パラレルワールド・ラブストーリー | geezenstacの森

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パラレルワールド

ラブストーリー

 

著者:東野圭吾

出版:講談社 講談社文庫

 親友の恋人は、かつて自分が一目惚れした女性だった。嫉妬に苦しむ敦賀崇史。ところがある日の朝、目を覚ますと、彼女は自分の恋人として隣にいた。混乱する崇史。どちらが現実なのか? ――存在する二つの「世界」と、消えない二つの「記憶」。交わることのない世界の中で、恋と友情は翻弄されていく。---データベース---

 

 まず例によってあらすじを紹介……したいのだが、これがなかなか難しい。並走する電車に乗っている女性に、ドア越しに恋をしていた主人公の敦賀崇史。ところが親友の三輪智彦が、まさにその女性を恋人の麻由子だと言って紹介してくるのです。嫉妬に苦しみ、思いを抑えきれない崇史……というのがまず、Aパート。敦賀崇史には麻由子という同棲中の恋人がいます。彼女を紹介してくれたのは親友の三輪智彦です。しかし、その智彦はアメリカに転勤になり、連絡がとれない……これがBパートです。

 

 この二つの世界が並行して描かれていきます。最初はSF小説だと思って読み始めましたが、ソリにしてはタイトルに引っかかるなあと思っていると、ウェイト的にはタイトルにあるラブストーリーというのが正解なんでしょう。そのパートAは

序章の山手線と京浜東北線の田端、品川間が同じ方向に、しかも同じ駅に止まりながら進んでいくというのは物語の導入としては、出色のものになっていて、かなり印象深いものになっています。東京の人間でなくとも最初、この区間を乗っていてこういう体験をした時はびっくりしたものでした。そして、その窓越しに彼女がいるという設定で物語はスタートします。

 

 ストーリー的には殺人事件も起きず、序盤は特に大きなミステリー要素もなく、タイトル通りの恋愛小説にようになっています。そして多声1勝な丞とそこまで読んでいた世界とは違うストーリーが展開されていきます。登場人物は一緒ですからこれは混乱を引き起こします。

 

 この作品も映画化されていますが、理解のしやすさでは映画よりも小説でしょう。小説は、序章から始まり、第1章から第10章まであります。その章には所々に「SCENE」が挿入されています。ここで文体が切り替わるのです。

SCENEでは一人称が「俺」で、無印(記憶改変後)では一人称が「崇史」になっていて、無印(記憶改変後)では津野麻由子たちに観察されているのが示唆されているのです。

 

 研究職とは言え『記憶の改編』を手にした人間は果たしてどう実用化するだろうか?というのがこの小説の肝になります。小説では研究所員の失踪事件が出てきます。これで少しはミステリーの雰囲気を味わうことができます。その事件を調べるうちに崇史は、自分もしくは智彦の身に同じことが起きているのではないかという疑いを持つ。さらにBパートではアメリカにいるはずの智彦の部屋が荒らされていたり、崇史を見張る存在がほのめかされたりするというサスペンス要素も登場して東のワールドが展開していきます。

 

 そして、最終章ではこのパラレルのような世界の真相が明らかにされていくのですが、440ページの大部な作品ながら一気読みしてしまいました。

 

 映画の「トータル・リコール」や「マイノリティ・リポート」が好きなことなら楽しめる作品です。