禁断の魔術
ガリレオ8
著者:東野圭吾
出版:文芸春秋
『虚像の道化師 ガリレオ7』を書き終えた時点で、今後ガリレオの短編を書くことはもうない、ラストを飾るにふさわしい出来映えだ、と思っていた著者が、「小説の神様というやつは、私が想像していた以上に気まぐれのようです。そのことをたっぷりと思い知らされた結果が、『禁断の魔術』ということになります」と語る最新刊。
「透視す」「曲球る」「念波る」「猛射つ」の4編収録。ガリレオ短編の最高峰登場。---データベース---
「禁断の魔術」とタイトルされた作品は過去に取り上げています。そちらは文庫オリジナルの長編で単独のガリレオシリーズの作品となっています。自分にとって今作で最も印象深かった台詞は「科学技術は使い方を間違えると『禁断の魔術』となる。」です。 正しく使えば、第二章のように野球選手の不調を科学的に解決できて、精神面も良くなるのに対し、復讐目的で使用すると、第四章の古芝のように、倫理を捨てた執拗な人間になってしまう、そんな恐ろしさがあると感じました。湯川は「無実の人間を傷つける」という意味で言ったと推測されますが、それだけでなく、「実行者自身も良くも悪くも、変わってしまう。」、その意味も含まれているのではないかと自分は感じました。面白かったです。こちらは単行本の「禁断の魔術」でサブタイトルに「ガリレオ8」とついているところがミソです。今のところ文庫化はされていないようです。以下の作品が収録されています。
第一章・透視す(みとおす)
草薙に連れられ彼の行きつけの銀座のクラブ「ハープ」に通った湯川は、そこでホステスのアイの接客を受ける。アイは湯川に出させた名刺を見ることなく湯川の名字を言い当てる透視の芸を披露します。一度はコートの裏側の刺繍を見たと推理して納得した湯川でしたが、帰り際にアイが自分の名前や職業まで言い当てたため驚愕します。
それから4か月後、そのアイこと相本美香が殺害されました。草薙達は顔見知りによる犯行として捜査にあたるりますが、美香は死者への同情を抜きにしても誰からも慕われる女性であり、トラブルといえば遠隔地に住む継母と確執があったことくらいだったので、彼女を殺す動機のある人物の特定に難航します。それでも、草薙達は美香の足の指の間に付着していた煙草の葉っぱを手掛かりに犯人を突き止め逮捕します。例の透視によって美香に横領を見抜かれたことが動機でしたが、その透視のからくりが判らず、行き詰った草薙は湯川に相談します。草薙から経緯を聞いていた湯川は透視の謎と、美香の抱える一つの問題に光を当てていくことになります。
第二章・曲球る(まがる)
プロ野球選手の柳沢忠正の妻・妙子がスポーツクラブの駐車場で撲殺されます。捜査の結果、アイドルグループの追っかけに必要な資金繰りのために犯行に及んだスポーツクラブの元警備員が逮捕され、事件のほうは解決します。しかし、妙子は殺害される直前にデパートで置時計を購入しており、その購入目的には柳沢自身も心当たりが無く、謎のまま残ります。野球選手としての限界を感じていた柳沢は、遺留品の置時計を返却しに来た草薙に話の流れで湯川を紹介され、湯川から投球フォームの科学的な監修を受けることになります。その後、柳沢の様子を見に来た湯川は彼の車から錆が出ているのを発見、その車が事件当日に妙子が乗っていたと聞いた湯川は草薙や内海と共に妙子の行動を調べ始めます。そして置時計購入の背景にあった妙子の想いが明らかになっていきます。
第三章・念波る(おくる)
都内に住む女性が帰宅時に襲われ、意識不明の重体となります。これを最初に知ったのは、被害者・磯谷若菜の双子の妹である御厨春菜だした。遠く離れた長野の自宅で姉からのテレパシーで事件を知り、犯人の顔のイメージも受け取ったと言うのです。捜査報告書にテレパシーなどと書くわけにいかない草薙と内海は、なんとか筋の通った説明をつけようと春菜を湯川の研究室へ連れて行きます。ところが、湯川は草薙たちの思惑に反して、本格的に春菜のテレパシー能力の研究を始めることにします。
第四章・猛射つ(うつ)
ある年の5月、一人の青年・古芝伸吾が理工学部物理学科第十三研究室を訪れます。伸吾は高校時代に湯川から科学を学び、その魅力に感銘を受けて帝都大学を受験、合格を果たし、湯川のもとへ挨拶にやって来たのです。しかしその日、伸吾の姉が都内のホテルで死亡したとの連絡を警察から知らされます。
約10か月後の3月、一人のフリーライターが殺害される事件が発生します。容疑者として捜査線に浮上したのは、湯川の教え子・古芝伸吾でした。伸吾は姉が死亡した直後に帝都大学を退学し、金属加工品製造会社へ入社したのですが、警察が捜査を始めた直後に失踪していたのです。その後の捜査で、古芝伸吾が殺人を計画していることが判明します。しかも殺人方法は、かつて湯川に教わった技術を改良したもので、すべては姉の敵討ちに起因していたことが明らかになります。教え子の後輩を救うために湯川が行動します。
文庫化に際して大幅に改稿して長編小説「禁断の魔術」とする際、単なる増補に留まらない設定変更も多々行われています。そういう意味では長編のための下書きという側面もありますが、細部で設定が変えられていることで、東野圭吾がどうやって話のプロットを膨らませているのかという原点を探る意味でも貴重な一話です。
この巻のタイトルは「総じての意味で「禁断の魔術」なんでしょうが、明らかにこの第四話がふさわしいということに読み終わると気付かされます。
この短編を読んでから、長編を読むと東野圭吾氏がいかに長編が得意な作家であることが理解できるでしょう。ここは是非、この短編を読んでから長編の「禁断の魔術」を読むことをお勧めします。
短編です。
長編です。
映像化作品です。