第51回市民会館名曲シリーズ〈神奈川フィル+名フィル スペシャル・ジョイント・コンサート〉 | geezenstacの森

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第51回市民会館名曲シリーズ〈神奈川フィル+名フィル スペシャル・ジョイント・コンサート〉

演奏曲目
モーツァルト: ピアノ協奏曲第21番ハ長調 K.467*
ショスタコーヴィチ: 交響曲第7番ハ長調 作品60『レニングラード』
アンコール
チャイコフスキー/バレエ「白鳥の湖」より終曲

6/27(月) 6:45pm 日本特殊陶業市民会館フォレストホール
川瀬賢太郎(指揮/名フィル指揮者)
菊池洋子(ピアノ)*
神奈川フィルハーモニー管弦楽団(共演)

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 昨日は、名フィル指揮者にして神奈川フィル常任指揮者である川瀬賢太郎氏の縁で、史上初となる両団体の合同演奏が実現したコンサートに行って来ました。曲目は、時代も編成も異なる2つのハ長調の傑作を取り上げています。今回の演奏会、定期ではないので最初は知りませんでした。ひょんなことでネットで検索していたら、ショスタコーヴィチの交響曲第7番が検索で引っかかりました。これは是非とも聴きにいきたいと、最初に休みを確認してからネットでチケットを予約しました。名フィルが取り上げるのは多分2010年以来でしょう。この時は井上道義氏が指揮した第374回定期演奏会で取り上げていました。本当はこのコンサートもに行く予定をしていたのですが、残念なことにこの時は仕事の都合が付かず、行くことが出来ませんでした。そんなこともあって、今回は万全の体制で、最初に休みのスケジュールを立ててからチケットを手配しました。

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 で、よく内容を確認したら神奈川フィルとの合同演奏会となっていました。まあ、名フィルはトヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーンとの合同演奏を何度も経験してきていますからジョイントコンサートは慣れたものです。しかし、今回はフルオーケストラ同士が一つのステージで共演するとあって興味津々でした。多分定期演奏会ならチケットが取れなかったかもしれませんが、第51回市民会館名曲シリーズということで取れたのではないでしょうか。プログラムも第436回の定期演奏会と共通のものとなっていました。コンサートはほぼ満席状態で、4階席までびっしり埋まっていました。

 このコンサート、名フィルが6月25日には横浜へ行き、27日には神奈川フィルが名古屋にやってくるというスケジュールでした。モーツァルトはさすがに両オーケストラの選抜による演奏でしたが、ショスタコーヴィチは2つのオーケストラが1つのステージに上がるという、総勢130名の大オーケストラによる演奏会となりました。ピアノは川瀬氏との共演も多い菊池洋子さんでした。

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 前半のプログラムはモーツァルトのハ長調のピアノ協奏曲第21番です。ソリストの菊池洋子さんは2002年の第8回モーツァルト国際ピアノコンクールで日本人として初めて優勝した逸材です。そんなこともあり、モーツァルトを得意としていることが伺われます。当日は珍しくステージの編成表が配られました。これで確認すると、名フィルと神奈川フィルの混成だということが分るでしょう。モーツァルトのピアノ協奏曲の中では多分一番有名な曲でしょう。菊池さんはこの曲をOAKと録音していますので耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。CDでは自作のカデンッアを演奏していますから、このコンサートでもそれを披露しています。余程自信があるのでしょうね。

 演奏は粒の揃った音色で、ややくすんだ響きがモーツァルトとマッチしていました。共演も多いせいか川瀬氏との呼吸もぴったりで、熟れた演奏になっていました。テンポとしてはややゆっくりめで、一音一音をきっちりと確かめるような演奏となっていました。欲を言えばもう少し、丁々発止の掛け合いがあっても良かったかなという気が小生はしました。でも、演奏終了後はブラボーのかけ声も掛かっており、人気のほどが伺えます。

 さて、20分の休憩の後、後半のプログラムです。この時間、舞台の上では編成換えが分刻みで行なわれていました。何せ本来は3感編成ですが、この日は4管編成130名の大所帯です。ステージ表でも編成がデカイのが分りますが、実際のステージでは所狭しと椅子が並びます。モーツァルトは、名フィルの日比浩一氏がコンサートマスターでしたが、後半は神奈川フィルの石田泰尚氏です。

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 第1楽章から実に堂々としたテンポで開始されます。多分バーンスタインの演奏より遅いテンポです。このため、提示部の生命力に満ちた第1主題「人間の主題」が、力強く描かれます。小生としてはこの冒頭の処理、ツボにはまっていました。今まで、色々な演奏を聴いて来ましたが、イマイチ波長が合うものが無くスヴェトラーノフもコンドラシン、バルシャイのロシア組からバーンスタイン、ハイティンクもピンと来ませんでした。冒頭は唯一ゲルギエフ/キーロフ、ロッテルダムフィル合同に近いテンポです。ひょっとすると川瀬賢太郎はこの演奏を意識して演奏していたのでしょうかね。ここでは参考にその演奏を貼付けてあります。ともかくこのテンポで分厚い弦楽合奏で始まります。これだけで震えが来てしまいました。

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 第1楽章だけで27分強と古典派の交響曲なら1曲分のボリュームの曲です。川瀬賢太郎はじっくりと腰を据えて曲を描いていきます。戦争の主題の小太鼓のリズムは最弱音から開始されました。小太鼓のリズムにのって楽器を変えながら12回繰り返される変奏も見事にオーケストラをコントロールしています。この曲は好きで、レコード時代から頻繁に聴いていますが、実演を聴くのは初めてです。ただでさえ編成が多い上に、数々の楽器が使われています。ここではその小太鼓も3台使われていました。先のピアノ協奏曲で使われたピアノも舞台上に残され、第1ヴァイオリンの後ろで演奏に参加しています。実演での楽器の積み重ねはそれこそ色彩感に溢れていて、オーケストラに指揮者の一挙手一動作に見入ってしまいます。そして、最後にオーケストラの全合奏による暴力的な侵攻が描き出されますが、2つのオーケストラの響きが相乗効果以上の迫力で聴く者を圧倒していました。名古屋市民会館のフォレストホール2200席以上がありますが、そのホールが大音響に包まれました。芸文ホールではこうはいかないでしょうな。2群に別れた金管が左右ので掛け合いの効果も実演ならではの響きで大満足です。

 この楽章はこれだけでなく、この後再現部に入り、もの悲しげなファゴットの響きで奔走の悲惨さを描写していきます。まさにこの楽章だけで一つの音楽が完結してしまうような巨大さですが、川瀬賢太郎は微妙にテンポを揺らしながら大きなストーリーを描き出していて聴く者を飽きさせませんでした。この曲ではティンパニは神奈川フィルの神戸氏が叩いていましたが、そのアクロバティックなパフォーマンスにもしばしば見入ってしまいました。なかなかティンパニが目立つということは無いのですが、こういう所が楽しめるのも演奏会ならではです。

 第2楽章も陰影の濃い表現で、戦争の狂気さと民衆の苦しみを対比的に描いていきます。実演で初めて知ったのですが、2台のハープが実に効果的に使用されていることが分ります。ショスタコーヴィチの交響曲は有名な交響曲第5番でもそうですが、第2楽章がスケルツォという古典派とは違う構成で、聴く者を飽きさせません。

 そして、第3楽章がアダージョとなり、通常はここで心地よくなって寝てしまうのですが、今回の演奏会、回りの人は誰も船をこぐ人はいませんでした。この楽章はショスタコーヴィチ特有のコラールの楽章で、雄大なコラールが奏されました。所でこの交響曲は4楽章形式で書かれたい升が、実際には第3楽章と第4楽章はアタッカで繋がっています。レコード時代はきっちり切れている演奏も多かったのですが、CD時代ではそういう演奏は無くなりましたし、今回は実演でそれを確認することが出来ました。

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 最後のクライマックスのコーダへ向かっての盛り上がりも見事で、またまた、ティンパニのパフォーマンスに見とれてしまいました。いやいや、こんなコンサートが1回だけの公演というのはもったいなさすぎます(実際は川崎と名古屋で2回演奏されています)。まあ、こんな豪華な合同演奏はそうそうあるはずもありませんから、今回鑑賞することが出来て幸せでした。

 そして、更なる驚きは、アンコールが演奏されたことです。それも、この編成を生かすという意味で普段は取り上げられることの無いチャイコフスキーのバレエ「白鳥の湖」からフィナーレです。この曲ではハープが活躍しますからまさにうってつけの選曲でした。これも大満足して、6時45分に始まったコンサートは何と9次20分を過ぎての終焉となりました。最後はオーケストラのメンバーが出口で整列してお見送りをしてくれました。こんなコンサート年に何回もあるものではありません。大満足のコンサートとなりました。

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