フェリックス・スラトキン - Inspired
Themes From The Inspired Films
曲目/
1.The Song Of Delilah 2:44
2.Love Theme From "El Cid" 2:07
3.Forever Yours (From "A Man Called Peter") 2:34
4.Theme From "Francis Of Assisi" 2:15
5.The Prodigal Love Theme 2:09
6.Theme From "King Of Kings" 2:37
7.Nepheridi's Theme 2:37
8.The Song Of Bernadette 3:30
9.Love Theme From "Ben-Hur" 3:07
10.Rapture Of Love (From "David And Bathsheba") 3:07
11.Love Theme From "Quo Vadis" 3:08
12.Love Theme From "The Robe" 2:38
チェロ/エレノア・アラー
ヴァイオリン/エレーノ・ネウフィールド
指揮/フェリックス・スラトキン
演奏/ファンタジック・ストリングス
P:シィ・ワロンカー
E:アル・シュミット
リリース/1962
米リバティ LSS-14019
フェリックス・ストラトキンという名前を知っている人はかなりのクラシック通でしょう。レナード・スラトキンなら知っている人は多いでしょうが、彼はフェリックスの息子です。1950年台から60年代前半にはハリウッドでマルチに活躍したヴァイオリニストであり、指揮者でした。彼の録音は2020年にスクリベンダムから13枚組のCDボックスが発売されました。その中にこのスラトキンの詳しいバイオグラフィティが記載されています。そこから引用すると、
カーメン・ドラゴンと共に米キャピトル・レコードのクラシック部門を支えたスラトキンは、キャピトルでは主にオーケストラと弦楽四重奏でクラシック作品を録音したほか、フランク・シナトラの伴奏もおこなっていました。また、ポピュラー系アンサンブルへのアレンジ作品については、ドラゴンがキャピトル・レコードで先行していたため、スラトキンはリバティ・レコードでアルバムを制作していました。ここで取り上げているのはその時代の1枚です。
クラシック系
●「ハリウッド弦楽四重奏団」を結成。1939年から1961年までの22年間に渡ってコンサート活動のほか、キャピトル・レコードでレコーディングも実施。ベートーヴェンの後期カルテットなどで名声を博します。
●キャピトル・レコードで、「コンサート・アーツ管弦楽団」を結成&指揮してクラシック作品をレコーディング。EMIがキャピトルを買収した後は「コンサート・アーツ交響楽団」に改名。
●キャピトル・レコードで、「ハリウッドボウル交響楽団」を指揮してクラシック作品をレコーディング。
●グレンデール交響楽団に指揮者として客演。グレンデールはロサンジェルスの隣町で、カーメン・ドラゴンが常任指揮者を務めたオーケストラでもあります。
映画音楽系
●「ワーナー・ブラザース・オーケストラ」の楽員として、映画のオリジナル・サウンド・トラックを演奏。大恐慌の影響から抜け出せないでいた当時のクラシック・オーケストラに較べて高水準の固定給を支給される安定した雇用契約でした。
●「20世紀フォックス・オーケストラ」のコンサートマスターに就任し、数多くの映画のオリジナル・サウンド・トラックを収録。前職のワーナー時代よりもさらに待遇が向上。「20世紀フォックス・オーケストラ」はハリウッド最大のオーケストラでもあり、そこで最高の報酬を得ていたのがスラトキンでした。
ポピュラー系
●リバティ・レコードで、レコーディング用アンサンブルを結成&指揮してアルバムを制作。4つの団体名を使い分け、ポピュラー系楽曲や、映画音楽系楽曲、クラシック大胆編曲などを録音。4つの団体は、「ファンタスティック・ストリングス」「ファンタスティック・フィドルス」「ファンタスティック・ブラス」、「ファンタスティック・パーカッション」というもので、名前から音楽が想像つきやすいようになっていましたされた。
●フランク・シナトラのキャピトル・レコードでのレコーディングで、指揮者、ヴァイオリニスト、アレンジャーとして共演。オーケストラ伴奏から弦楽四重奏伴奏までおこなっています。
スラトキンの最後は、そのシナトラとの1963年2月のレコーディング・セッションの現場でのことで、椅子に座って演奏中に心臓発作に見舞われ、うずくまるようにして意識を喪失、ほどなく47歳の若さで亡くなってしまいます。
ですからこの録音は彼の晩年のアルバムということになります。アルバムタイトルは「感動的な映画作品」とでも訳せるのでしょうか。
タイトルが示すように「インスパイアされた」映画の音楽を収録しています。「宗教映画」という言葉がタイトルに使われることもあったかもしれませんが、おそらく販売成績はそれほど良くなかったでしょう。それにもかかわらず、これは1950年代と1960年代の人気宗教映画からの音楽で、マエストロのフェリックス・スラトキンによって愛情を込めて演奏されています。豪華な弦楽音楽や合唱を伴った sweeping 愛のテーマが好きな方には、見逃せないアルバムです。アレンジも素晴らしいです。私と妹は、これらのテーマを何度も聞いてきたので、最初の音でそれを認識できます......そしてほとんど誰でも、エルマー・バーンスタイン作曲の『十戒』からのネフェリディスのテーマのオープニングの旋律を認識できるでしょう。
このレコードでチェロ奏者としてクレジットされている「エレノア・アラー」はスラトキンの奥さんです。彼女はまたスラトキンが組織したハリウッド弦楽四重奏団のメンバーでもありました。要は夫婦でクラシックとポピュラーの世界で二股をかけて活躍していたということになります。でもって、スラトキンはヴァイイオリニスとでありながら指揮者でもあったわけです。下はフランク・シナトラと共演しているスラトキンです。
冒頭の「デリラの歌」はヴィクター・ヤングの作曲した「サムソンとデリラ」の音楽です。この頃の録音はステレオを強調していて、ここではヴァイオリン群が右チャンネルから聞こえるという変わったポジションで録音されています。2曲目はミクロス・ローザの「エル・シド」の愛のテーマ、3曲目は日本未公開の「ペテロ」という牧師の物語です。曲はアルフレッド・ニューマンが書いています。こういう珍曲が聞けるのもこのアルバムの特徴です。この曲あたりはストリングスが左チャンネルから音が出ていて違和感がありません。
映画にインスパイアされた美しいスコアのファンとして、私のお気に入りのアルバムの一つです!ここには、ミクロス・ローザ、ビクター・ヤング(素晴らしい曲「スティラ・バイ・スターライト」も彼が作曲しました)、アルフレッド・ニューマン、ブロニスワフ・カペル(印象的な「招待」の作曲家)、そしてこのアルバムに収められた「アッシジのフランシス」に取り組んだイタリアの作曲家マリオ・ナスシンベーネが紹介されています。おそらく、私が今まで楽しむ特権を持った中で、クオ・バディスの愛のテーマ(「リギア」)の最高のアレンジ/オーケストレーションです。
47歳で亡くなったスラトキンのキャリアは30年ほどでしたが、伝統的クラシックから軍楽、現代音楽、映画音楽、テレビ音楽にジャズ、初期ロックなどきわめて幅広いスタイルの音楽に日々対応していたその実力は非常に高度で、自身の弦楽四重奏団でのベートーヴェンの後期四重奏曲集の録音が高く評価されるなどシリアスな音楽での手腕にも素晴らしいものがありました。稀有な能力の持ち主だったと思われます。