禁断の魔術
著者:東野圭吾
出版:文藝春秋 文春文庫
高校の物理研究会で湯川の後輩にあたる古芝伸吾は、育ての親だった姉が亡くなって帝都大を中退し町工場で働いてた。ある日、フリーライターが殺された。彼は代議士の大賀を追っており、また大賀の担当の新聞記者が伸吾の姉だったことが判明する。伸吾が失踪し、湯川は伸吾のある〝企み〟に気づくが……。シリーズ最高傑作!---データベース---
シリーズ第8作となるこの作品は、7作目からスピンアウトした作品で、単行本『禁断の魔術』では中編(250枚)「猛射つ」として発表された作品に、200枚超加筆する文庫オリジナル長編バージョンとなっています。
この文庫本、表紙の写真がガリレオシリーズの中では異色に感じたので調べたら、旋盤で鉄を削り出した断面の写真らしいです。やはり内容に相応しい表紙なんですなぁ。読んでいて文系の自分には最初湯川が高校生に何を教えていたのか見当もつかなかったのですが、中盤まで読み進めると朧げながら浮かんできます。物理学も金属加工にも興味のない人間でも途方もない装置であることがわかってきます。この小説ではすでにテレビドラマを見越した設定になっていて、最後のほうのビルの屋上でのクライマックス場面では、湯川先生は福山さん、内海薫は柴咲コウさんのイメージが重なってきます。
中編をを長編に書き直すということは思い入れがあった作品ということでしょう。冒頭では淡々とホテルでのシーンが描かれています。ホテルにチェックインした女性が、翌日着の身着のままでベットに横たわった死体で発見されますが、そこは血の海でした。当初は単なる病死として処理されてしまう事件です。場面は変わって、かつて湯川が指導した高校の物理クラブの後輩・古芝伸吾が帝都大に入学してきます。ところが彼は早々に大学を中退してしまいます。そして、いつしか町工場で働くようになります。と、ここで先のホテルで死亡した女性が古芝の姉だったのではと推理が働きます。こうして物語が大きく動いていきます。
その頃、フリージャーナリストが殺されます。その男は代議士の大賀を執拗に追っており、大賀の番記者が伸吾の死んだ姉であったことが判明します。草薙は伸吾の姉の死に大賀が関与しており、伸吾が大賀への復讐を企んでいると警戒します。湯川はその可能性を否定しつつも、伸吾が製作したある“装置"の存在に気づいていました。「私は君にそんなことをさせたくて科学を教えたんじゃない」――湯川と愛弟子の対決の結果は!?
政治ドラマとしての側面も持っているストーリー展開ですが、こちらの方はあまり問題視されていないのがちよっと物足りなさを覚えますし、他のシーンは細かく描写されているのに、古芝慎吾が失踪してからの足取りがほとんど描写されていません。また、中編では事件の目的地が光原市と記述されているのに長編では光原町と変更になっています。この格下げとも言える変更は何か意味があったのでしょうかねぇ?そして、内容的には代議士の大賀仁策にはなにも変化がなく、のうのうとしているのはリアルなことかも知れないけれど残念でした。リアルタイムなら多分文春砲もののスキャンダルでしょうけどね。