スペシャル・クワトロⅠ
愛知県立芸術大学+名フィル
ジョイント・コンサート
川瀬賢太郎(指揮/名フィル音楽監督)
愛知県立芸術大学管弦楽団(共演)
山本友重(コンサートマスター/名フィル 特別客演コンサートマスター)
プログラム
【県芸大単独演奏】 ▊ プロコフィエフ:交響曲第1番ニ長調 作品25『古典交響曲』
ショスタコーヴィチ没後50年記念⓵ |
【合同演奏】 ▊ ショスタコーヴィチ:交響曲第7番ハ長調 作品60『レニングラード』
名古屋フィルハーモニー交響楽団と愛知県立芸術大学のジョイント・コンサートが、3年ぶりに待望の開催となりました。指揮を務めるのは、名古屋フィル第6代音楽監督・川瀬賢太郎です。取り上げるのは、ショスタコーヴィチ没後50年という節目にふさわしい交響曲第7番「レニングラード」。第二次世界大戦さなかの1941年、ドイツ軍が包囲したレニングラードで作曲されたショスタコーヴィチ渾身の作品に、大編成の合同オーケストラで挑みました。川瀬は2016年、当時常任指揮者を務めていた神奈川フィルと、指揮者のポストを務めていた名古屋フィルとで、同曲の合同演奏を行なっている。今の時代に特別な意味を持つこの作品において、若き学生たちのフレッシュな感性と、名古屋フィルの円熟した響きが川瀬のタクトのもとで交差するとき、どのような化学反応が生まれたのでしょうか。
今回は会場が愛知県芸術劇場コンサートホールということで、やや狭いのがネックになっていました。名古屋市民会館はステージの奥域も広くまた座席数も多いので、このジョイントコンサートは満員御礼でした。ただし今回は愛知芸術大学の学生と言うこともあり、やや客の入りは悪かったように感じます。8割の入りでしょうかまたステージに乗ることができず、客席をつぶしての演奏となりました。また通常はステージの後ろの席も今回はパンダが入ると言うことで潰されてしまい、その分の客席も減っていました。
開演前の様子
コンサートの前半には、愛知県立芸術大学管弦楽団がプロコフィエフの「古典交響曲」を単独で演奏しました。元々は室内オーケストラでも演奏できる規模の2管弦楽団編成の曲です。キレの良い演奏を期待したのですが、本来はアレグロのテンポなんですが学生相手ということでテンポは遅くやや慎重な演奏になっていました。一つ一つの音は揃っているのですがテンポが遅いので音楽が流れていきません。本来は15分程度の曲なんですが、今回は楽章感の休息を含めて20分ほどかかっていました。
大学のオーケストラの中では芸術大学の学生たちですから、もともとアンサンブルには定評がありますから音は綺麗です。川瀬健太郎も的確な指示で音楽としては纏まっていました。ただ。全体としてはちょと古典すぎたかなぁというのが印象です。
後半は20分の休憩後スタートです。第1楽章だけで27分強と古典派の交響曲なら1曲分のボリュームの曲です。今回の編成です。で、今回はバンダの陣取るステージサイドのすぐ横で鑑賞しました。バンダはホルン4、トランペット3、トロンボーン3名というバンダが陣取っています。
こちらではすでに実績がありますから川瀬賢太郎はじっくりと腰を据えて曲を描いていきます。戦争の主題の小太鼓のリズムは最弱音から開始されました。小太鼓のリズムにのって楽器を変えながら12回繰り返される変奏も見事にオーケストラをコントロールしています。この曲は好きで、レコード時代から頻繁に聴いていますし、名古屋市民会館のフォレストホール2200席以上がありますが、そのホールが大音響に包まれました。ただでさえ編成が多い上に、数々の楽器が使われています。ここではその小太鼓も3台使われていました。先のピアノ協奏曲で使われたピアノも舞台上に残され、第2ヴァイオリンの後ろで演奏に参加しています。実演での楽器の積み重ねはそれこそ色彩感に溢れていて、オーケストラに指揮者の一挙手一動作に見入ってしまいます。そして、最後にオーケストラの全合奏による暴力的な侵攻が描き出されますが、2つのオーケストラの響きが相乗効果以上の迫力で聴く者を圧倒していました。とくにバンダを使った立体感のある金管の響きは真横で聞くと第迫力です。普段聴きなれている曲ですが、ホルンの4重曹はそれだけでも迫力がありました。
この楽章はこれだけでなく、この後再現部に入り、もの悲しげなファゴットの響きで奔走の悲惨さを描写していきます。まさにこの楽章だけで一つの音楽が完結してしまうような巨大さですが、川瀬賢太郎は微妙にテンポを揺らしながら大きなストーリーを描き出していて聴く者を飽きさせませんでした。この曲ではティンパニは窪田健志氏が叩いていましたが、そのアクロバティックなパフォーマンスにもしばしば見入ってしまいました。この席からは地の底を這うようなティンパニの響きは初めての体験で、こういう所が楽しめるのも演奏会ならではです。
第2楽章も陰影の濃い表現で、戦争の狂気さと民衆の苦しみを対比的に描いていきます。この曲では、2台のハープが実に効果的に使用されていることが分ります。ショスタコーヴィチの交響曲は有名な交響曲第5番でもそうですが、第2楽章がスケルツォという古典派とは違う構成で、聴く者を飽きさせません。
そして、第3楽章がアダージョとなり、通常はここで心地よくなって寝てしまうのですが、今回の演奏会、回りの人は誰も船をこぐ人はいませんでした。この楽章はショスタコーヴィチ特有のコラールの楽章で、雄大なコラールが奏されました。この楽章でもバンダが活躍して、普段聴くコンサートとは一味違う響きが楽しめました。所で、この交響曲は4楽章形式で書かれていますが、実際には第3楽章と第4楽章はアタッカで繋がっています。レコード時代はきっちり切れている演奏も多かったのですが、実演ではそういうところも楽しむことができます。今回は実演でそれを確認することが出来ましたし、指揮者をその表情で指示を確認できる様を手にとるように鑑賞できるのも面白いところでした。このクアトロシリーズはこののち高関健、小林研一郎、小泉和裕と続きますからその式と指示の出し方の違いをじっくり味わいたいと思います。
オーケストラを讃える川瀬健太郎
ただ、一つ残念だったのはこのコンサートホールは携帯電波抑止装置がついているのですが、どうも完璧ではないようで、近くの席でアイフォンのピコンピコンという音がずっと響き渡りせっかくのコンサートが台無しでした。こういうマナーを守らない観客はつまみ出して欲しいものです。これはアイフォンのバグのようでショウセイノアイフォンもこういう症状があります。もちろんコンサート中は電源をオフにしていますから大丈夫なのですがネットで検索してもメーカーはまともに対応していないようです。