした。しかも前出のモノラル盤からわずか約9ヵ月後の発売で、ヴァイオリン独奏は、ウェルナー・クロツィンガーに変りました。

 

 ところで、ミュンヒンガーはシュ卜ゥットガルト室内管弦楽団とともに、"四季" の録音を英デッ力に3種残しています。
 1. 1951年モノラル録音 Vn ソロ バルヒエット
 2. 1958年ステレオ録音 〃  クロツィンガー
 3. 1972年  〃    〃  クルカ
このアルバムは、2の1958年録音のもので、翌1959年2月、ロンドン・ステレオの第1回のその第 1号(SLB-1)としてキングレコードより国内発売されました。勿論、日本での "四季" の最初のステレオ・レコードでもありました。ちなみにアーヨのステレオによるイ・ムジチ盤は1959年4-5月の録音でしたから発売はその後でしょう。

 

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 手元にあるのは英デッカ盤で、レコード番号こそはSPA201ですが、原盤はZAL4035-4Wというスタンプがあります。つまりはマスターテープから4回目のスタンパーで製作されたものという事で、オリジナルのマスターに近い音がするという事です。この最後のWはHarry Fisherというエンジニアがマスターを製作していることが分かっています。


 クロツィンガーは当時のシュトゥットガルト室内管弦楽団のコンサート・マスターであり、前回のバルヘットに優るとも劣らない流麗なソロを聴かせています。注目したいことは、このソロのステレオ音場での定位(位置)がやや左寄りにあるところです。これは実際の演奏会での第1ヴァイオリンの卜ップの位置で弾いていることを意味しています。当時のデッカはもう3本マイクでのデッカツリーでの録音を使っていたのでしょうか。どうも、最近の「四季」の録音では、ソロ・ヴァイオリンは中央に定位しているものが多いようで実際の演奏を聴くのとでは違和感がありますからねぇ。

 

 録音は最初にFFSSを最初に標榜したレコードです。それまではFFRRでしたからねぇ。スイス・ロマンド管弦楽団の使うホールで録音しているということは残響も含めて最良のバランスを狙ったのでしょう。演奏自体は全体に遅めのテンポで、「春」の冒頭からしてイ・ムジチの演奏とずいぶん違いかっちりとしたリズムでまさにドイツ的「春」です。一音一音しっかりと置いて刻んでいきながらヴィブラートはしっかりとかけています。テンポの遅さもあってフレッシュ感は全くありませんが、不思議なもので古臭いとか鈍重だと感じさせないところ枷この演奏の妙味でしょう。

 つづく「夏」も聞いた感じではギラギラ輝く太陽のイメージとはほど遠いのですが粘りのあるフレージングでじっとり蒸し暑い日本の夏を感じさせます。多分このテンポで今演奏されたら聴衆はびっくりするのではないでしょうかねぇ。この「四季」にはソネットがついていますが、その夏は次のようになっています。

 

‘かんかんと照りつける太陽の絶え間ない暑さで人と羊の群れはぐったりとしている。松の木も燃えるように熱い。カッコウの声が聞こえる。そしてキジバトの囀りが聞こえる。北風がそよ風を突然脇へ追い払う。やって来る嵐が怖くて慄く。”

 

 これは夏の第1楽章のものですが、まさにこの状況を描写音楽風に演奏しているのがこのミュンヒンガーなのでしょう。第3楽章などはヴァイオリンの一瞬一瞬の“間”に続いての絶え間ない音の連続が荒れる嵐を表現しているように聴こえます。

 

 また「秋」などは今の演奏だと特にすっきりメロディアスに演奏しうっとりさせてくれるものが多いのですが、ミュンヒンガーだと「春」と一切変わらず妥協無くあくまでヴァイオリン協奏曲として演奏しています。ここの第1楽章のソネットは

 

“夏の季節が終わり、嵐の心配もなくなった。小作農たちが収穫が無事に終わり大騒ぎ。ブドウ酒が惜しげなく注がれる。彼らは、ほっとして眠りに落ちる。”

 

 ってなもんてせ空かせ、多分ミュンヒンガーは葡萄酒をビールに置き換えて演奏しているように感じさせます。クロツィンガーのヴァイオリンは指揮者の要望にそい、オーケストラの一部となって「巧い」「美しい」ということも感じさせず「四季」の骨格として機能しているように思われます。特に第3楽章は極端な遅さの中で旋律線を浮かび上がらせながらこの遅いテンポで「秋」の狩の様子を表現しています。

 

 この演奏でチェンバロは秋の第2楽章以外はあまり目立ちません。「冬」の第1楽章でも通奏低音としての役割に徹しています。まだ、この時代は自由闊達な即興演奏は考えられなかったのでしょうなぁ。よく単独で演奏される「冬」の第2楽章のラールゴもクロツィンガーは名旋律を緊張感を途切れさせずゆったりとしたテンポで聴かせてくれるのは見事です。技巧と音色勝負の今のヴァイオリニストでは無理な芸当でしょう。

 

 

 このレコードも下部に広告が掲載されています。サンプラー的なものとしては2ケタ台にさすがイギリスというべきブリテンのものとオペラのデッカという事でイタリアオペラものがラインナップされています。子のチョイス基準はちょっとわかりませんが、ルジェ―ロ・リッチのメンデルスゾーンやセルのヘンデルもの、そしてモントゥーのエルガーがシリーズに組み込まれています。果たしてこれらのアルバムはイギリスではあまり売れなかったので投入されたのでしょうかねぇ。

 

 

この他で取り上げているSPAシリーズの記事です。

 

 

 

 

ミュンヒンガー2回目の取り上げた録音

 

 

ミュンヒンガー3回目の録音