KULTUR SPIEGEL
ヘルマン・シェルヘン2
曲目/
ブラームス:交響曲第1番*
I. Un Poco Sostenuto - Allegro 12:41
II. Andante Sostenuto 10:33
III. Un Poco Allegretto E Grazioso 5:13
IV. Adagio. Piu Andante. Allegro Non Troppo Ma Con Brio. Piu Allegro 15:52
ストラヴィンスキー:「火の鳥」組曲*
I. Der Feuervogel Und Sein Tanz 3:30
I. Variation: Der Feuervogel 1:24
III. Reigen Der Prinzessinnen 4:26
IV. Höllentanz Des Königs Kaschtschei 3:54
V. Wiegenlied 3:36
VI. Finale 3:20
ラヴェル:ボレロ 14:46***
指揮/ヘルマン・シェルヘン
演奏/ウィーン国立歌劇場管弦楽団 *,***
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団**
録音/1952/10 コンツェルトハウス モーツァルトザール
1954/09* ウォルサムストウ・タウンホール
1957/06**
ブラームス:交響曲第1番/ラヴェル:ボレロ/ライネッケ:「ドンナ・ディアナ」序曲
モーツァルト:ピアノ協奏曲第15番
アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(pf)スイス・イタリア語放送交響楽団
ベートーヴェン:交響曲第8番/ストラヴィンスキー:「火の鳥」組曲
シェルヘンはベルリン生まれ、正規の音楽教育をほとんど受けずにヴァイオリンとヴィオラを独習し、ベルリンフィルやクロル・オペラなどで活躍しています。1910年指揮者に転向し、1912年にシェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」をベルリン初演。
1914年リガ響の指揮者になるもロシアの捕虜として抑留され1918年に帰国し、ドイツを中心としたヨーロッパ各地のオーケストラで指揮活動を行っています。ヒンデミットやクルシェネク、オネゲルなど現代音楽の初演も数多くあります。第2次大戦中はスイスに疎開し、ここを拠点に活躍していました。戦争終結後は南米やトルコへ演奏旅行を行うなど活発な活動を再開、また、新しいレコード会社ウェストミンスター・レコードに参加、1950年以降ウィーンで数多くのレコーディングを行っています。
シェルヘンの経歴を見ると、スター街道とは無縁の、どちらかといえば日の当たらぬ裏街道を歩んできた指揮者と言えそうです。 シェルヘンのブラームスの交響曲録音は、このスタジオ録音の第1番と、ライヴでは晩年のルガーノ響との第3番のみです。
この演奏はオーボエやホルンのウィーン風の典雅さのある独特の音色に加えて弦楽器も厚みがあり、この当時の録音に聴くウィーンフィルの音に近しいものです。第一楽章冒頭は快速の序奏です。普段こういうテンポの演奏は聞かないのですが、ちょっと別格です。重厚な響きの中にスピード感を兼ね備えた素晴らしい始まりです。9小節目のフォルテはあっさり終わらせて主部に入ってもそのままのテンポ。まあ、この時代としては異色の演奏でしょう。細かなクレシェンド、デクレシェンドも精密に再現していますが、当時の慣習でリピートはありません。
演奏は快速に飛ばした中での充実したオケの響きですが、ホールが700名ほどの規模ですから、オーケストラも演奏者数はかなり少なめです。それが元の響きには表れています。ただ、特色のあるウィンナオーボエの独特の音が美しく響きます。
第2楽章で聴かれるウィンナオーボエの息の長いソロはかなりの名人級の腕前です。
50小節めから加速。65小節はじめからのティンパニは67小節の途中でなぜか消滅。
第3楽章も遅いテンポで進んてせいきます。この楽章はリピートがあります。クラリネット、オーボエのソロが美しく、中間部では強引なほど緊張感を煽り立てます。ソロ・ヴァイオリンも巧く、当時ですからボスコフスキーの可能性もあります。
第4楽章序奏のアダージョはかなりゆっくりとした開始。普通の演奏は大体第1楽章と第4楽章は同じぐらいの演奏時間でシンメトリックな構造ですが、シェルヘンは上の演奏時間を見てもわかるように後半にウェイトが置かれています。ということで、ピチカートの旋律も重心は低めで、のたのアルペンホルンの響きはあまり作り込みはしていなくて割とあっさりの作り上げです。それでいて全体はゆったりとしたテンポで自然な加速でAllegroへギアを上げています。終結部ではタメはなくテンポそのまま怒涛の終結部へ一直線の猛烈な速さで情熱的に盛り上がりますが終結のブラスのコラールでもテンポは落とさずあっさりと終わります。このドイツ的重厚さとは無縁な演奏をドイツ人のシェルヘンが推し進めていくのですからそのギャップに驚かされます。
シェルヘンの「火の鳥」は収録されているロイヤル・フィルによる演奏と1957年1月録音のロンドンフィルによる演奏がありますが、どちらもモノラル録音ということが残念です。ただこちらの録音はレアらしく、同じウェストミンスターの録音なのですが、先年発売された「ウエストミンスター管弦楽録音集」にも収録されていませんでした。レコード番号はWestminster Laboratory SeriesでW-Lab 7032として発売されていました。
さて、最後はボレロです。通常は小太鼓の刻むリズムでひっそりとはじまるものですが、ここではどう考えてもプロヴァンズ太鼓を叩いているような音色で終始テンポを築いていきます。この演奏はまずね日野田から引き込まれてしまいます。テンポ自体はラヴェルの指定したテンポに近い速さで進んでいきます。結構いけてる演奏です。このアルバムでは唯一のステレオ収録になっています。